第4話 気づいたら外堀が埋まってた

「ちゃんと嫉妬しろ。欲情しろ」



抑揚のない声なのに、脳を震えさせるような怒りの言葉が耳の奥に木霊する。


「し、嫉妬って......何を嫉妬したらいいんですか」



「決まってるでしょ。みーくんが大好きな私が他の男性に盗られるかもしれないんですよ?ちゃんと嫉妬しないとだめでしょ」


「い、いや、大好きって。それは姉弟としてであって『黙れっていってるでしょ!!!!!』」



ひぃぃっっ!!!



「ねぇ、みーくん。さっきも言ったけど、私達は姉弟じゃないの。それに、もう姉弟でしちゃいけないことまでしてるんだから、いい加減自分の気持ちに素直になりなさい」


な、なんのことを言ってるんでしょう!?!?!?


「きょ、姉弟でしちゃいけないことって......?」


「あら、教室でみなさんにお見せした写真、見てなかったんですか?」



そういえば教室でなにやらやばい写真をみなさんに見せてましたね......。

なんでも、僕がうーちゃんを襲ったあと、股の部分から白いのが垂れてる写真......でしたよね......。


でも僕はそんなことしてないから、つまり。



「いや、それ絶対合成でしょう?僕らはそんなことしてませんよね!?」



さすがにそんなアリもしない事実をでっち上げられて、それで一線を超えた関係になった、だなんて吹聴されたらたまったもんじゃありません。

それこそ、2度と彼女も作れなくなるじゃないですか。



「合成じゃないですけど?」



ふぇ?



「い、いや、だって、そんなのした記憶なんてないですよ?あ、もしかしてそれっぽく見えるシチュエーションを撮ったんですか!?」


「しっかり事後だってわかる写真ですよ?」



ば、ばかな......。どういうことでしょう!?

よ、よくわかりませんが、まずはその写真を確認してみましょう。


「そこまで言うなら、まずは見せてくださいよ、その写真!」


「えぇ、いいですよ」



そういって携帯端末を操作して1枚の写真を表示するうーちゃん。


提示された写真には、裸で眠っている僕の横に、一糸まとわぬうーちゃんがいて。

うーちゃんの陰部からはソレ・・と思しき白濁液が垂れている様子が写されていました。

それは疑いの余地もなく、僕らの事後の様子。それにしか見えません。


そこに写っている僕の姿は、あたかも、「うーちゃんに睡眠薬を盛って眠らせているから気づかれていないと思い込んで」無責任に出したあとのようで。

横に写るうーちゃんは、そんな僕をレンズの端に捉えて、「自分が眠っていない、クスリを盛られていないことがバレないようにしながら証拠を残すため」、僕が疲れて眠ってしまったところを激写したかのようで。


そんなストーリーが見えてくる写真でした。





「う、嘘です!僕はこんなことしたことありません!記憶を失ったなんてこともないと思いますし、絶対合成です!」







「違います。私が、みーくんが寝ている隙に逆レしたときに撮りました」



........................いや、えっ?あへ?

僕が寝てる間に、うーちゃんと、シた?



「い、いやいや、え?う、嘘ですよね?」


「本当です。というか、多分教室でも聞こえてましたよね?『みーくんは私が告白されるたびに私を家に呼んで、睡眠薬を盛って、眠ってる私の中に己の欲望を遠慮なく吐き出してくる』って」



ま、まさか......。



「そうです。実際は立場が逆なだけで、ホントの話なんですよ」


ま、待ってください。それじゃあ、僕はうーちゃんが誰かに告られてうちに泊まりに来るたびに......。



「うん、みーくんの部屋ここに泊まりに来るたびに、みーくんに睡眠薬を盛って、中に種を仕込んでもらってたんです」


「い、いやいやいやいやいやいや、待って待って待ってください。え?」



いやもうツッコミどころが多くて突っ込みきれないですけど!


「っていうか、うーちゃんは僕のことが好きだったんですか!?」


「そうですよ。逆になんで気づかなかったのかがわかりません。あれだけわかりやすいアプローチをしていたのに気づかないなんて、みーくんは鈍感さんですね」



い、いやいや、だってうーちゃんは僕にとって姉的な存在だったわけだし......。

っていうか、うーちゃんと一緒になる気とか無いよ僕!?



「おい......いま、『うーちゃんと夫婦になるつもりなんてない』みたいなこと考えたな?」



読まれてるし!?

声もまたドスが効いてて恐いし!


「あ、えっと、だって僕は......『ごちゃごちゃ言わずに私のお婿さんになれ』」



..............................。




「そ、それはともかく、この写真だと、えっと......避妊してる様子も無いんですけど......。ま、まさか」


「まぁ、生ですね」


ふぁ〜〜〜〜ー!!!!



ていうか、もし、僕とうーちゃんがシてるのが事実だとして、万が一知らないうちに子どもがデキてたりしたら......!?

僕まだ高1だよ!?責任とかとれないよ!?





「大丈夫。私は普段から避妊薬を服用していますから、まだ妊娠することはありませんよ」




そ、そうなんだ。ちょっとだけ安心......できるわけないよね!?


「は、犯罪ですよこれは!」


僕は合意してないし、完全にだめなやつですよね!?








「..............................みーくんが悪いんですよ」



............ほへ?

え?僕が悪い?


「大人しく私だけ見てればいいのに......次から次へといろんな女の子をたぶらかして!!!!!」


「そっ、そんなの!だって僕はうーちゃんが僕のこと好きだったなんて知らな『何度黙れと言えばわかるんですか!!!!!!』」



はい、ごめんなさい。



「知らなかったとか、そんなこと私の知ったことではありませんよ。みーくんに新しい彼女ができるたびに、私がどれだけ傷ついてきたか、わかりますか?ですから、悪いのはみーくん。それが全てです」



ぼ、暴論です......。


うーちゃんが告白してきてくれてさえいたら、そのときはお付き合いできて........................いや、よく考えればそのときはお断りしていたかもしれませんね。姉としか、見れませんでしたし。



......ともかく、うーちゃんが感じてきた気持ちは否定できませんよね。

反論しても、また一喝されて黙らされるでしょうし。


ここは責める方向を変えて、ちゃんと言わなければならないことを、言っておきましょう。



「うーちゃんの言い分は、わかりました。ですけど、やったことはだめなことですよ!うーちゃんを犯罪者にするなんて忍びないけど、通報もやむなしですよ!?」


ここは心を鬼にしてうーちゃんを更生させましょう!

そうでないと、今後またうーちゃんがこんなことしたらまずいですからね!














「無駄だと思うよ?」


「え?無駄?そんなわけないじゃないですか。こうやって証拠もあるんですし」


「それだって、学校のみなさんは、みーくんが・・・・・私を襲った証拠、と認識していますし。それに、今日教室でお話していたお友達はみんな、とーっても口が軽い方たちばかりですから」



そ、それって、つまり。


「えぇ、明日には学校中のみなさんが、『みーくんは定期的に私を蹂躙するお茶目男子』だって、知っていることでしょうね」



そういえば、うーちゃんとの話に集中してて気づかなかったけど、さっきから携帯端末が何かの通知をひっきりなしに鳴らしている。

通知音からして、メッセージアプリCHAINチェインに、メッセージが来てるんでしょう。


まさかみなさん、もう情報をキャッチして僕のところにメッセージを!?


「多分、そうだと思いますよ。まぁ、前々から、『みーくんは思いはまだ伝えられないけど私のことが密かに好きで好きでしょうがない』という噂は流していましたから、今回の件はそれが進展したということで受け止めていただけるのではないでしょうか。大方、祝福のメッセージだと思いますよ?」



そう言われて恐る恐る端末の画面を見やる。


そこにはうーちゃんが言った通り、「おめでとう!」とか「何で黙ってたんだよ!言ってくれりゃ協力したのによ!」とか「俺より速く大人の階段登りやがって羨ましいぞこの野郎!」とか、そういった祝福(?)のメッセージが何十件も来ていた。



「......そんな......これじゃあ、もし僕がうーちゃんと付き合わないとか言ったら......」


「そうですね、「みーくんは付き合ってもいない年上幼馴染をいたずらし放題な便器扱いしてる変態鬼畜野郎」の烙印を捺されてしまうでしょうねぇ。まぁそうでなくとも、眠っている年上のお姉さんの中に勝手に出す変態さんの烙印を捺されるのは、免れないでしょうけれど」



ぎゃー。

なんか一周回って冷静になってきました。


そっか、いつの間にか、そういう外堀が埋められていたわけか......。




だけど、僕はこんな無理やり一緒になるみたいなやり方でお付き合いは始めたくありません!

それにやっぱりうーちゃんは僕にとって、姉のような存在で、それ以上にも以下にも思えません。



なによりこのままだと、僕がずっとうーちゃんに夜這いを仕掛けてたってことになってしまいます。

それはつまり、僕は『告白してくださった方とお付き合いしている間も性欲に負けてうーちゃんを強姦してた最低野郎』ということになるわけじゃないですか!?


そんな最低野郎の烙印を背負って生きていくなんて、僕は嫌ですよ!



このことはちゃんと警察に届けて、間違った噂だけでも消してもらって、その上でうーちゃんにはしっかり反省してもらわないといけません!







「あと、警察とかに行っても無駄ですからね。だってこの常夜町とこよまちは、そういう愛を全力で伝えてなんとしてでも叶えようとする人が、その恋愛成就のためにすることはなんでも許されるんですから。みーくんも知ってるでしょ?」

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