第13話 遠藤スミレ3

 運命の日、当日。まずは舞衣さんからです。

 すでに、舞衣さんがいるはずの神社の鳥居前。特に、アポは取ってありません。

 もう緊張しかない…。喉が渇いて、唾をゴクッと飲み込みます。

 鳥居をくぐって、社務所前へ。受付には誰もいません。


「こんにちは!」


 声を掛けると、


「は~い!」


 聞き覚えのある綺麗な声。舞衣さんです。


「へ? スミレちゃん? うわ、久しぶり~! ビックリした! 上がって、上がって!」


 障子を開けて顔を出した、舞衣さん。いきなりの大歓迎?こちらがビックリです。

 指示された入口から上がり、畳敷きの部屋へ入ります。総司さんも私に続いて入り、二人で坐ります。


「何? どうしたの、今日は…。そちらの方は?」


 正面に坐った舞衣さんからの質問。しかし、それは置いておいて、私はまず、目的を果たします。


「舞衣さん!ごめんなさい!」


「何、何?」


 舞衣さんは、私のいきなりの謝罪に、目を白黒させています。


「あ、あの日…。あのコンサートの日。下剤の入ったジュースを運んで美月ちゃんに渡したのは私です。

 勿論もちろん、そんな、変な薬が入れられていたなんて、全然知りませんでした。でも、私が運んだのは事実です。本当に、ごめんなさい!」


 畳みに打ち付けるくらいの勢いで頭を下げた私に、舞衣さんはスーッと寄ってきて、頭を優しく上げさせました。


「バカね。そんなの全然気にしてないわよ。

 もしかして、ずっと気に病んでいたの? 大丈夫よ。全く気にしてないから。」


 舞衣さんは、私を抱きしめてくれました。温かく、良い香りのする舞衣さんの胸に顔を埋めます。

 良かった、許してもらえたんだ…。


「ねえ、スミレちゃん、それより……。そちらの方は…」


 再度の、舞衣さんからの質問。


「あ、ごめんなさい!」


 舞衣さんは私を解放し、正面に坐りなおします。舞衣さんが坐ったのを確認して、私は口を開きました。


「こちらは、私の旦那様になる人です。私、結婚します」


「エッ?」


 舞衣さんは驚き顔で固まっています。それはそうでしょう、旦那様というより、父親といった歳ですから…。


「あ、ごめんなさい。私が言うのも何だけど……。かなりの歳の差カップルね……。あ、いや、失礼…。おめでとう!」


「あ、有難うございます……。やっぱり、変ですかね、私たち…」


「変じゃないわよ! そういうカップルも結構あるでしょ!変なのは私の方だから!知ってるでしょう?」


「は、はい……」


「ははは…。まあ、そういうことで……。で、お二人のなれそめは?」


「彼は、私の命の恩人なんです。彼が居なかったら、私は自殺してました…」


 私は隅田川乙女組が解散になった後から、男に襲われ、彼のところにお世話になっていたことを話しました。勿論もちろん、体の秘密や、彼の病気に関係することは内緒。ただ、妊娠のことは伝えました。


「そうだったんだ。スミレちゃんも大変だったのね。ごめんなさい。私の所為せいでもあるのよね」


「そんな! 舞衣さんの所為じゃありません! 私の方こそ、舞衣さんに謝りたくって!

 グループにいた時から、本当は舞衣さんと、もっと親しくさせてもらいたかったけど、一期生の目が怖くて…」


 私の目から、涙がほおを伝いました。

 舞衣さんは、そんな私を再び、優しく抱いてくれました。


「美月から聞いてたから知ってるよ。私と話したがってたって…。ゴメンね。そして、幸せになってね。

 そうだ、スミレちゃん。なんなら、結婚式、この神社でしちゃいなよ!」


 考えてもみなかったこと。

 私は、彼と一緒に暮らせるならば、それだけで良いと思っていました。

 結婚式か…。舞衣さんの所でさせてもらえるなら、嬉しい!

 彼を見ると、うなずいてくれました。


是非ぜひ! 是非、お願いします!」


「オッケーオッケー、旦那にも言っておくね。

 あ、だけど、ゴメン。これから、ちょっと大事なお客様の予定があって、もうそろそろ、ここを閉めて家の方に戻らなきゃならないの」


「ゴメンナサイ!私たち、お忙しい時に突然来ちゃって!」


「ううん。大丈夫よ。普段はこんなこと、あまりないんだけどね。今日は、ちょっと重大な予定が入っていてね。ごめんね」


「実は、スミレにもまだ話してなかったんですが、春から名古屋支社に転勤になることになりまして、こっちに引っ越しを考えています」


 彼の口から、想定外の嬉しいニュース。そうなれば、もっと気軽に、ここへ来ることが出来ます。

 時間が迫ってあせっている舞衣さんに再度謝り、また改めて来るということで、連絡先を交換して、退出しました。

 良かった。許してもらえて…。


 しかし、次の予定が難関です。彼の娘さんに、結婚の許可をもらわなければなりません。

 娘さんの指定した場所は、なんと、神社の目の前。鳥居から見て百メートル位のところにある「御屋敷」だそうです。娘さんの彼氏も、そこに来るとか…。

 約束時間まで、あと二十分くらい。場所はすぐに分かりました。

 「御屋敷」といえば、目の前に見えている、あそこしかない。

 御屋敷というより…。なんか、お城みたいな感じ…。特殊な料亭か何かなのかな?

 時間的にちょっと早いですけど、他に行くところもありませんので、そのまま向かいます。

 石段を上がり、開いている門を潜ると、小柄な、中高生くらいの女の子。私を見て、固まりました。


「え、も、もしかして、遠藤スミレちゃん……」


 私のことを、知っていてくれたようです。


「あ、あれ、なんで? 何で早紀の小父おじ様と一緒に?」


「え~と、田中さんでしたよね。娘がいつも、お世話になります。娘が今、こちらに居るということなんですが…」


 総司さんは、彼女のことを知っている様…。

 娘さんの友達かな? でも、それにしては、かなり年齢差があるような…。娘さんは、私と同い年のはずです。ここのバイトちゃん? バイト仲間ということかな?


「あ、は、はい…。え? どういうこと? え……」


 なんだか、ぎこちない動きをする変な子です。大丈夫かな…。

 その子に案内され、立派な玄関から上がってお座敷の上座に導かれました。


「父さん、早かったわね」


 娘さんが来たようです。結構、高身長の子。


「え…。ど、どういうこと?」


 娘さんも、私を見て固まりました…。

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