第65話 河童の襲撃2
舞衣は、草叢に隠れながら様子を
慎也の脚がザックリ切断されたのを見て、思わず声を上げそうになったが、何とか
明るい内なら手の出しようも無いが、今は夜。隙を見て救助できる可能性もなくは無い。
治太夫が鬼たちや祥子の方に向きを変えたとき、助けに出ようとした。が、その時…。
慎也が消えた。忽然と!
そして、恵美もだ。
「舞衣様、舞衣様」
背後から小声で呼ばれる。
治太夫に気付かれないようにその声の方を向くと、タケが手招きしている。そして、慎也と恵美がいた。血だらけで…。
慎也は治癒の能力で恵美の足首を繋ぎ、自分の脚も繋げる。が、顔色が悪い。
当然だ。両脚をスッパリ切断され、かなり出血していたからだ。
「ダメだ。力が入らない。取り敢えずの応急処置までしか出来ない。骨までは無理だ…」
切断された骨まで繋ぐのには気力が足りない。これでは二人とも歩けない。
…二人を救助したのは、タケの瞬間移動の能力だった。
タケは動いている物は移動させられない。しかし、恵美は気絶していたし、慎也も痛みの余り動けずにいたので、移動させることが出来たのだ。
この能力、戦闘の役には立たないとタケは言っていたが、彼が居なければ二人の救助は難しかっただろう。やはり物は使いようなのである。
意識を取り戻した恵美が、ふらつきながらタケの腕をつかむ。
自分がどのようにして救助されたか、彼女は理解していた。
「タケ!私を治太夫のところへ転送して!」
「そんな!その足では逃げられないのですよ。また切り刻まれてしまいます!」
「大丈夫、一撃で仕留める。
真ん前だと一瞬でバラバラにされかねないからね。奴の、右斜め後ろ。奴のすぐ
「は、はい…」
「恵美さん。大丈夫なの? その足では踏ん張れないでしょ」
舞衣も心配する。が…、
「仕方ないよ。テルもやられて、私しか居ない」
恵美はタケに手伝わせて体の向きを変えた。
そっくりそのままの姿勢で転送されるのだ。転送と同時に攻撃できる体勢を取っておかなければならない。膝立ちで、刀の刃を上に向け、左手を刀の峰の中ほどに添える。
やはり、頭を狙わなければダメだ。
祥子は上空からの攻撃だったから致命傷を与えられなかったが、ここを下から貫き、首から脳まで串刺しにするつもりだ。
「いくよ、タケ。三・二・一」
恵美が消えた。
そして、一瞬で、治太夫の斜め後ろに転送されていた。
「おりゃー!」
何の気配もなく、突如として間近に現れた殺気と掛け声!
驚いた治太夫は、声の方に素早く体を向けた。と同時に、その首を刀が…。
「うぐう!」
ズブッと刀が治太夫の首に、下から突き刺さった。
治太夫は、苦悶の表情を浮かべる。
…が、浅い。
刺さってはいるが脳を貫いていない。金属部分の防御が無くても、兜の太く丈夫な
暗い中での事でよく見えず、運悪く顎紐の結び目に刺さってしまったのだ。
(だめだ、これでは倒せない! 足なんか、どうなっても良い!)
恵美は両手でしっかり刀を持ち、渾身の力を込めて踏ん張った。彼女の両足首の皮が破れて骨が飛び出し、再度血が流れ出す。
刀はズブッと少し入る。首を守っていた顎紐が切れた。
このまま、もっと奥へ刺して
が…。
治太夫が、自分に刺さっている刀の刀身をガッと
恵美は驚愕し、刀を更に押し込もうとするが入らない。抜こうとしても、しっかり掴まれて抜けない。河童の力は、かなりの強さだ。
治太夫が恵美を見詰め、ニヤッと笑った。その瞬間!
「うあー!」
刀を持っている恵美の両手首が、ザックリ切断された。
恵美は、防御のために
関節部分を固めると動きが鈍くなるし、内向き側から攻撃されるなどということは、通常あり得ないから、関節内側を守る構造にはなっていない。
だが、治太夫の武器は鎌鼬。
任意の空間に空気の
ヒトの甲冑に精通している治太夫には、この籠手の弱点がバレバレだった。
関節内側から、恵美の手首を切断したのだ…。
先を失った恵美の手首断面から血が噴き出す。
足首も、先ほどの無理で切れている骨が突き出て無残な状態…。
恵美は引っくり返り、血をまき散らしながら、のたうち回った。
治太夫は、自分の首に刺さっている刀を抜き取り、前に投げ捨てた。
「ゲフッ」と血を吐くが、直ぐに傷口からは白い
草の隙間から覗き見ていていた舞衣たちは青くなっていた。
奴は不死身だ。とても敵わない。
だが、このままでは恵美が死んでしまう。放っておいても出血多量。多分、その前にとどめを刺されてしまうだろう。
タケは動いている物は転送できない。さっきは気絶し動きを止めていたので転送救出することが出来たが、のたうち回っている恵美は連れ戻せない。
そして、慎也も動けない。
今、動けるのは舞衣のみ。
……舞衣は覚悟を決めた。
「タケさん。私を河童の前に転送しなさい!」
「ま、舞衣さん!何言いだすの!武器も無いのに!」
慎也は、慌てて止める。
が、舞衣は首を横に振った。
「武器なら有る」
舞衣は、両手に何かを握っている。
「いい?奴の真正面一メートル手前よ」
「舞衣さん、正気か! そんなところじゃ、一瞬でバラバラにされちゃうよ!」
「大丈夫! 奴はもう周り中を気にしてるから、どこでも同じよ。それなら、いきなり目の前の方が意表をつける。女は度胸よ!」
覚悟を決めた舞衣は強い。そして確かに、今動けるのは舞衣だけだ。
舞衣は握った両手を振りかぶり、姿勢を決めた。
治太夫の様子を、陰から覗き見て、タイミングを見計らう…。
「タケさん、お願いね。三・二・一」
舞衣が消えた。
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