卑怯な祈りを
「唯奈、これ作ったけど、食べられる?」
天井を見ながらぼんやりしている唯奈に声をかけると、ゆっくりとこちらに頭を動かした。
「早紀ちゃん、ありがと。でも、今は食べられないなあ。お腹すかない……」
切ない目でこちらを見る彼女に近づいて、私はその頭にチョップをした。
「そういう風に弱々しくなった演技してもダメっ!あれだけ『外に行く時はマスク付けなさい、帰ったら手洗いにうがいしなさい』って言ってたのに無視した挙句に風邪もらってきたおバカ女子にはしばらく反省してもらうからね!」
先程までの大人しさはどこへいったのかというぐらいに、元気な口調で唯奈が口を開く。
「だってさー!めんどくさいもんはめんどくさいじゃん。それにこうやってご飯食べないことで私のお腹にある脂肪がどんどん燃焼していってスリムになってしまうわけですよ!あー、こんな風に高度なダイエットする私に文句言うなんてのは変よ!むしろ褒められるぐらい!さあ、褒めて!」
「おめでとう、偉大なバカ」
「いやぁ……努力してない結果ですよぉ」
「……それだけ元気なら明日は仕事いけそうね」
「あー、アタマイタイ、ネツガハンパナイ、部長のハゲ見たくない」
適度に言葉を棒読みしつつも、最後だけは本音のようだった。
「とにかく、このご飯食べておきなさい」
「……はーい」
「じゃ、私は隣の部屋にいるから呼んでよ」
「すいませんねぇ、ルームシェアしてるとはいえ、こんな風にお母さんしてもらって」
「急にババくさく言わないでよ」
「誰がババアだ!」
「早く寝ろ」
少し強めに唯奈の部屋を出てドアを閉めると、そのままもたれかかった。
ドアの向こうで、彼女は強めの咳をしていた。
自分がどれだけ辛くても、道化を演じてしまう彼女の悪い癖。
それを知ってるから、彼女が弱ってる時には何もしないでそっとしておくのが1番だと頭の中では理解してる。
でも、我慢できなくなる。
自分の中にあるわがままな部分がたまらなく嫌になっていく。
だけど、心のどこかでそれを許している自分がいるのが、もっと嫌だった。
唯奈を独り占めできるのが、何よりも嬉しいから。
私は、彼女の咳の声をドア越しに聴きながら、自分を許すかのように天井を見上げ、何もない空中に祈りをささげた。
自分を許す、卑怯な祈りを。
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