制服の袖

 眠くなったのは、何かのせいだった。

 だけど、それが何だったのかは思い出せない。

 私は知らぬ間に寝ていて、そして今、起きれないでいる。

 私の後ろにいる優実と玲奈のせいで、だ。

 いつもなら私が彼女たちに『帰ろう』と言って声をかけるが、寝ていたせいなのか、放っておかれた。

 本当に寝ていて、彼女達が微かに出した水音で起きたのだが、玲奈と優実がその音をずっとさせていたので、頭を上げられない。


 これって……キスしてるんだよね……?


 頭の中でそんなことを考えたが、まさかそんなことはないと思っていた。

 しかし、玲奈がいつもよりも色っぽい声で『もう、ダメ』なんて言うからそれがキスの音だということに確信を……持ってしまった。

 そうか、彼女たちは私の知らない間に『そういうご関係』になっていたのか。

 知らなかった。

 玲奈は容姿端麗才色兼備で、スラッとしたラインを持つ優実は美人というよりは少し頼りがいのあるボーイッシュな顔立ちをしている。下手な男子よりもかっこいい。

 とても美しいカップルが誕生してた、というわけか。

 はいはい、このままちゅーちゅーやっちゃって下さいませよ、私はこのまま寝ておりますのでね。

 ふてくされるように、目をぎゅっと閉じた。

 自分が何に怒っているのか、わかっている。

 2人が付き合っていることに怒っているのではなく、2人が私に黙って秘密を持ったことに怒っただけ。

 そりゃあ、同性愛を公表するのは怖いだろうけど、2人に対して偏見なんか持たないよ。

 だって、当たり前じゃない。

 大好きな2人なんだもの。

 その2人が……一緒に……。

 溢れそうになる涙を、そっと制服の袖に吸い込ませながら、私はそのまま夢の中に逃げ込んだ。


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