第4話 自由に笑い、不自由は後悔する。
志念家別館 1日目
船を降り、それぞれがその別館を目指した。
プライベート船の操縦者を務めた海場 ゴウだけがその船に残った。
残り13名がその別館の前にたどり着く。
「ひゃーーー、でけぇーーーー」
肩下げのバックをボトリと地面に置き、ヒイラギが意味もなくその建物の天辺に目を向ける。
「皆様にそれぞれ一人、一部屋、部屋を準備しています」
マキちゃんはくるりと身体を回転させて、みんなの方に振り返る。
「……全員分の個別の部屋?どれだけ広いのさ」
リンネちゃんがそうぼそりと呟く。
「部屋にあるものは、自分の部屋と思い自由に使って構いません」
そうマキちゃんは続け……そして不適に微笑む。
「もうひとつ……この別館で起こる事故、事件については、志念家では一切の責任を負うことができません……予めそのことを理解して置いて下さい」
そう凛とした態度で言い放つ。
「あははっ……」
何が面白かったのか、ナギちゃんが楽しそうに笑い……
その意味が理解でず……困惑する顔と……
何かを察するように、鋭い目つきをしている者……
そして、ボクの隣でナギちゃんはいつまでもへらへらと笑っている。
そして、そのどれでもないボクは平然とした態度で聞いている。
扉が開かれ、屋敷の中に各々が入っていく。
二階まで屋根をとっぱらった広い玄関が広がる。
前方、左右には何処かに繋がる扉がいくつも存在し、
その左右にはらせん状の階段が、二階に繋がっている。
部屋割りの用紙が付き人のアケミさんから各々に配られる。
どうやら、それぞれ割り当てられている部屋は左右の二階に分かられているようだ。
一階が会場や作業をする部屋が配置され、二階が客室になっているようだ。
それぞれが、荷物を置きに自分に与えられた部屋を目指し左右に別れらせん階段に向かっていく。
平然を装う。
この島で産まれ……今日まで……
ずっと、その異様な空気の中生きてきた。
慣れていたのか、慣れている気になっていたのか……
忘れかけていた緊張感……危機感……恐怖感……
「……今更、痴れ事だよな」
ボクはそう呟く。
与えられた部屋のドアを開ける……
広さより量……屋敷に割り当てられた客室を考えれば妥当な広さだが、
それでもボクの部屋の1.5倍はありそうな広さの部屋。
ボクは部屋に入ると扉を閉めドアの鍵をかけた。
ボクは自分の所持していたバックを適当に床に置く。
ガチャリとドアノブが動いた。
少しだけ緊張感が走る。
もう一度、ドアノブが動いた。
その後、ドアの外の何者かは鍵がかかっていることがわかると、
コンコンとドアを叩く。
「……誰?」
ボクは平然を保ちそう尋ねる。
再びガチャリとドアノブを回し、ドアを強引に引く。
「誰……?答えてくれないかな?」
ボクは少しだけドアに近づくとそう尋ねる。
足音が聞こえる……
ドアの外でドアを開けようとしている者とは別の人物だろうか?
ボクとそのドアのすぐ側にいる誰かに聞かせるように……
床に足音を響かせて近寄ってくる。
その瞬間……何者かが走り去る音がした。
そして、再び……ガチャリとドアノブが動く。
先ほどと同じようにドアを引く。
「ねぇ……開けてくれる?」
ドアの外の声は、先ほどまではうそのようにその声を聞かせる。
いろいろと思考を巡らせる……
招いては行けない相手だとは理解している。
それでも……
痴れ事だ……ボクはそう自分に言い聞かせる。
ボクはドアに近づくと、カチャとそのロックを解除した。
ガチャリとドアのそのの人間が扉を開ける。
「案外無用心なんだね、とうた君って」
白のカーディガン、黒のズボン……長い青い髪。
数時間前……ボクに拳銃を額に突きつけていた女の姿がそこにある。
「ウミちゃんこそ無用心じゃないかい、一人……男の部屋に訪れるなんてさ」
ボクのその言葉に、ウミちゃんが始めて可笑しそうに笑った。
「あら、とうた君、まだ、私のこと普通の女として見てくれるの?」
そうウミちゃんが尋ねる。
「ボクだって男だからね……ウミちゃんみたいな綺麗な子を目の前にしたらそれなりの感情が沸くよ」
そのボクが返す。
「あら……意外と嬉しいこと言ってくれるのね」
ウミちゃんがボクの部屋に入ると、当然のようにそのドアの鍵をかける。
ウミちゃんはボクの部屋を自由にトコトコ歩き……当たり前のようにベッドに腰をかける。
「わたしね……私が欲しいと思ったものは、それなりに自分の力で手に入れてきたの……美、学、運動……」
ウミちゃんはベッドに腰掛けながら言う。
「なりたい誰かに私は……追いつき成り代わってきた……」
「自慢じゃないけどさ……意外と何でもできるんだよね、わたし……」
得意げに……だけど、どこかさびしそうにウミちゃんが言う。
「色んな部活の手伝いをしては……私の数十倍努力した人間を叩きのめし、その勝利に導いた相手の大事なものを代償に手を貸してきた」
ウミちゃんがそうボクに言う。
「……でもね、どうしても……満たされないの」
そうウミちゃんがボクに言う。
「……誰の影響にもならない……誰の感化も受けない……そんな存在のあなた……そんな世界で透過したような存在……とうたくんあなたは中々どうして、わたしのような異人からすると魅力的なのよ」
そう誘惑するような目つきでウミちゃんがボクに言う。
気がつくと、ボクはベッドに倒れていて……
ボクの頭の両脇に両手をつくようにウミちゃんがボクの顔を覗き込んでいる。
「本当なら嬉しいけど……大盗賊のウミちゃんの目的は……ボクが持っている宝物なんだよね、どこぞの峰フジコみたいな……危険ないい女って顔をしてるよ、ウミちゃん」
ボクの言葉にウミちゃんは実に楽しそうに笑い
「あはは、本当にあんたの痴れ事は嫌いじゃないよ」
そうウミちゃんがボクに言う。
「悪いけどさ……この場所は、君にとって良くない場所だ……私があなたを助けてあげられる保証がない……」
ウミちゃんがそうボクに告げる。
「ウミちゃんがボクを助けてくれるの?」
そう尋ねる。
「……まだ、あなたの宝を見つけてないからね……」
ウミちゃんが優しく微笑む。
そして、ボクは何故か……彼女にボクの口に彼女の唇を押し付けられた。
何事も無かったように……ウミちゃんが部屋の外へ続くドアへと歩いていく。
「ここには、わたし以外にもたくさんの狂人が居るから注意しなよ、
そうウミちゃんはこちらを振り向かず言った。
「例え……偽りだったとしても、今日という日は結構幸せだったぜ、
そうウミちゃんはこちらを振り向かず笑いながら立ち去った。
ウミちゃんがボクの部屋を訪れた……理由はわからない。
この屋敷で何が行われようとしているのかわからない。
彼女が何を警告しに着たのかわからない。
ただ……彼女がボクの部屋を訪れた。
もし……彼女がボクの部屋に来なければ……
彼女の存在に……足音に驚き立ち去った何者かは……
いったいボクに何を残したのだろう。
それが誰であったのか……ボクにはもうわからない。
これから起こる悲劇も……
ボクにも……きっと彼女にもわからない。
ボクにできるのは……その一瞬、この一瞬を後悔することだけだ。
殺人鬼は笑う、その一瞬を……この一瞬を、後悔することなく笑う。
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