そんなことで

「アイス食べた」

 同居している智恵が二日ぶりに口を開いたと思ったら、その一言を発した後、再び黙った。

 沙也は「そんなことで」と言いかけて、この言葉は火に油を注ぐことになると察して、口を閉じた。

「じゃあ、同じアイス買ってこればいい?」

「……いらない」

「お菓子がいいの?」

「いらない」

 取り付く島もないとわかった沙也は立上がり、智恵を無理やり立たせると、跪き、彼女の両足にキスをした。

「貴女のしもべである私は、貴女に嫌われたら生きていけません……どうかお許し下さい」

 芝居掛かった声でそう言うと、満足そうに智恵は頷いて、歩みだした。

「沙也、コンビニ」

 後ろを少しだけ振り向いた彼女は素っ気なく言ってはいたが、少しだけ見えていた顔は明らかに緩み、赤面していた。

 チョロいな、こいつ。と思いながら智慧を追いかける彼女の顔も緩み、赤面していた。


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