第23話 沙織、暴走する2

 年が改まって早々。最初の事件が起きた。


 場所は、権兵衛も出席した新年会が行われたホテルの廊下。前総理が参加するような新年会である。かなりの規模であった。

 沙織は権兵衛と一緒に出席し、途中、トイレへ立った。用を済ませ、鏡を見ながら、ふと考えてしまう。


 ……正月と言えば、神社の繁忙期。慎也たちは、どうしているだろう?

 忙しかっただろうが、大丈夫だったろうか……


 考えても仕方のない事。気を取り直し、トイレを出る。

 そのトイレから出て来たところを、いきなり男に抱き着かれ、押し倒されたのだ。


 彼女は、かなりの美人。胸も豊満な、女性らしい体つき。

 秘書としての仕事上、着ているのはスーツであるが、それでも十分過ぎるほど魅力的である。

 そんな女性が、無意識ではあるのだが、「淫気」を垂れ流している。更には新年会ということで、男はアルコールが入っていた。

 ……結果、抱き着き、押し倒してしまったということだった。


 沙織の叫び声…。

 場所柄、すぐに人が駆けつける。相手は即座に取り押さえられ、連行された。

 相手の男は、将来を期待される若手政治家であった。権兵衛も目を掛けていて、沙織に見合いさせようともした人物だった…。

 これは、報道関係者も多数来ている中での大騒動。すぐにニュースになり、白昼に起こった国会議員の婦女暴行未遂事件ということで、その男の政治生命は絶たれてしまった。

 沙織があの場に居なければ、こんなことにはならなかったであろうに…。あわれとしか言いようがない。



 二番目の被害者(?)は、壮年男性新聞記者。大手新聞社に勤め、敏腕で知られる人物だった。

 元総理のインタビュー記事を掲載したいということで、面会。そして、取材が終わった後、沙織が見送りに出た。


 新聞記者ということは、マスコミ関係者。

 沙織は、雑誌にひどい中傷記事を載せられたのを思い出していた。

 あれ以来、マスコミ関係者は、あまり好きになれない。が、マスコミ関係者すべてが悪いのではないし、あの後に反論記事を載せてくれた別の雑誌記者は非情に友好的だった。

 今日来ているのも、与党の政策に好意的な新聞社の記者だ。悪い人物では無いはずだ。


 だが…。


 この記者が、沙織に、いきなり抱き着き、口づけを迫った。

 当然ながら、すぐ警備員に取り押さえられた…。

 彼は勤めていた新聞社を即刻クビになった。



 三番目・四番目の犠牲者(?)は、たまたま書店に居合わせただけの、中年と青年の男性。沙織は、そこで、雑誌を立ち読みしていた。


 雑誌に書かれていたのは岐阜県の観光地紹介。そこには、すっかり有名になった奈来早神社の紹介も…。

 食い入るように、そして、戻りたい渇欲に身もだえしながら読みふける沙織の両側から、同時に二人が跳びかかった。


 奪い合うように沙織に抱き着いてきた二人。

 それぞれに服の上から両の乳房をムギュッと掴まれ、見ていた雑誌を放り捨てて悲鳴を上げる沙織…。


 更にそれだけで済まず、その沙織を助けようとした近くにいた青年が、五番目の餌食(?)となった。この青年も、すぐに、一緒になって沙織を奪い合いだしたのだ。


 男三人がかりで襲われては、堪らない。

 しかし、彼女は、ただの「か弱い女性」ではなかった。何しろ、屈強な鬼の首を取った女なのだ。抵抗しなければ三人に組み伏せられて貞操を奪われてしまう。身の危険を感じ、臨戦態勢になった。


 まず、中年男性。抱き着いて、沙織の唇を奪ってくる。が、そんなことをすれば、当然…。沙織は一気に相手の生気を吸い取った。中年男性は、そのまま気絶して倒れ込んだ。


 次に、最初の青年。これも、同じように抱き着いて来て、沙織に唇を合わせた瞬間、気を吸い取られ、崩れ落ちた。


 後から加わった青年は、他の二人に押しのけられて尻餅をついていたが、再度沙織に抱き着こうと襲い掛かかる。そこへ彼女の、強烈な、蹴り上げ!

 これは、見事、股間に命中。男は、悶絶失神した…。


 沙織は駆け付けた女性警備員に保護され、男たちは救急車で運ばれていった。警察官に付き添われて…。



 権兵衛は、またもや頭を抱えた。

 なぜ、こうも沙織ばかり襲われるのか…。これは、見合いさせるどころではない。

 確かに、沙織は美人で魅力的だ。しかし、こう次々事件に巻き込まれては、堪ったものでない。

 とんだトラブルメーカーだ。


 だが、嘆いてばかりもいられない。何しろ、可愛い孫のことだ。信頼のできるボディーガードを二人つけることにした。元自衛官の…。

 これが、次の悲劇を生んだ。

 ……一人は女性で問題なかったが、もう一人は男性だったのだ。


 どんなに真面目な人物を選んでも、男である以上、沙織の淫気にはあらがえない。

 そう、ボディーガードということは、常に沙織の近くに居なければならないのだ。

 当然の如くに、この男性ボディーガード、沙織の毒牙(?)に掛かることとなった…。


 時は節分。

 沙織は、慎也、そしてアマや娘たちと過ごした賑やかな節分行事を思い出していた。

 その沙織に、突然男性ボディーガードが抱き着いたのだ。


 驚いた女性ボディーガードが、その同僚を蹴り飛ばして離れさせた。が、そんなくらいで動けなくなるようなやわな男ではない。

 反撃に転じ、逆に女性ボディーガードの腹を思い切り蹴りつけた。

 苦悶の表情で腹部を抑え、うずくまって動けなくなった同僚女性の顔面を再度蹴りつけ、気絶させる。

 その上で、悲鳴を上げる沙織の服を破き、唇を奪った。


 が…。

 やはり沙織に気を吸い取られ、昏倒…。


 男性ボディーガードは逮捕。女性ボディーガードは、鼻骨と肋骨の骨折で即入院という惨事になってしまった。

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