ノイズギターはピンク色

私と香奈が同棲し始めてどのぐらい経つだろうか。

お互いの適度な距離がわかり始めた私達は、言葉を交わさなくても分かり合えるぐらいに深い関係になった。


ある日のことだった、私は十数年ぶりに出たバンドの新譜を真っ暗な部屋の中で聴いていた。

ヘッドフォンから溢れ出す轟音に身を任せていると、ドアから一筋の光がこぼれた。


香奈だった。


私が音楽に集中してる時に話しかけると怒るのを彼女は知っていたので、私の姿を見るや「まずい時に入っちゃった」という顔をしていた。

それを見て、私が「何?」と口だけ動かす。

パジャマを着ているところを見ると、もう寝るから「おやすみ」とだけ言いに来たのだろう。

香奈は首を左右に振り「おやすみ」と、口だけ動かした。

こくりと頷くと、彼女は満足そうな顔をしたまま、ドアの向こう側の光の世界に溶けていく。

口元に笑みを作りながら、

「愛してる……なんて」

と言ってるのが丸見えで、ドアが閉じた後に少しだけ笑った。

先程まで聴こえていたノイズギターの轟音が、暖かみを帯びたような気がした。


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