第51話 尻子玉抜き2
「う、う~ん…」
丁度その時、
「
アマの問いかけに、
「あ、赤ちゃんは…?赤ちゃんは無事?」
「大丈夫ですよ。
アマは、
テルも隣で
「う、ちょっと、大丈夫じゃないみたい。お腹が痛くて動けない……」
「え?」
その銀之丞の声を聞き、彼の当惑した表情を見た恵美…。眉を
相変わらず血まみれでよく分からないが、
…が、よくよく見ると、血管が大腸とキチンと繋がっていない部分がある。新たな出血は無いようだが、このままでは大腸が正常に動かないし、長く放っておけば、壊死してしまうかもしれない。
「薬が足りなかったのかもしれません。助けるには人魚様のところへ連れてゆくしか……」
恵美から
「人魚様?」
再び、恵美の話し方が鋭くなった。
「はい。先ほどの薬も、人魚様から頂いたものなのです。人魚様なら、どんな怪我でも治療できます」
「なるほど。慎也さんや祥子さんの治癒能力と同じか…」
「同じ? 治癒能力をお持ちの方がいるのですか?!」
銀之丞が驚きの声を上げた。人魚にしか無い能力だと思っていたのだ。
「それでしたら、その方に治して頂けば…」
「それが~、ダメなのよね~。二人とも人界だからね~」
場の緊張をほぐそうとしてのことか、再度恵美は話し方を柔らかくしている。
「で、では、例の神鏡で人界へ行けば良いのでは?」
恵美の伏兵捜索中にアマから鬼の神鏡について説明を受けていた銀之丞は、疑問を呈した。
「ダメなのよ~。その神鏡が効力をなくしてしまって~、私も帰れなくなって困っているんだから~」
「な、……。 それを知らずに神鏡を盗み出そうとして、こんなことを仕出かしたとは…」
「つまり~、あなたの言う人魚様のところへ行くしか方法が無い~ということね~。場所は、どっちの方角~?」
話しぶりは、いつもの調子だが、恵美の眼光は鋭くなっている。それにたじろぎ乍らも、銀之丞は答えた。金縛り状態なので指し示せず、言葉で…。
「私は、東北の方角へ真っ直ぐ泳いで参りました。ですので、ここからですと、西南の方角です」
銀之丞の回答を聞くと、恵美は目を閉じた。千里眼の能力で場所を確認するためだ。
暫くして…。
「何よ、これ~。呆れた…。あなた、この距離を泳いできたの~?
え~と、島が二つあるけど、どっち~?」
「な、なんと! 我らの島まで見えるのですか? 何という能力! あなたは、ヒトではないのですか?」
「失礼ね~。バケモノみたいに~。どうでも良いから、どっちなの~」
睨みつけられて、一瞬口籠りながらも、銀之丞は言葉を繋ぐ。
「は、はい。こちらからだと、手前の方が我ら河童の住む童島で、奥が人魚様の神島です」
「ふ~ん。奥か…。神島…。神島にも河童が居るね~」
「はい、人魚様のお世話する者や、警護の者が居ります」
「だけど~、この距離……。船が必要ね~。丁度追い風になるから、帆船があれば行けるけど~、村には無いよね~」
恵美は
「タケ~! 誰か~、タケを呼んで~!」
外に向かって大きな声を掛けた。
「は~い、居ります!」
入口で中を覗き込んでいた
「あんた、この間、漁をするための大き目の頑丈な舟を二つ作ったでしょ! それに帆をつけて!
舟一艘では安定しなくて転覆するから、二艘を横木でしっかり固定して、その横木の部分に帆柱を立てるの! 分かるかな?図面書くから…」
恵美は部屋の中にあった紙を取ろうとしたが、それをタケが制止した。
「大丈夫です。分かります。すぐに作ります。一時間で仕上げて御覧に入れます。
タミさん!帆の方をお願いしたい。手伝ってください」
「はい!」
タケとタミは、慌てて駆け出て行った。
金縛り状態で気を失っている、
恵美とアマは、それに視線を送るが黙って見送る…。
強く床を踏みしめる、テルの歩み…。
こちらも金縛りになっている銀之丞の横を通り過ぎると、覗き込んで入口を塞いでいた
そのまま神子たちはテルの行く方に向きを変え、皆で、テルを見詰める。
アマは小声で恵美に
「よろしいですか? 多分、殺してしまいますよ」
恵美も小声で囁き返す。
「仕方ないでしょ。愛する妻をこんな状態にされて、許せるはず無いもん」
テルは外に出て少し進むと、担いでいた河童を無造作に放り下ろし、背後に回って活を入れ、正気を取り戻させた。
が、金縛り状態のままで、河童=太吉は動けない。テルは太吉を坐らせた。
「お、御願いします。見逃してください…」
体を動かすことが出来ず震えるような声で懇願する太吉を、テルは立ったまま見下ろし、睨んでいる。
そして、腰に差している刀の柄に右手を掛け乍ら、低い声で尋問を開始した。
「正直に答えれば、金縛りは解いてやる。答えなければどうなるか、分かっているな!」
「は、はい。何でも話します」
「お前は、何をしにここへ来た」
「は、はい。河童の長の御曹司である治太夫様の命令で、鬼の神鏡を盗んで来いと言われまして…」
「その際に、他には何か言われなかったか?」
「は、はい、鬼は金縛りの能力を持っているから気を付けろと…。鬼の目を見てはいけないと言われました。
ですので、先ほどのヒトの時も警戒し、赤子を人質に取って抵抗できないように四つん這いにして、背後から尋問を…」
「尋問…。何を聞いた」
「はい、鏡のありかを尋ね、
「それだけか?」
「そ、それだけです」
鏡は三面存在する。
そう考えると、
「で、なぜ、素直に教えてくれた
「そ、それは…。密かに鏡を奪うには口を封じなければと…。
それに、とても
「尻子玉?…」
テルには聞き慣れない言葉だったが、『美味そう』というからには
テルは、そのまま暫く河童を睨みつけていた。
「よし、約束は守る。金縛りを解いてやろう」
そのテルの発言を聞いて、少し離れた位置…館の入口近くから様子を観察していた
太吉を見詰め、テルの目が赤く光る。
金縛り解除…。
自由を取り戻した太吉は、急いで逃げ出そうと立ち上がった。
が…。テルの手元が光った。
「ギャー!!」
悲鳴と共に、太吉は仰向けに倒れ込んだ。
両脚が、太腿の下部で綺麗に切断されて転がっている。テルが刀で抜き打ちにし、切り落としたのだ。
「う、ウオオー! 話が違う~!助けてくれるのではなかったのか!」
先が無くなってしまった両脚を両手で押さえ、激痛に耐えながら抗議する太吉……。
「誰も助けてやるなどとは言って居らん。金縛りを解いてやると言っただけだ」
テルは、太吉の右手も切り落とした。次に左手。切断面からはダラダラと血が零れ出る。
構わずテルは、腹部も横へ浅く斬りつけた。
次に縦へ。
十文字に斬れた腹の傷に、刀をズブッと突っ込んで、中身のハラワタをズルズルと引きずり出す。
太吉は血塗れで腸を曝け出し、体を大きく痙攣させている。
「留めは刺してやらぬ。そのまま苦しみながら死ね!」
テルは刀の血をぬぐい、鞘に納めて背を向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます