第6話 自由は殺戮を繰り返す

 ランプが一つ……応接間の一部だけを照らしている。

 外は相変わらずの激しい雨。


 廊下からもう一つのランプの光が返ってきた。



 「おいっ……とーた、あんた達もさっさと荷物をまとめて来いッ」

 戻ってきた、空伊芦 アオはボクに向かって叫ぶ。


 そばには鳴響 リンネと緑木 ナエ 紫索 キッカイ 水之 シラベが荷物をまとめて立っている。

 アオちゃんを筆頭にさきほど、明かりを一つ持って部屋を出て行ったのは見ていたが……


 「……なにしてるの?」

 ボクがそんな質問をすると……


 「……なにをって島を出るに決まってるだろッ!」

 アオちゃんがそう叫ぶ。


 ボクは再度外を見るように部屋の壁を眺める。


 「……明日、太陽が出るのを待ったほうがいいよ」

 ボクがそう言うが……



 「とーた、ここで何が起きたかわかってるのかよ、夜とか嵐とか言ってる暇かよッ」

 そうアオちゃんが顔を真っ赤にして言う。


 果たして……今、船に乗り……そんな場所にその殺人鬼とやらが乗り合わせていたとしたら……ボクにはそんな最悪なシナリオしか思いつかない……

 それに……そもそも……それ以上の最悪のシナリオ……その最悪のシナリオを今見るべきじゃないとボクは思うが……今の彼女たちを止めるすべはボクには無い。



 ボクとヒイラギ、ナギちゃんは少ない荷物をまとめると、8人で船着場に急ぎ、海場 ゴウに話をつけてここを離れることを急いだが……



 「……船がない……?」

 ぼそりと……キッカイが言う。


 船着場にくくりつけられていた……太いロープが切断されている。

 嵐によるものか……と思うが……明らかにロープは切断された跡があり……


 海場さんが一人、ここを脱出したのかとも疑ったが……


 船着場に座り込んでいる人影を発見する。


 こんな嵐の中……不自然に……



 明日の朝なら……何かが変わる訳ではないが……

 この夜が終わる前に、見るべきではなかったと、少なくともボクは思った。



 船が無い船着場で一人……海場 ゴウが座っている。

 両腕の無い……海場 ゴウが座っていた。




 屋敷に戻った……

 全員、無言だった。


 渡されたタオルで身体を拭きながら……


 「なぁ……トウタ、どうなってるんだ?」

 ヒイラギがそうボクに尋ねる。


 どうもこうも無い……

 いま、この場所で……誰かが二人の人間を殺した……

 それだけの話だ。


 「ねぇ……マキちゃん、アケミさんは何処にいったのかな?」

 ボクがそう尋ねる。


 「さぁ……それが、先ほどから何故か連絡が取れなくて」

 そう、心配する様子もなく、マキちゃんが言う。


 恐らく、この事件は単純で……

 単純が故に、その単純を見誤る……



 ・・・




 逸見 トウタに割り振られた部屋。

 ボクの部屋に公明 ヒイラギ、不羈乃 ナギ、緑木 ナエ、空伊芦 アオ 水之 シラベの6名が集まっている……


 明日を迎えるためそれぞれ、部屋で休むという話になったが、現に2名の命が奪われた孤島。

 そんな場所で、ゆっくり休める訳もなく……



 「……なるほど……」

 ボクがこれまで見た経緯を聞いて、シラベ君は何やらパソコンに何かを打ち込んでいる。

 予備電源で稼動しているのだろう。

 未だ電力も、電波もないこの場所で……


 電話で助けを呼ぶことも、インターネットを使用することもできない。


 「……これ……」

 何やらシラベ君が不思議そうに頭を傾げているが……


 「どうかした?」

 アオちゃんが、そんなシラベ君に尋ねるが、


 「……いや、ごめん、何でもない」

 そう否定した。


 「で、とうたくん、君はこの事件についてどう考えてるの?」

 シラベ君はそうボクへ尋ねる。


 なんの捻くれもなく、痴れ事も無しで考えるのであれば……


 「……ひとつの可能性とすれば……至念 マキが企てた殺人のシナリオを夕陽 アケミに演じさせている……」

 この闇の中を……今も何処かに身を隠して、次の獲物を探している……

 少なくとも、今回のこの場所の主役であるマキちゃんはそう疑われてもしょうがない発言を繰り返ししている。


 「でも……なんで、自分の船の舵を任せていた海場……さんだっけか?その人まで……」

 殺したのか?そうヒイラギが疑問を口にする。



 「……逃げ道を潰す、ボクたちに絶望を与える……狙いとしてはそんなところじゃないかな」

 ボクは少し適当に答える。

 正直、ボクとしては海場さんの殺された理由のほうは理解できるが……


 「ボクとしては……ウミちゃんを殺す理由の方が思いつかないよ」

 そう口にして……ビクリ身体を揺らすナエちゃんを見てしまったと思う。



 「あははぁ~っ」

 ナギちゃんはその場で不謹慎に笑い


 「なんだか、まるで、最近うわさになっていた自由な殺人鬼の仕業みたいだね」

 そう楽しい話をしているように言う。



 人の首を切り落とす。


 海の男の両腕を……抵抗を許すことなく切り落とす……


 そんな真似ができる人間……


 限られるようで……この島では、そんな常識は通用しない。


 異人と狂人……が集うこの場所で……


 一見、普通を装ってる人物でさえ、それを簡単に成し遂げるだけの者が紛れ込んでいる可能性がある。





 「どうゆうことっ!!」

 廊下で誰かの大きな声が響く。

 マキちゃんの声……?


 ボクは自分のカバンからペンライトを取り出すと、明かりを点し自分の部屋を出た。

 その様子を察したナギちゃんとヒイラギだけがボクの後ろをついてきていた。


 声がしたあたりをペンライトで照らすと……


 マキちゃんが誰かと会話をしているようだった。



 「どうゆうつもり……私が指示したのはっ!!」

 ボクはペンライトでその先にいるマキちゃんと会話をする誰かを照らす。


 真っ黒なシルクハット……顔を奇妙な仮面で隠し大きなマントを羽織っていて、それが誰なのか、性別さえも判断ができない。



 「………あなたは……だれ?」

 そう、マキちゃんは始めて、目の前の仮面の者が自分が知るべき相手ではないと理解したように聞いた……。


 ペンライトの光が仮面の者が持つ刃物をキラリと光らせた。


 「やめろっ!!」

 ボクはそう叫んだが……


 そのキラリと光った刃物はマキちゃんの喉を切り裂き、

 バランスを崩したマキちゃんの身体はその後ろの螺旋の階段を転げ落ちた。


 ボクの隣でナギちゃんの呼吸音が変わった気がする。

 目を細め、輝きのない目で……目の前の仮面の者を睨み付ける。

 そして、その右手にはいつの間にか護身用としては物騒なナイフを手にしている。

 


 その殺意を感じ取ったのかはわからない……

 仮面の者は、螺旋階段を使わず、二階から一階に飛び降りる。

 普通の人間なら、ただではすまない高さ……

 その高さを軽々しく恐れることなく飛び降りる。


 ボクは慌てて手すりから身を乗り出し、その姿を追うが……

 まるで、必然のようにマキちゃんの両足を切断しそれを何処かに持ち出した。


 いったい……何の意味があるというのか……


 殺人鬼を名乗り……また自由を名乗るが故の……理由があるというのか……



 「なぁ……とうた、いったいこの場所で何が起きてるって言うんだ」

 そうヒイラギがボクに言うが……勿論ボクにだって解るわけがない。

 こんな場所で産まれ……この島の異常さは知っている。

 自由を名乗る殺人鬼がニュースを騒がせる中、それでもボクは今日まで人の死を目の前にしたことは無かった。


 いったい……誰がこんな真似をしているのか……


 「あの……仮面をつけた人……誰かな?」

 先ほど殺意を全快にした相手に、ナギちゃんはそんな様子を見せないように可愛らしく言った。


 「あははぁ~、もしかして、あの有名な自由な殺人鬼さんだったり」

 不謹慎に嬉しそうにナギちゃんは言う。


 「とうた……とうたはどう思う?」

 ヒイラギがそうボクに言う……



 「この島で……今、ニュースの話題を総取りしている自由の殺人鬼……もしそんな奴を飼いならしている奴が居たとしたら……そんなイカレタ奴が居たとして……あのイカレタ社会システムの島より離れた孤島、そんな場所でそんな殺人鬼を自由にし、自分の気に入らないモノを処分させようとする奴が居たとしたら……今日という惨劇……そんな日が訪れる事もあるのかもしれない……痴れ事だけどね」

 ボクはそう返す。


 「……だけどよ」

 そうヒイラギが言い淀む。



 そう……もしその自由な殺人鬼を飼いならすような人物が居たとしたなら……

 その人物は今……この先の階段から……


 飼い犬に噛まれたか……

 さらなる自由を求めた猛犬に……



 それは、いったい誰なのか……

 この屋敷に居るボクの知っている誰かなのか……

 

 夕陽 アケミは未だにその姿を見せない。


 この孤島にボクらが知らない何物かが紛れているのか……


 その答えはボクには解らない。

 そして……この屋敷の主を失ったボクの部屋。


 全員が解散しボク一人になったはずの部屋。


 確かに船には14名しか乗り合わせていなかったはずだった。


 

 「よう、遅かったじゃねーか、逸見 トウタ」

 いかにも胡散臭い……

 髪を某スーパーなんちゃら人のように逆立て、目には真っ黒なレンズのゴーグルをつけている。

 15人目の自称、世界の調律者はボクの部屋の中央に立っていた。

 

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