第14話 結婚許可1


「慎也さん!大変です!」


 美雪が、慎也の部屋に駆け込んできた。

 早紀も同じであるが、美雪はそれまで慎也のことを「宮司さん」と呼んでいた。が、妾になることが決まり、呼び方を改めていた。


「な、なに? どうしたの?」


 机に向かって書き物をしていた慎也が振り返った。

 早紀の話では、彼女の父親は再婚したがっていて、その許可を貰いに来るとのこと。早紀に関しては特に問題なく話が進みそうだと、慎也は安心しきっていた。


「さ、早紀の小父おじ様が…」


「あ、もう、いらっしゃったのか。で、何が大変なの?」


「そ、それが……」


 美雪は口をパクパクさせて、後の言葉が出ない。


「と、とにかく、早く来てください!」


 それだけ何とか口にした美雪に左手を引かれて、慎也は部屋から連れ出される。途中で祥子も捕獲され、美雪に二人は引っ張られた。

 丁度、舞衣もあわてて神社から戻ってきた。


「舞衣さんも早く~!」


「え?何? あ、もういらっしゃってる? すぐ行くから!」


 舞衣の返事を聞いて、美雪はつかんでいる慎也と祥子を、そのままグイグイ引っ張ってゆく。

 慎也が座敷に入ると、上座に坐った御客様の向かいに早紀が坐り、そのお客様を早紀が無言でにらみつけていた。

 今日は早紀の相談の時と違い、客を迎えるということで机と座布団が用意してある。しかし、まだお茶も出していないようだ。

 坐っている男性は、早紀の父親であろう。が、女性は、かなり若い。そして困り顔でうつむいている。


(おや?)


 慎也は、少し首を下げてのぞき込むようにした。うつむいていて、よく見えないが…。確か…。舞衣と同じ隅田川乙女組の…。


「え、遠藤スミレさん…」


「はあ? 誰じゃ?」


慎也の口から発せられた聞いたことのない名前に、祥子が怪訝けげんな顔をした。


「いや、舞衣さんと同じアイドルグループに所属していた子なんだけど……。どういうこと?」


 小声で祥子に言いながら、その、上座二人をにらみつけている早紀の隣に慎也が坐る。

 祥子は慎也の斜め後ろ。美雪が、早紀のもう一方の隣に坐った。

 美雪が坐り終わったのを確認し、慎也は早紀にいた。


「えっと…。どういうことになっているのかな?」


「知りません! ただ、正面に居るのが、私の父です。みんなそろうまで黙ってろと言ってあります」


「は、はあ?」


 早紀は、慎也たちが来るまで自身の父親に発言を許さず、その目の前の二人をずっとにらみつけていたということだ。


「ゴメンナサイ~! お待たせしました。急なお客様があって……。あ、あれ? スミレちゃんが、何で?」


 あわてて入ってきた舞衣が固まった。


「え!! もしかして、スミレちゃんの結婚相手って、早紀さんの…」


 続く言葉を無くした舞衣に、早紀が視線を向ける。明らかな怒り顔。

 慎也が一番奥の、自分の隣の空席を指さした。舞衣に、ここへ坐れと…。


「さて、みんなそろいました。父さん、釈明をどうぞ!」


「え、え~と、私が早紀の父親の山上総司です。実は、隣に坐っている遠藤スミレさんと再婚したく、娘の了承をもらいに来たのですが……。実はスミレさんは、もう、身籠みごもっていまして…。ですから、男の責任として、正式に結婚したいと……」


 早紀がスミレに鋭い視線を流す。


「遠藤さん!失礼ですけど、御歳は?」


 困り顔のまま、スミレは顔を上げ、おずおずと答える。


「二十二歳です」


「私も二十二歳……。『若い』とは聞いていたけど…。父さん、娘と同年の子に手を出したの?

 で、遠藤さんは、いつから父とお付き合いを?」


 早紀は、「五年付き合っている彼女が居る」と、既に電話で父から聞いていた。この質問は、その確認の為。だから、父に向けていた視線を途中でスミレに移し、スミレにいた。


「は、はい、五年と少し前から…」


 返答を受け、再び鋭い視線を父親に戻す。


「こっちに全く帰ってこなくなった頃なのよね。娘をホッタラカシて、その娘と同い年の若くて可愛い子を手籠てごめにして、毎日イイコトしまくってたんだ…。」


 いや、父は帰ってこなくなったのではない。帰っては来ていた。泊まらなくなっただけなのだ…。

 しかし、その父、総司は娘に反論しなかった。そう、総司は…。


「ち、違うんです!」


 急に、隣のスミレが大きな声を出した。


「スミレちゃん、落ち着いて! いいんだよ。その通りなんだから」


 発言を止めようとする総司に、スミレは大きくかぶりを振った。


「違います! 総司さんは悪くなんかありません! 総司さんが居なければ、私は生きていない! 総司さんは、私の命の恩人なんです!」


 スミレは、やおら立ち上がり、いきなり服を脱ぎだした。


「ちょ、ちょっと、スミレちゃん!!」


 舞衣があわてる。総司も止めようとするが、その手を払い、ブラジャーも外す。スミレは上半身裸になった。

 舞衣は即座に慎也の目に手を当て、見えないように目隠しをした。

 祥子は怪訝けげんな顔。美雪と早紀は、唖然あぜんとして見つめる…。

 構わずスミレは、スカートも脱ぐ。そして、最後のショーツに手を掛ける。

 慎也は、目を隠されたまま。だが、ついこの間、同じようなことがあったばかり。それをしたのは、今、慎也の隣に坐っている早紀だ。


(もしかして……。いや、そんなはずは……。そんなこと、あり得ない……)


 舞衣の手で隠されてしまっているが、慎也はスミレが次々脱いでいく気配を感じていた。

 そのスミレは、ついにショーツも脱ぎ終わり、全裸になった。


 その股間には…。

 あるはずがない物がぶら下がっていた。


 舞衣も、呆然ぼうぜん…。慎也の目に当てている手の力を抜いた。

 目隠しが無くなり、慎也の目に飛び込んできたモノ。舞衣の後継者と言われた元美少女アイドルの全裸と、その股間の異物……。


 スミレの隣の総司が、彼女に服を羽織はおらせ、坐らせた。


「私と同じ体……」


 早紀が、小さな声でつぶやいた。

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