背中が痛い

「ねえ、私がアンタを裏切ったらどうする?」

 困らせるような質問をさせたら、彼女は日本で一番だと思う。

 私が困る様な質問を平気でしてくるので、彼女が口を開く度に、頭が痛い。

 彼女が眠っているベッドの側面を背もたれにしているせいか、少しだけ背中も痛い。

「さあねえ、その時の私の気分次第じゃないかな」

「そういうの、ナシ」

 ベッドの上で少し動くと、その華奢な両腕を私の腰の辺りに回して、顔を私の耳に近づけた。

「ほら、早く教えて」

 媚びるように、誘うように、彼女がそう言う。

「そうね……ちゃんと殺してあげるわ、この手で」

 両手に自分の両手を重ねると、彼女が嬉しそうに手を動かす。

「うん……いいね……私、亜樹ちゃんになら殺されてもいい」

 耳元で、へへへと、小学生のように笑う彼女の声が聞こえたので、少しだけ顔を向けて、その唇を塞いだ。

 柔らかな舌が、少しだけ入り込んできそうになったので、おでこに手刀をして、引きはがした。

「今ここで、した方がいいの?」

「今は、嫌かな」

 彼女ははにかむように笑って、私に回していた手を離すと、またベッドの上に寝転がった。

 崩れてしまった体勢を立て直して、背中をベッドの側面に預ける。

 微かに残るキスの感触が消えないうちに、私は目を閉じた。

 彼女の夢が見られるように、と願いながら。


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