第3話 理不尽な怒られ

その後もバタバタとして、結局その場の誤解は晴れないまま、うーちゃんの手を引いて逃げるようにその場をあとにした。


むしろ、なまじうーちゃんの手を引いて無理矢理気味に連れ出そうとしてしまったせいで誤解が深まってしまったみたいです。



本当ならその場で誤解をときたかったところですが、どうやら口のうまいうーちゃんがなにか企んでるみたいだったのですぐには勝てないと判断しました。


もともとはこのあと部活の予定だったけど、この案件のせいでそれどころじゃなくなりましたからね。

なので、他の部員たちには申し訳なかったけど、『今日は休みます』と連絡を入れて、急いで帰宅してきたわけです。


今は僕の自宅。というか僕の部屋。

折りたたみのテーブルを準備して、対面に座ってもらう......ように促したんですが、なぜがベッドに横になって、『夕方頃に起こしてね〜』なんて言いながら寝ようとするうーちゃん。


は、反省の色どころか、遠慮が一切ない......!?

いつものことですけれども!



ふぅ。これは今日はいつもよりきつく問い詰めないといけなさそうですね。



「それでうーちゃん?さっきのはどういうことですか?」



まずは状況の確認。大事ですからね。

普段よりも意識的に低い声を出して問いかけます。



「え〜、『さっきの』って〜、どういうことですかぁ?」


ニヤリと笑いながら挑発してくるうーちゃんこと鬼門紅雨きもんこうう



「どうもこうもないですよ!なんですか、僕がうーちゃんのことを襲ってる!?言いがかりも甚だしいですよ!」


「えー?言いがかりなんてぇ、それこそ言いがかりはやめてもらえませんかぁ〜?」



さらにニヤニヤとからかうように口元を歪めて笑顔を強めるうーちゃん。



「なっ!?ここには僕とうーちゃんしかいないんですよ!?そんな適当な嘘を言っても意味ないですからね!」


「うふふっ。まぁまぁ、みーくん、そんなに怒らないで?別にいーじゃない、明日からみーくんが『私が告白されたのに嫉妬してついつい犯しちゃうお茶目な男の子』って思われるだけだよ!心配いらないよ!」


「心配ですよ!いや、もはや絶望ですよ!お茶目とかいう次元じゃないじゃないですか!それじゃあ僕、犯罪者ですよ、鬼畜野郎ですよ!」


「可愛いですよ?」



????????なにが????????



「ふふっ、『何が可愛いのかわからない』っていう顔をしていますね」


「あ、えぇっと......」



うーん、うーちゃんはいつも僕の心を読んでくるんですよね。困ったことに。

まぁ今回は完全に意味不明っていう感じが顔に出てたんでしょうけど。



「いま、『うーちゃんは僕の心が読めすぎて困っちゃうなぁ。今すぐうーちゃんのこと犯して思考を止めさせないと!』って思ったでしょ?」


「いや、後半は思ってないですから!僕のことそんな変態鬼畜野郎だって思ってたんですか!?」


「事実だからしょうがないですよねっ」



事実ちゃうわ!

まったく失礼してしまう話です。



待て待て、落ち着くんだ、僕。

このままじゃあ、うーちゃんの思うつぼだ。ステイクール。



......ふぅ。

ちょっと落ち着きました。


まったく、うーちゃんはまったく。


そろそろ誰かの告白OKしたらいいのに、とか思ってましたけど、いくら見た目や外面が良くても、こんなふうにアウトなレベルでからかってくるような性格のひねくれた人だと知れたら、誰も付き合いきれませんよね。


今日告白してきたという方も、ある意味ラッキーだったんでしょうか?

速く誰かもらってください!このまま今回みたいなことが続けば、僕は信用も友達もなにもかも失ってしまいます。



うーちゃんはそんな僕の思考を盗み見ようとするかのように見つめてきて、ふと口を開いた。



「あ、いま『今日告白してきたっていう男め。僕のうーちゃんに粉をかけるなんて、許すまじ!』って思いましたね!」



告白してきた男性の話ってところは合ってますけど、内容が致命的に違います!

まったく。





「はぁ......僕がうーちゃんを性欲の対象として見たり、他の男の人に嫉妬したりするわけないじゃないですか。小さい頃から一緒に居た姉弟みたいなもんなんですから」



僕がそれを口にした瞬間、うーちゃんが纏う空気が一変した。部屋の温度が下がった。気がしました。










「........................いい加減にしなさい............」




普段とは1トーンも2トーンも低いドスの効いた声が鼓膜を揺らした。



「へぁ!?」


声音の変化と、いつもは僕と同じく丁寧語で話してくれるうーちゃんが命令形で話してきたことに驚いて無様な声がでてしまいました。



「私達は姉弟じゃないの。みーくんが私のことを性的に蹂躙したとしても何の問題もないの。それなのにみーくんときたら、やれ昔から一緒だからいやらしい気持ちにならないだの、姉弟なんだから嫉妬するはずがないだの、わけのわからないことばかり」


な、なんで僕が怒られてるんでしょう!?


恐れを抱かせる美人の真顔に一瞬腰が引けてしまいましたが、ここで折れてはまたうーちゃんの術中にハマるばかり。

攻勢に出ないと!



「ま、待って『黙れ!!!!!』」



問答無用で中断させられてしまいました。


初めて聞くうーちゃんのガチギレにタマヒュンしてしまい、二の句がつげなくなってしまいました。







数秒間の沈黙のあと、光のない真っ黒な瞳で、よくわからない理不尽な怒りが投げかけられてしまいました。







「ちゃんと嫉妬しろ。欲情しろ」

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