第4話 マーズイーグル発進

 駆逐戦車YBSK-02マルズバーン。ホバー走行機能とMBT主力戦車を一撃で破壊できる火力を持つ。戦車としては異常に高い機動力を持つマルズバーンに対抗するためには人型機動兵器モビルフォースが必要って事だ。


 このアケローン地下都市にモビルフォースは必要ない。しかし、有事の備えとして旧式機がごく少数、地上に配置されていた。


 四輪バギーランチアが到着し如月と弥生が降りてきた。


アレ戦闘用アンドロイドは親父二人に任せろ。お前たちは指示出している奴を探せ」

「了解。班長は?」


 如月の問いに俺は上を指さす。


「なるほど。ご武運を」


 俺は頷いた。

 この地下都市には、天井になっている地盤を支える支柱が120本ほど建設されている。その内24本の内部には、地上に出るためのエレベーターが設置されている。地底湖のほとりにそびえ立つ17番支柱。そこが最寄りのエレベーターになる。


 俺はスパーダを走らせ17番支柱へと向かう。巨大な支柱の根本に事務所とゲートが設けてあり、そこを進むとエレベーターホールがある。ここのエレベーターは貨物用の大型で、スパーダをそのまま載せることができる。


 バイクのエンジンを切りゲートへと向かうのだが、そこには先客がいた。小柄な色白の少女と長身で白人の男だった。男の方は地球人のようで、顔面に呼吸器をつけていた。


「君たちも地上へ?」

「はい。そのつもりです。旅館の部屋から出るなって言われてたんですけど、部屋を襲われちゃったんで」

「君は沿岸警備隊に電話をくれた人だね。地上に避難するの?」

「はいそうです。事情は後程、詳しくお話します。今は時間がないので」

「なるほどね。僕も地上に用事があるから」


 沿岸警備隊に通報してきたノエルだ。軍人や諜報機関の人間とは思えない。しかし、情報の提供は的確だし実際にテロリスト側から襲われている。一体、彼女は何者なのだろうか。


 事務所を覗くと、担当の係官が三名ほど倒れていた。俺は無線で救急車を呼んだ。そして、バイクを押しエレベーターに乗る。地上へと向かうエレベーター内で、彼女は簡単に事情を説明してくれた。


「私たちはマリネリスから来ました。あそこは市政の放棄が決定していて、今はアケローンに移住するかどうか検討中なのです。今朝、マリネリスでテロリストが暴れちゃって……」


 そのテロリストが少年を誘拐し、彼女はその少年を追っている。


「マリネリスを襲った犯人がハンター蒲鉾店のトレーラーで逃亡中。その、誘拐された秋人君を連れて別行動してる一派が地上へ向かったと」

「もちろん、状況から推測しているだけですけど」

「だろうね。確認するためには逃げてる連中を捕まえる必要がある」

「はい、そうです」

「ノエルちゃんだったね。一応、身分証を確認させて」


 彼女は躊躇いなく身分証を提示してくれた。


「ありがと。後で連絡するから」

「はい」


 普通の中学生だ。しかし、その情報捜査力は警察以上のものがある。彼女の正体は謎だが、ここは協力体制を維持したい。


 エレベーターが地上に到着した。地上側の管理事務所を覗いてみたが、そこでも三名の職員が倒れていた。


「睦月です。地上の管理事務所でも係官が倒れています」

「わかった。救急隊を向かわせる。急げ、内側の第一ゲートを突破された」

「了解」


 俺は彼女達に手を振ってスパーダに跨った。凍り付いた路面を後輪のスパイクで削りながら、すぐ先の観測所へと向かう。格納庫では人型機動兵器マーズイーグルが待機しているはずだ。


「睦月班長。お待ちしておりました」

「準備は?」

「完了しております。武装は実剣一本と47ミリアサルトライフル、そして300ミリバズーカです。ビーム兵器は間に合いません」

「わかった」


 超高機動型の駆逐戦車マルズバーンに対して実体弾だけでやれるのか不安が残る。しかし、やるしかない。俺は梯子を上ってコクピットに潜り込む。機体のAIは既に起動しており、律儀に挨拶をしてきた。


「こんにちは、睦月少尉」

「こんにちは、マドモアゼル……あれ?」

「………私の名前くらいちゃんと覚えてくださいね。睦月むつきてい少尉殿」

「ごめんごめん。ミレーヌ」

「違います」

「マリアンヌ」

「ぶぶー」

「クリスティーヌ」

「正解。もう、完璧にご機嫌斜めです」

「ごめんねクリス。でも急がなきゃ」

「わかってます」


 正面のシャッターが開きマーズイーグルが発進するのだが、俺の操作は受け付けない。全く、誰がこんなAIの設定をしたのかと思ったが自分だった。暇に任せていじくり過ぎたらしい。

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