第6話 助けてクリス

 これは困った。このテロリストが用意周到である事はわかっていたが、こんな風に足止めされるとは思ってもみなかった。


「ぐぬぬぬぬって感じですか?」

「ああ。せっかくマーズイーグルを引っ張り出したのに何もできん」

「では、わたくしが助けて差し上げましょう」

「え?」

わたくしの事はクリスティーヌ様とお呼びなさい。そして懇願しなさいな。『お助けください』と」


 これは既にお仕置きモードに入っている。釈然としないのだがここはクリスに頼るしかない。


「クリスティーヌ様。現状、手詰まりとなりました。同か打開策をお示しください。お願いします」


 俺としては丁寧でへりくだった表現を使ってみたのだがどうだろうか。


「よろしくてよ。よくお聞きなさい」

「はい、クリスティーヌ様」

「まず、この機体マーズイーグルに装備されている特殊装備は何ですか?」

「それは電磁波遮断シールドです。電波、赤外線、可視光など、全ての電磁波を遮断します。効果範囲は非常に狭く外部からは真っ黒な球体に見えます。また、内部からも外が見えず、通信などは100パーセント遮断されます」

「正解ですわ。その電磁波遮断シールドを使います」


 なるほど。これを宇宙空間で使用した場合は脅威だが、昼間の地上ではあまり役に立たない。何せ全ての電磁波を遮断する。可視光で見ても赤外線で見ても、真っ黒な球体が確実に視認されるからだ。

 

「テロリストからの爆破信号を遮断するんだね」

「はい。その際、戦車側のAIが自爆装置を作動させますが、必ず時限式となります。設定は30秒です」

「つまり、マルズバーンの武装を破壊し自爆装置が作動するまでに車内の人質を解放する」

「よくできました。ではお行なさい」


 俺は簡易昇降ワイヤーを使って地上へと降りた。その瞬間、電磁波遮断シールドが展開し周囲が真っ暗になる。

 マーズイーグルは腰の実剣を抜き、マルズバーンの銃塔を潰す。そして、剣を乗車用のハッチに突き立てポンと剥がしてしまった。俺が扱うより繊細で正確だ。


 俺はハンドライトを照らしながらマルズバーンの車内に突入した。中では子供が二人眠らされていた。そしてメインモニターには自爆装置作動の警告が赤く点滅し、また、アラームと共に音声でカウントダウンをしていた。


「爆発まで後20秒……19秒……」


 俺は子供二人を抱えて車外へ這い出る。マーズイーグルはそこへ左手を添えていたので、そこへ子供を乗せる。


「爆発まで後10秒……9秒……」


 非情なカウントダウンは続く。俺はミニバンの方へと走った。マーズイーグルはマルズバーンとミニバンの間に入り姿勢を低くした。


 ズドン!


 マルズバーンが自爆し炎が吹き上がる。

 

 爆風と破片はマーズイーグルが盾になり上手く防いでくれた。それと同時に電磁波遮断シールドが解除された。唐突に周囲が明るくなり、同時に通信が入る。


「睦月班長。その場で救助活動の指揮を取れ」

「了解。連中は追わなくても?」

「ああ。逃げたトラクタは西方隊長のMBT主力戦車が押さえた。マリネリスからの帰投中に偶然発見したらしい」

「それは良かった」


 ここは一件落着って事か。

 17番支柱のエレベーターから逃げた連中の事が気になるが、俺はここから動くわけにはいかなかった。

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