手の甲の冷たさは。
『私達、結婚します』
そう書かれたメモが、こたつの上に乗っていた。
こたつの中に足を突っ込んで寝ている香澄の顔を足で軽く蹴ると、むっくりと起き上がった。
「……おはよう、多恵」
「この紙、どういうこと?」
目の前にメモ帳を突きつけると、彼女の口の端が上につりあがっていく。
ああ、やっぱり悪戯だ。
どうせ、言い出すのは……。
予想をつけて、彼女が話すのを待つ。
「多恵……よく聞いて。私、この人と結婚することになったの……。彼ってばすっごく暖かいんだよ……」
「ほう、こたつはいつの間に人になったのか」
間髪入れずにそう言うと、さっきまで笑っていた口が尖り始めた。
明らかにバレたのが面白くないという顔をしている。
「まだオチ言ってないのに先取りするとか……」
ブツブツ言っている彼女を抱きしめる。
さっきまで極寒の外にいたせいで、私の服には寒気がまとわりついていた。
「あーっ!寒い寒い寒い!死ぬ!死にます!!死んでしまいます!!!」
知ってる言葉を全部並べている彼女をもっと強く抱きしめた。
「香澄ってば暖かいなー、結婚するー?」
「するするする!するから離して!」
とにかく離れようとする彼女の首筋に、右の掌をあてる。
「いやあああああああ!鬼いぃぃぃぃぃぃぃ!」
「暖かいなぁ……結婚する?」
「します!させてください!!」
「んー……聞こえないなあ」
左手も首筋に当てると、彼女はまた叫び声をあげた。
まだ手の甲には冷たさが残ってるな、と考えながら、私は彼女の『結婚する』という言葉をまだ聞けるのが楽して仕方ない、という顔をした。
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