第7話 彼女の事情
数年前、ある政府高官の屋敷で幽霊騒ぎが起こった。夜な夜な女性の幽霊が現れるのだという。
テロの噂もあったので治安維持隊の出番となった。俺は部下二名を引き連れその屋敷へと向かった。そして深夜、幽霊が出るという地下室へと向かう。そこは酒類が貯蔵されている倉庫だった。
「やっと話が通じる人が来たわ」
唐突に女性の声が聞こえた。奥の空間にぼんやりと光る人影が浮かぶ。
「私はクリスティーヌ。貴方は?」
「俺は
白人の女性。銀髪で細身。透明感があり吸い込まれそうな美しさだった。
「こちらへ」
彼女が誘う方向へと進む。部下二名は彼女が見えていないようで、何が起こっているのか把握していない。俺は彼らに待機を命じクリスティーヌの後をついて行く。突き当りの壁に仕掛けがあり、クリスティーヌの指示通りに操作すると壁が開いた。
その奥に隠し部屋があった。中世ヨーロッパ調の拷問道具などが並べられていた。そして血痕や毛髪、干からびた肉辺などが散らばっていた。漂う異臭が鼻を突く。
「拷問部屋か?」
「はい。既に故人ですが、前当主は異常者でした」
「現当主はこの部屋を知らないのか」
「そうです。こちらへ」
さらに奥へと向かう。そこには白骨化した遺体やミイラ化した手足などが散らばっていた。
「君はここで殺されたのか?」
「そういう言い方もできます。私です」
クリスティーヌの指さす方向にクリスティーヌにそっくりの女性が磔にされていた。手のひらや脚などに何本もの杭が打ちこまれているのだが血は流れていない。
俺は磔にされている彼女に触ってみた。腕をさすり頬に触れてみる。
「やだ。恥ずかしい」
「ごめん。でも、これが君なんだね」
「そうです」
「でもこれ、どう見ても作り物だ。本当に人間そっくりなんだけど」
「ええ。実は私は……」
クリスティーヌが話し始めた。彼女はテラフォーミング計画の一環で開発された自動人形。いわゆるアンドロイドなのだがAIの代わりに疑似霊魂が封入されている。環境維持プラント専用のオペレーターとして製造されたのだが、いつしか闇市場で売り買いされ辿り着いたのがこの屋敷だった。
「それはもう、筆舌に尽くしがたい凄惨な扱いをされました」
何人もの主人に、だそうだ。ある者は不眠不休で労働させ、ある者は性奴隷とした。そしてここでは……考えただけでも胸糞が悪くなる。
「それで君は助けを求めていたんだね」
「はい。私をここから連れ出して欲しいのです。前当主が他界してから3年経過しております。現当主はこの部屋の存在を知りません。私は何とか霊魂を可視化させコンタクトを試みましたが、全ての人に姿が見える訳でもなく、また会話ができる人もいませんでした」
「話せたのは俺が最初だったと」
「そうです」
クリスティーヌに抱きつかれた。彼女は涙を流していた。俺は彼女を抱きしめる。実体のない霊魂のはずなのに、彼女の体は冷たく震えていた。
俺は事の次第を偽りなく報告した。しかし、現当主は高名な政府高官でありこの件には関与していなかった。その為、事件は闇に葬られた。
唯一、あの地下室から救うことができたクリスティーヌは、筐体の修理が困難だったため廃棄処分とされる予定だった。しかし、俺は上官に逆らい、強引に彼女のコアユニットを旧式のモビルフォースへと移植した。それが300年前の機体、マーズイーグルだった。
真相を知る俺は、連邦首都オリンポスからアケローン地底湖へと左遷された。降格のおまけつきだった。
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