第17話 野村医療研究所2

 美雪は渋々、下半身裸で股を大きく広げているスミレの股間を観察した。

 スミレは、診察台の上で、さっきからずっと、この恥ずかしい姿のままでいる。いつまでも放置するのは可哀想だということで、美雪も抵抗をあきらめたのだ。


 改めて見ると、やっぱり、普通とだいぶ違う。女性に有るはずのない、「立派なモノ」が付いている。その下は裂け目となって小陰唇状になり、中央には膣口が少し口を開けている。その下は肛門だ。


 解剖図と見比べながらの美雪の透視で判明したのは、スミレの女性器は、膣・子宮・卵巣・卵管とも、通常と変わらないこと。

 そして子宮の中には小さな胎児が居ること。

 股間の出っ張りは、男性器と同じ構造で尿道が通っていること。

 睾丸は無いが、前立腺と精嚢せいのうのような臓器が存在することだった。


 性器というモノは、元々男女とも同じ形をしていて、それが胎児成長過程で受けるホルモンの影響で女性器になったり男性器になったりと分化する。であるから、ホルモンの状態によって分化しそこなうということはまれにある。

 しかし、元が一つしか無いのだから、それが変化したモノも、どちらか一つしか無いはずなのだ。

 スミレの場合は、陰核が無いだけで女性器は完璧。そして、男性器は睾丸以外そろっているということ。これは普通に考えて、あり得ないことだ。亜希子も、首をひねるしかない…。



 続いて早紀も診察ということになる。だが、その前に、早紀は父親の総司を外に追い出した。

 まあ、当然な行為。この歳になって、父親に陰部を見られるのは嫌だろう。

 慎也も男だが、彼は旦那になる人だ。よって、同室を許されたというか、一緒に退室しようとしたのを、早紀に引っ張り込まれた。

 (スミレの診察時は、部屋の出入口に寄って見ないようにしていた)


 早紀は下半身裸になり、スミレと入れ替わりで、診察台に乗る。


「早紀の場合は深刻じゃからのう。もし男の機能があるとなれば、大変なのじゃ。女だらけのところに一緒にいることになるからの。

 特にあの女好き双子が帰ってきたら、どうなるか分からぬ」


 舞衣も大きくうなずいて、続ける。


「まったくよ。あのレズっ子たち、絶対に早紀ちゃんを、オモチャにしちゃうから!

 それであの子たちが妊娠すれば、女同士の子ってことになっちゃうし、訳が分からなくなっちゃう!」


「まあ、みんな家族なんだから、俺の子じゃなくても、身内の中でのことなら特に気にはしないけど…。やっぱり、ややこしくなるからな~。

 あのレズっ子たちは、知ったら大喜びで早紀ちゃんに、チョッカイ出してくるだろうし…」


 三人そろって、双子を完全にレズ扱いする。

 亜希子は杏奈と環奈が怖いので、ポーカーフェイスをつらぬく。が、心の中では…。


(あ~あ。私は、知~らない…)


 そして……。

 ついに杏奈と環奈の我慢が、限界を超えた。

 その二人が衝立ついたてをドーンと、前へ押し倒したのだ。


 突如として倒れてきた衝立の奥には、仁王立ちの、ムスッとした表情の、話題の「レズ双子」。

 舞衣・慎也・祥子は、目をいて完全フリーズ!

 美雪・早紀・スミレも驚いている。


 同じ顔の二人は、同じ動きで倒れた衝立の横に移動し、フリーズしている三人に対して、にらみつけながら目の前の床をチョンチョンと指差した。


 舞衣には三度目の同パターン。率先して、指差された場所に正座する。

 ついこの間、美雪にさせられた慎也と祥子も、あわてて舞衣に従った。


「舞衣様…。いったい私たちを何だと思っているんですか!」

「私たちはレズじゃありません。別に、女になんか興味ありませんから!舞衣様が好きなだけです!」


「慎也さんも!私たちが慎也さん以外の人との子を身籠みごもるようなことをするはずありません!」

「祥子さんも、ですよ。ひどいです!」


「あ、あの~、お二人は何故なぜここに~?」


 気まずげな顔をして見上げながらの慎也の問いには、亜希子が答えた。


「今日から、ここでアルバイトしてもらうことになったんです」


「先に言ってよ~、亜希子さん」


 慎也は、亜希子の方へ首を曲げて非難交じりの声を出した。


「口止めされていたんですよ。驚かせたかったんじゃないですか?」


 杏奈と環奈は、変わらずに三人を見下ろしてにらんでいる。

 睨まれている三人は、三人でそれぞれの顔を見合って、一緒に前へ手を着いた。


「ゴメンナサイ!」


 同時に土下座だ。

 その姿を見て、双子はクスクスと笑い出した。

 土下座の三人も顔を上げ、笑顔になる。皆で声を上げて笑い合った。


「舞衣様!お久しぶりです」

「慎也さんも!」


 杏奈と環奈はサッとしゃがんで、舞衣と慎也に抱き着いた。慎也と舞衣も、二人の肩に手を回した。まだ分かれて一ヶ月も経っていない。久しぶりというほどでもないだろうが、二人にとっては、そう言う感覚だということだ。


 舞衣は立ち上がって、その二人をスミレの前に連れて行く。


「紹介するね。こちらが、慎也さんの第五夫人の杏奈ちゃん。で、こちらが第六夫人の環奈ちゃん」


 スミレは双子を見比べ、キョロキョロしている。


「舞衣さんすごい。私には見分けが、つかないんですけど」


 スミレが驚いたのは、全く同じに見えるのに、舞衣がそれぞれの名前を躊躇ちゅうちょなく紹介したこと。


「私も、見分けつかないのよね。」


 美雪が同調し、早紀も診察台の上でうなずいた。


「舞衣様は、私たちを間違えたこと、一度もありませんもんね~」

「ホントです!流石さすがです。母様でも間違えるのに!そういえば、慎也さんも間違えませんね」


「それはね。愛の力というやつですよ!」


 慎也は胸を張る。が、その隣で、舞衣と祥子が笑っている。


 実は、慎也が間違えないのは、気を感じることが出来るから。オーラというのか、目を凝らせば、それを見ることも出来る。二人の気はよく似ているが、渦を巻くように回っている。その向きが、杏奈と環奈では逆向きなのだ。


 沙織もそれを見ることが出来るようになって間違わなくなった。

 そして、祥子も、当然見えている。だが、祥子が双子のどちらかを単独で呼ぶことはあまりない。よって、二人に「祥子も間違えない」と特別認識されないだけ。


 舞衣に関しては、気は見えない。しかし、彼女はテレパシーの特殊能力で、意識を同調できる。よって二人を間違えることは無いということ。


 種明かししてしまえば、な~んだということだが、「愛の力」と言っておけば、双子の機嫌がよくなる。

 舞衣も祥子も心得ていて、だから彼女らの笑いは、「苦笑」だ。

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