第5話 そして殺人鬼は動き出す。
応接間……この大きな屋敷の4分の1を占めていそうな部屋。
そこで、マキちゃんの誕生日会は開かれた。
今まで食したことないような豪華なご馳走が目の前に広がっている。
それに担う豪華な誕生日プレゼントも、ボクのようなちっぽけなプレゼントも彼女はお手本のような対応でそれらを嬉しそうに受け取った。
しばらくして、だんらんの時間を過ごす。
「アケミ……」
マキちゃんは目立たないような声で付き人のアケミさんを呼ぶと、
何やら紙切れのようなものを渡した。
何となくボクはぼんやりとその様子を眺めていたが……
同じように鋭い視線を向けている者が一人。
青い長い髪の女性。
アケミさんがその紙を受け取り何処かへ消えると、
少しして、ウミちゃんが席を立つ。
「どうかしたの?」
不思議そうにナエちゃんがウミちゃんへ尋ねた。
親友……と呼べる相手なのだろうか。
ナエちゃんとウミちゃんは傍から見ても仲が良い。
ウミちゃんがどちらかと言うと面倒見の良いお姉さんみたいな感じだが……
ボクへの扱いが嘘かのような、そんな良い人間を演じている。
「ごめん、ちょっとトイレ……」
そう言って、ウミちゃんは同じように会場の外に出て行った。
不意にポツポツと外で雨が降り出した。
次第にそれは激しい豪雨に変わる。
そして激しい雷が鳴り響き……
そして……
「きゃーーーーーーーっ」
数人の女性の悲鳴が部屋に響き渡った。
屋敷が一瞬で真っ暗になる。
雷のせいだろうか……屋敷内の灯りが全て奪われた。
まるで、事前に予期していたかのように、一つの明かり灯った。
ぼんやりとマキちゃんの辺りをランプの光が照らしている。
「この屋敷の電力はこんな雷で断線するほどやわ作りじゃないわ」
そうマキちゃんが言う。
それは……どういう意味か?
誰かが意図的にこの電力を奪ったというのだろうか?
雷とは別に大きな振動が2階から響いた……
「なに……?」
天井を……音のした方角を向きながらリンネちゃんがぼそりと呟く。
「……ウミちゃんっ……大丈夫かな?」
そう心配そうにナエちゃんがボクの近くで声に出す。
「マキちゃん……他にランプはあるかな?」
ボクがそうマキちゃんに尋ねる。
「……丁度、もう一つだけ」
そう言って、マキちゃんがボクにそれを手渡す。
「……どうするの?」
ナエちゃんが不安そうに尋ねる。
「……探してくるよ、こんな暗闇だと、此処に戻ってくるのも大変かもしれない」
ボクがそうナエちゃんに言う。
ナエちゃんがついていくと言うが、それを拒否するが、
部屋の外に向かったボクにヒイラギとナギちゃんがボクの後ろをついて来た。
ここで、ボクの一つ目の後悔。
後悔というべきかはわからないが……
今、この部屋に先ほど出て行った、
月鏡 ウミと夕陽 アケミの二人以外の全員がこの真っ暗な部屋に居たのか……ということだ。
音がした……ボクに割り振られた部屋とは逆の2階。
らせんの階段をあがり、異変を探す。
廊下を手に持っているランプで照らしながらゆっくりと歩く。
あからさまな、破壊されたドアの破片が周辺に散らばっていた。
嫌な予感……それは壊れたドアを見る前からずっと前に……
船に乗った時に……その前に……
こんな島の……孤立した場所で……
壊れたドアの先の部屋。
ボクはランプの光で部屋の中を照らした。
天井から吊るされている何か……
それを識別するのに手間取った。
正常な精神状態なら……それが誰なのかくらいはすぐに理解できる……身体の一部を欠けたそれを目にした時……ボクは不覚にもそれをすぐに判断できなかった。
白のカーディガン、黒のズボン……。
そのスタイルの良さを際立てている。
「ねぇ……ボクの宝物……見つかった?」
ボクはそう問いかけた。
ボクのそんな質問に……
天井から吊るされる彼女は答えてくれない。
「……とうた、どうなってんだよ」
さすがに気分悪そうに真っ青な顔でヒイラギがその言葉をようやく口に出せたというように唇を動かす。
吊るされた首なしの人間。
これが、事故な訳がない。
そして……数時間後に出会うことになる、自称、世界の調律者はボクに言う。
その判断の遅れは……必然か、異常か……
その疑問は正常か異常か……
その疑問の正当化は、正解か不正解か……
そんな事は、今のボクにはわからない。
彼に出会う前の今のボクには……とてもたどり着くことができなかった。
そうして、今のボクらが辿り着ける、一つの答え。
屋敷の電力が奪われる前……外出した月鏡 ウミ……
より、先に部屋を出た女性。
その彼女をこの屋敷から見つけ出すことが、
答えに辿り着く近道だと……そう錯覚した。
「夕陽 アケミさん……を探そう」
ボクは言う。
「……戻って伝えなくていいの?」
感情が読めない……ナギちゃんはボクにそう告げる。
「……やべぇ、吐きそう……」
ヒイラギの顔色がどんどん酷くなる。
当然だろう……
先に皆に事を告げるのが優先事か……
ボクが考えて行動するよりもずっと事件は難解で……
ボクが思うよりもずっと……事実は単純だった。
ただ……今のボクにそこに辿り着くことはできなかった。
その後……ボクらは屋敷を一通り周ったが、
ボクたちは、出て行った時と変わらぬ人数で、応接間に戻ってきた。
重い空気……
今も激しい雨が、部屋の窓を殴るように降り続き……
時折、激しい雷の光が室内を照らした。
ボクは……口を開く。
見たことを偽り無く……
ボクの言葉に
「そうでしたか……ご苦労様です」
実に落ち着いた口調で……
屋敷の主がボクに代わり語り始める。
「
そう冷静に、非道的に……
「とうぜん、あなたが追う必要は無いよ……責任を負うべきなのは、ウミを……」
反論したリンネちゃんはそこで一度言い淀み……
「……この犯人が責任を負うべきじゃないの」
そうリンネちゃんは続けた。
「……事は、島の外には黙秘でお願いします」
マキちゃんがそう続ける。
誰もが……その言葉に不信を抱いているだろう。
この島は、異常者……狂人達の集う場所……
そこには、ボクのような者が想像できない思惑が交差している。
……その
……この
……そんな事は誰も理解できない。
……そんな救いなど……殺人鬼は理解しない。
凡人のボクに……そんなその者たちの答えなど理解できない。
そして……その全てを理解しているつもりの
この事件の行き着く先は……彼女の思惑から遠く外れていく……
自由を与えられた殺人鬼が笑う。
ひとり……暗闇の中……誰に気づかれること無く……
悲劇の夜は……始まったばかりだ……
それは自由を求める。
それは殺しを望む。
自分の手駒を失っていることさえ気がつかず……。
静かに……決着のついている
事件は複雑で……
答えは単純で……
「……どうする……名探偵のように事件でも解くか……?」
「……痴れ事だよな……」
ボクはひとり呟いて、静かに笑った。
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