第48話 愛の危機1
―― 二日間遡って、妖界 ――
十一月九日に鬼の神鏡を奪取すべしという治太夫の命を受けた二河童、太吉と三太…。翌十日の明け方に、鬼ヶ島に泳ぎ着いた。
まだ早い時刻で、人影、いや、鬼影は無い。
見つからないように上陸し、上半身裸・腰蓑姿のまま、森の中を
太陽がてっぺんに昇り、更に半分くらい下りた頃、かなりの大回りをして神社まで到達した。
治太夫からは、この島には二十人ほどしか住んでいないとのことだ。
祭礼日でない限り、日中の神社になぞ誰も居ないだろうし、神鏡というからにはこんな神社のようなところにある可能性が高いだろう。そう考えた二人は、神社を捜索することにした。
まずは、拝殿の手前にある館に侵入することにする。左右に五棟ずつ並んでいるが、右の方から。
一人一棟ずつ調べ、最初の館は何も見つからない。
次に侵入した二棟の内、手前から四番目の太吉が入った館…。太吉は、室内に寝かされている赤子を見つけた。
小さな角がある。鬼の子だ。
赤子が居るということは母親も居るはず。この館は無人で無いということ…。一気に緊張が走る。
が、これはチャンスでもある。赤子を人質に取って母親を脅迫し、神鏡のありかを吐かせるのだ。
赤子を抱き上げると、すぐに泣きだした。
隣の部屋から、壁越しに優しく声が掛かる。
「どうしたの~? 待っててね。すぐ行くから~」
若い女の声だ。
即座に太吉は、壁越しに警告を発した。
「来るな! 言うことを聞かないと赤子を殺すぞ!」
「だ、誰!」
壁の向こう側からの女の声が、鋭く変わった。
「騒ぐな! もう一度言う。赤子を殺されたくなかったら、言う通りにしろ!」
「わ、分かったから、赤ちゃんに酷いことしないで!」
「よし、目を閉じたまま戸を開けろ。そして、後ろ向きで入ってこい。こちらを絶対に見るな。見たら、即、赤子を殺す」
「分かりました」
戸がスーッと開き、白い着物姿で、目を瞑った女が現れる。
太吉は、その顔を見て驚愕した。
何故なら、河童族が神の様に仰ぐ人魚様によく似ていたのだ。
但し、かなり若く見える。十代後半といったところか…。
人魚は皆、二十代中頃の見た目だ。見た目だけであって、実年齢は全く違うが…。
目を瞑ったまま入室してきた女性…。それは、
彼女は、素直にそのまま後ろを向き、部屋に入って戸をキッチリ閉めた。
「顔はそちらに向けたまま、四つん這いになれ」
子供を人質に撮られては抵抗できない。
実は、隣の部屋では、もう一人の子がスヤスヤ寝ていた。それを気付かせないように、そして、そこへ通じる戸を塞ぎ守るように、
「目を開けるなよ。そのまま質問に答えろ。変な抵抗をすると、即座に赤子を殺す」
「わ、分かりました。だから、赤ちゃんに手を出さないで!」
「よし。素直に答えろ。見たところ、角が無いようだが、お前は鬼では無いのか?」
「はい、違います。私は
「ヒトか…。これは都合良い。お前たちがここへ来るときに使われた神鏡は、どこにある?」
「神鏡? 貴方は、いったい誰なんです?どうしてそんなことを?赤ちゃんは無事?」
「質問にだけ答えろ。でないと、赤子を殺すぞ」
そんな
「大丈夫だ。心配するな。赤子は寝ている。こ奴、なかなか図太いぞ…。目を開けるのだけ許す。見てみろ」
ヒトであれば金縛りは大丈夫だと考え、太吉は
そして、その考え通り、
…しかし、そんなことは、どうでも良いこと。その子を抱いて
「我は河童だ。
河童……。
神鏡の秘密を知っている…。しらばくれる訳には行かないだろう。
しかし、現在は効力をなくしていると言え、やすやす奪われて良いモノではない。
神鏡は三面存在する。
その内、
テルは、今ちょうど、同じ境内の村長御殿にいるのだ。テルならば、何とかしてくれるだろうと
「神鏡は、
「
「そこまでは、私は知りません。大事な神鏡の事です。私なんかに教えて貰えないことです」
「そうか。まあ、良い。拝殿右の建物か……」
太吉は、赤子をそっと後方の床に寝かせた。
それを、振り返っての横目で確認し、
このまま出ていってくれれば、更に良いのだが…。
しかし、そんなに甘くはない。
太吉にとって、目撃者の
そんな者を、このままにして行けるはずが無い。
それに、太吉は長い距離を泳いで来た上に、昨夜から何も食べていなかった。無性に腹が減って、気が変になりそうな状態だった。
今、太吉の目の前で、尻を向けて四つん這いになっている、人魚様に似た美しいヒトのメス……。
若く、着物越しでもスラッとした素晴らしい体つきが分かる…。
欲望がグツグツと湧き上がってきて、
この欲望を、満たしたい…。
太吉は、
「赤子に何もされたくなければ、そのまま動くなよ。なに、心配は要らない。大人しくしていれば、赤子には決して手を出さない。約束する」
彼女は、普段からショーツを着けていない。この鬼の村では、そんな物は入手困難なのだ。だから、白く可愛らしいお尻が、完全丸出しの状態となってしまった。
「い、イヤ…。 赤ちゃんの前で、変なコトしないで…」
赤子を起こしてしまわないように、
顔を近づけられ、覗き込まれているのか。いや、恥ずかしい部分の臭いを嗅がれているのか…。悪感が走る。
「これは、これは…。最上級特上品では無いか!
こんな極上の一品を味わえるとは、なんと幸せな…」
「やめて…。許してください。味わうなんて、冗談じゃない……」
硬い手が
四つん這いのまま、股を開けた姿…。恥ずかしい全てが、後方から丸見え……。
ハシタナイ恰好にされて、
……このままでは、犯されてしまう! テル以外と交わるなんて、絶対にイヤだ!……
そう思っても、河童の方が赤子に近い。
大切な我が子の事を考えると、
「お願いです。止めてください。赤ちゃんも起きちゃうわ…。こんなの、赤ちゃんに見せられない。だから……」
「なに? ああ、まあ、そうだな…。
しかし、大丈夫だ。お前を頂戴している最中を見られなければ良いことだ。赤子が寝ている間に、手早くサッと済ませてやる。全く問題無いぞ!」
いやいや、それは、違う。問題大有りだ。
そんな行為はされたくない…というか、そんな行為は許されないだろう!
反論しようと思ったが、その前に太吉が続けた。
「ズブッと
もっともな、
太吉は、
「あなたは気持ち良いのかもしれませんが、犯される私は…」
「そう睨むな…。お前は滅多にお目にかかれない、最上級の素晴らしい体をしておる。その貴重な身を捧げて貰うからには、最大限の敬意を払って、綺麗に終わらせてやるぞ。
時間が限られて居るから、残念ながら
勝手な言い分だ。
身を捧げるなんて、そんな同意は一切していない。
敬意を払うなんて冗談じゃない。単に女の体を
そうは思うが、今の
逃げ出すことは出来ない。下手な抵抗も不可。
我が子が人質なのだ。
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