天使の薬

恵那は、自分が飲んでいる睡眠薬を『天使の薬』と言っている。

「ねえ咲ちゃん、この薬を飲むと体がポワッっとしてきて、その内に天使の羽音が聞こえてくるんだ」

それが幻聴だと知りながらも、私は微笑んで彼女を胸に引き寄せて頭を撫でた。

「そっか、恵那はいい子だから天使が来るんだね」

「咲ちゃんには、来ないの?」

「私は悪い子だからね……来ないと思うよ」

「悪い子じゃないのに……」

何かを言いかけて、彼女はその天使の羽音を聞きに眠りの世界に落ちて行った。

「悪い子だよ、そう……悪い子」

静かな寝息をたてる彼女を布団に寝かせ、そのまま傍らに座る。天使の寝顔になっている恵那の写真を撮った後で、寝息をたてる唇を指で軽く愛撫して、つぶやく。

「だって、ずっとこのままなら……天使を独り占めできるって思ってるからね」

言い終えた瞬間、耳元でバサバサと羽根の音がした。

それが天使か悪魔かは……考えないことにした。


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