第50話 尻子玉抜き1

 村長むらおさ御殿にいたテルは、アマに呼ばれて隣の拝殿に来ていた。

 大婆と村長も一緒だ。


 アマは不穏な空気を感じていた。

 村に何か、良くない事が起ころうとしている……。


 手をかざし、念を凝らして、アマが宝珠を操る。

 光り出した宝珠に映ったのは…。


 あいが四つん這いにされて、尻をまくられ、秘部を触られている姿!


 事件現場は、同じ境内のあいの住んでいる館だ。

 目を剥いたテルは、すぐさま猛烈な勢いで飛び出した。

 アマも、恵美に知らせるべく慌てて駆けだした。



 テルが急ぎ館に向かい、戸をガッと開けて目にした光景…。


 四つん這い、着物の裾をまくられて、尻を露出させたあい…。

 体をけ反らせ、口を大きく開けて、苦悶の表情を浮かべている。


 そのあいの白い美尻からは、赤紫色でブヨブヨした気味の悪いモノが引きずり出されてしまっている。


 その醜怪な太長いモノをしっかりつかんで引っ張っているのは、緑色の肌の上半身裸の小柄な男…。

 その男は、いきなり開いた扉に驚いてテルの方を見た。


 テルは、すぐさま金縛りを発動した。




―――――

 太吉は、あいの可愛らしい尻の穴に手首までズブッと突っ込み、締め付けてくる彼女の『中身』の、心地よい感触を味わった。


 思った通りの温もりと柔らかさと締まり具合……。


 ずっと、こうしていたいとも思える快感だが、そんなことをしていては、対象が痛みで暴れ出してしまう。直ぐに、その硬い手をガッと開いた。


 太吉の手が入っているのは、あいの腹部内の、直腸の中……。

 外気に触れている部分ではなく、とても繊細で軟らかな内臓の末端部分である。

 そこで河童の硬い手が開かれたのだ。鋭い爪は腸壁をズブズブッと突き抜き、直腸は簡単に破かれ千切られてしまう……。


 その千切った直腸の端を掴むと、ズボッと肛門から手を抜き出して、そのまま大きく、力強く手繰り引いた!


 ブリブリブリブリッ!!


 あいの腹部内に綺麗に収まっていた大腸は、一瞬で腹壁から引き剝がされ、「雌豹のポーズ」を取らされている彼女の尻の穴から、豪快な音を立てて、見る見る内に、全て残らず、体外へと引き抜き出された。


 まさに、噴き出すように!


 これが、河童の秘儀、「尻子玉抜き」……。



 出て来たあいの大腸を見て、太吉は狂喜した。

 それは、太吉が想像していた通りの素晴らしいハラワタ!

 いや、想像を超える美麗なモノだった…。


 赤紫の色も、プリプリした形も最高。ハリがあって引き締まり、それでいて所々に程よく黄色い脂肪分が乗っている。

 湯気を立てている出したてホヤホヤは、体内にあったままの、まだ生きている状態。太吉の手の中でクチュ―ッと音を立ててゆっくりうごめいていて、最高に、美味そうだった。


 通常なら、直ぐに口にくわえ、すすり喰いながら続く小腸の引き出しにかかるところ…。

 小腸まで全て放出させるように一気に抜き取ってしまうのが、この秘儀「尻子玉抜き」の醍醐味だ。


 しかし、太吉はあいに約束していた。

 『出した物を見せてやる』と……。


 小腸も綺麗で素晴らしいモノだが、それまで全て引き出してからでは気を失ってしまい、そのまま死んでしまう可能性が高い。

 そこで取り敢えず、出し終わった美しい大腸を、出されている当の本人、あいの目の前に持って行って存分に見せてやった。


 御本人は、自分の佳麗な大腸に感動したのかどうか、目を見開いて言葉も出ない様だった。

 さあ、これから、その超極上品を頂こうとした、その時だった。戸が突然開いたのは!


 太吉は、治太夫から「鬼の金縛りには十分気を付けるように」と注意されていた。

 しかし、目前の最高に美味そうなハラワタに、すっかり気を取られていた。

 その上、大きな音を立てて戸が開いたのは、いきなりの事だ。驚いて見てしまった瞬間に、金縛りにされてしまった!


 これから口に入れて、存分に最高の味を楽しむところだったのに……。


 物凄い勢いで、飛び込んできた鬼が迫って来るが、体が動かなく逃げられない。

 そのまま、腹を思い切り蹴りつけられ、太吉は、意識をなくした。

―――――




 緑の小男を蹴り飛ばしてあいから引き剥がし、テルは、愛しの妻の脇に駆け寄った。


あいさん! あ、あいさん!」


 テルの呼びかけに答えず、あいは四つん這い状態から、横へどさっと崩れ倒れた。

 ビクッ、ビクッと、体を大きく痙攣させている。

 当然だ。肛門から体内の大腸を全て引きずり出されてしまっているのだ。


 無残に抜き出された彼女の大腸は、まだゆっくりうごめいていて、ジワ~ッと赤い血が滲み出て来る。

 テルはどうしたらよいか分からない。おろおろし、あいに取りすがるしかない。

 騒ぎで寝かされていた赤子が起きてしまい、泣き出した。


「もし。もし。鬼殿」


 入口を見ると、あいの腸を引きずり出した奴と同じような緑色の肌の小男が入ってきている。


「お前も仲間か!」


 テルは迷うことなく金縛りを発動した。

 小男はそのまま動けなくなるが、話を続ける。


「違います。私はその者の仲間ではありません。逆です。その者たちに敵対する立場です。

 薬を持っております。早く、その方を治療しませんと…」


 このまま放っておけば、あいが死んでしまうのは確実だ。迷っている余裕はない。

 そこへ、恵美が駆け込んできた。

 アマも一足遅れて駆けつける。


「あ、愛ちゃん!!」

「愛様!!」


 二人とも、目の前の信じられない光景に続く言葉を失い、立ち尽くした。


「恵美様、姉者! その者が薬を持っていると言っています。ち、治療を、早く治療を!あいさんが死んでしまう!」


「治療…。こんなひどい状態、どうすればいいの!?」


 恵美が、テルに指差されている緑の男に問い詰めるように訊く。


「私の腰に下がっている袋の中の液体を、出ているハラワタに塗り付けてください。そして、腹の中に押し戻すのです。急いでください」


 男…。銀之丞だった。

 彼は上着を脱ぎ捨てて泳いで来ているので、上半身裸の腰蓑姿。その腰蓑に、三つの袋が下がっていた。

 恵美は急いで銀之丞の腰に下がっている袋の一つを取った。


「これで、いいのね」


 確認すると、銀之丞はうなずこうとして金縛りで頷けず、言葉で肯定する。


「それで結構です。一袋、全部使って下さい」


 恵美は血で汚れるのも構わず、引き出されてしまっているあいの大腸を手に取り、ドロッとした液体をまんべんなく塗り付けた。

 すぐに出血は止まる。


「し、しかし、恵美殿、これ、押し戻せますか?」


 一緒にあいの近くに駆け寄ったアマが、心配そうに問う。

 軟らかで太い大腸を、狭い肛門から中へ全て押し戻す…。簡単に出来そうもない。


「中から引っ張り戻さないと無理かも…。アマちゃん、あなたの念力でやってみて。押し込むんじゃなくて、中から引っ張る感じよ! 同時に、肛門を拡げられるといいんだけど」


「分かりました。拡げながら、中から引っ張る…。やってみます」


 アマがあいの肛門部を凝視し、念を込めると、あいの大腸はズルズルッ、ズルズルッと中へ戻ってゆく。

 肛門部でしごかれて、千切れている直腸先から中の汚物がドロドロと流れ出て来るが、そんなことには構っていられない。アマは念力を行使し続け、腸は全てあいの腹部に戻り入った。


「では、あと二袋、口管の部分を尻の穴に差し込んで、薬を腹の中へ流し込んでください」


 銀之丞からの、次の指示…。

 恵美は銀之丞の腰に下がっている残り二袋を取り、一袋の管先をあいの肛門へグッと刺し込んで中身をしごき入れた。もう一袋も、全て。


「薬がまんべんなく行き渡るように、お腹を揉んであげてください」


 頷き、あいを仰向けにさせて腹部マッサージしながら、恵美は透視能力を発動した。

 あいの腹の中には、かなりの血液が溜まって真っ赤になっている。薬が行き渡っているのかよく分からないが、大腸は定位置へうねりながら戻ってゆくのが分かる。千切れてしまっていた直腸部分も、肛門と繋がって傷も消えて行く。

 何とも不思議な薬だ。


「もう大丈夫でしょう」


 銀之丞の声で、恵美はマッサージを止めた。

 遅れて駆けつけてきたトヨとタミが、驚き慌てて、散らばっているあいの汚物を拭き取って片付ける。

 入口近くで泣いているあいの赤子は、汚物の始末を途中でタミに任せたトヨが外へ連れ出した。

 あいの痙攣は、完全に収まっている。気を失っているようだが、呼吸も少し落ち着いてきた。見た目では、大丈夫そうだ。

 姉妹である神子かんこたちも集まってきて、さとが心配そうにしながら奥の部屋に居たあいのもう一人の子を抱いて外へ行く。

 他の四人の神子かんこは、館の入口から、中を不安気な顔でのぞき込んでいた。


「さてと~。じゃあ~、何がどうなっているのか、事情を話してもらいましょっか~」


 恵美が、いつもの口調になって銀之丞を見た。


「はい、お話しします。少し、長くなりますが……」


 銀之丞は金縛りにされたまま、知っている全てを詳しく話した。


 人魚無くしては生存できない河童のこと。

 人魚に反感を持つ治太夫のこと。

 恋仲だった人魚のナナセが治太夫に惨殺されて不死の能力が奪われた事件。

 その際に治太夫の不思議な力で首を斬られたことと、自分の自己修復の力とそれを得た経緯。

 その治太夫の命を受けた河童が出発するのを見て、後を追って泳いで来たことを……。


「なるほど~。河童も人界でないと子を産めないけど、人魚の世話にならないと人界に行けないのか…。

 鬼の神鏡のことを知って、それを奪って人魚の傘下から抜け出そうという魂胆だろうね~。で、命令されて、こいつが来たということか~」


「はい。お気を付けください。もう一河童、同時にこちらへ来ているはずです」


「オッと、伏兵が居るのか~。よし!すぐ捜索よ」


 館の外…。窓下では、そのもう一河童の三太が、中の声を隠れ聴いていた。

 恵美の発言を聞き、慌てて逃げ出した。

 後も振り返らず猛ダッシュし、海を目指す。


 恵美は千里眼の能力で捜索を開始。神社を中心に探してゆくが、逃げ出した三太の行動が素早くて見つけ損なった。

 ようやく見つけたのは、三太が海へ脱げ込むところだった。


「あちゃ~。感づかれて、逃げられちゃった~」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る