第11話 遠藤スミレ1


――元隅田川乙女組メンバー、遠藤スミレ――


 私には、誰にも言えない重大な秘密があります。

 両親も全ては知らなかったこと。しかも、その両親は、私が中学生の時に死んでしまっています。だから、これは私だけの秘密。

 それは、私の体の重大な欠陥けっかん…。

 誰にも知られてはいけないこと…。


 私の秘密…。産まれた時は、お医者様も気付かなかったようです。

 初めに気付いたのは、母親。私が三歳くらいの頃。おむつを替えるときに、私の女の部分が少し違うことに…。小さな出っ張りがあることに気付いたと…。

 でも、些細なもので、その時は、それほど気にしなかったそうです。


 ですが、小学校低学年頃から、それがだんだん大きくなってきました。

 お風呂に入るときに見た母は心配になり、お医者様に診てもらったそうです。

 陰核が普通より大きいという診断。子宮も卵巣もあり、この後、初潮が来れば、問題は無いだろうとのこと。そして私は小学校五年生の時に、無事初潮を迎えました。


 初潮を迎えたことを母に話すと、涙を流して喜んでくれました。その翌日は赤飯と、たくさんの御馳走。ケーキまで用意され、父も嬉しそうにしていました。

 その時に母が話してくれたのです。私のアソコが普通と違っていて、お医者に見せたこと。初潮があれば大丈夫だと言われたことを。


 私は素直に喜べませんでした。私の股間の出っ張りは、更に大きくなっていたのです。

 丁度初潮を迎えた日の前日、学校での性教育で男女の体の違いを教わりました。私のアソコが普通と違う…。でも初潮は、あった。つまり、私は女で間違いない。じゃあ、この男の人のようなものはナニ?

 恥ずかしくて、誰にも相談できません。どうやら、クリトリスとか陰核とかいう部分が大きくなってきているよう。でも、その下にあるはずの尿道口が、私にはありません。私のおしっこは、男の人と同じ、出っ張りの先から出ます。小さい頃からそうだったのか? いや、多分大きくなるにつれて、こうなってきたように思います。

 じゃあ、この先、私の体はどうなってしまうのか…。男に変わってしまう?

 心配していましたが、私の体つきは、同級生の誰よりも女っぽい…。胸もしっかり膨らんできていました。毛深くもありません。どちらかというと、体毛は薄い方…。

 だから、股間さえ見られなければ、変だということは分かりません。

 たぶん、私は女で間違いない…。

 アソコの出っ張りは親指くらいの大きさになっていましたが、だいたい、それと一緒に男の人にあるはずのタマタマは無いのですから…。

 ちょっと奇形なだけ…。だけど、これは絶対、他人には見せられない。


 中学二年の時、仕事の関係で外国に行った両親が、テロ事件に巻き込まれて亡くなりました。

 私は唯一の親戚、伯母(父の姉)に引き取られました。

 伯母は結婚していなく、独り身。そしてがんを患っていました。自分の寿命も長くないと覚悟していたようです。高校一年の時、私にアイドルに成れと言い出しました。「かわいいから絶対大丈夫」と隅田川乙女組のオーディションに勝手に応募していました。自分が死んでから、私が困らないようにと考えていたのかもしれません。

 私は体の秘密を抱えています。目立つことはしたくないというのが本音でしたが、日に日に弱ってゆく伯母に逆らえません。

 オーディションを受け、結果、合格。

 ですが、デビュー前に伯母の容態が悪化。私の晴れ姿を見ずに逝ってしまいました。

 私には、もう、伯母の残してくれた道を進むしかありません。身内も全くいなくなってしまったのですから。


 私は隅田川乙女組の三期生として、無事、デビューを果たしました。

 すぐ、同期の細田美月ちゃんと仲良くなりました。

 当時、隅田川乙女組の一番の顔は超絶美人の高橋舞衣さん。美月ちゃんも舞衣さんにあこがれていて、積極的な彼女は舞衣さんに、かなりベッタリな感じ。舞衣さんの妹分の地位を確立してしまいました。

 私も、舞衣さんは綺麗で優しくて素敵だと思いました。しかし、同時に、舞衣さんに取り巻く不穏な空気も感じました。創立メンバーである一期生の、黒崎さんや橋本さんを中心とする…。…舞衣さんは創立メンバーではなく、二期生なのです。

 嬉しいことに、私は舞衣さんの後継者などと評され、かなり良い扱いをしてもらうことが出来ました。同時に、一期の人たちの冷たい視線も大いに感じていました。

 美月ちゃんに相談すると、舞衣さんもカナリの嫌がらせを受けているとのこと、あまり舞衣さんに近づき過ぎると私も標的にされる恐れがあるとも…。

 美月ちゃんは舞衣さんに対する嫌がらせの証拠を集めて、奴らを一気に葬ってやると息巻いていました。私はすぐにも舞衣さんと仲良くさせてもらいたかったのですが、危険だから少し待つように美月ちゃんに言われました。

 だから、私は、どっちつかずの中立的立場を守り、特にどちらとも親しくしないようにしていました。美月ちゃんを除いて…。


 事件は、突然起きました。舞衣さんがコンサート中に体調を崩し、その翌日にファックスで引退宣言! 行方不明になってしまったのです。

 当然、大変な騒ぎ…。美月ちゃんは発狂しそうな状態。舞衣さんを探しに行くといって、居なくなってしまいました。


 幸い、美月ちゃんは二週間くらいで帰ってきました。しかし、その美月ちゃんの事件真相暴露によって隅田川乙女組は解散になってしまいました。

 美月ちゃんから電話で、散々謝られました。美月ちゃんが悪いわけでは無いのに…。

 それに、舞衣さんが飲まされた下剤入りのジュースを美月ちゃんに渡したのは、私…。私は運び屋をさせられていたのです。

 そんな薬が入れられていたなんて知らなかったとは言え、私にも責任があります。舞衣さんに合わせる顔も無い。仲良くさせてもらいたかったのに…。


 そして…。

 私は、唯一の居場所をなくしてしまいました。


 私も何もせずには生きて行けません。頼る人もありませんから…。

 居酒屋でバイトして、取り敢えずの生活費を稼ぐようになりました。

 芸能界にも、興味がないわけでは無かったのですが、やっぱり、体の秘密を隠すために、あまり目立ちたくない。

 バイトしている居酒屋は、元アイドルが居るということで大繁盛。店長には感謝され、他の店員さんも良い人ばかり。こんな生活も悪くないなと思っていました。


 未成年の為、仕事できるのは午後十時まで。

 ですが、その日は忙しく、内緒の延長…。店を出たのは十一時を過ぎていました。

 アパートへ帰る途中…。

 私はおそわれました。男三人に…。


 服を破かれ、ブラジャーを引きちぎられ……。

 そして男の手が、私の下半身へ…。

 そこだけは、絶対にダメ!

 私は激しく抵抗しました。

 だけども、ショーツもぎ取られ…。

 ………。

 男たちのあざける声。

 違う!これはチンチンじゃない! 私は男じゃない! 私は女よ!

 撮影もされてしまう…。


 終わった…。


 公開されたら、私はもう、生きてゆけない。写真を撮られてしまった…。

 私は、もうダメ…。

 死ぬしかない…。


「警察が来るぞ!」という声。

 男たちが逃げてゆきます。

「大丈夫か?」という男性の声。

 私は全裸に剥かれ、脚を広げたまま放心状態…。

 当然、その男性にも股間を見られます。

 だけど、もう、どうでも良い…。


 男性は、自分の服を脱いで、私にかけてくれます。

 そして、私を背負って、近くにあるという、自身のマンションへ連れて行ってくれました。

 この人の名は、山上総司やまがみそうじ。亡くなったお父さんと同年代くらいの人。

 部屋へ運ばれる途中に、話してくれました。

 彼の娘さんも、私と同じ体だということを…。

 私だけじゃ無かったんだ…。


 総司さんは、私のことをよく知っていました。ファンだったとのこと…。本当かな?

 でも、親身になって私の為にいろいろしてくれました。

 親友が探偵をしているということで、私を襲った奴らのことも調べてくれました。

 奴らは、黒崎・橋本の指示で動いていました。

 私の後に美月ちゃんも襲われたとのこと。その後、舞衣さん襲おうとして捕まりました。

 撮影された私の秘密の画像は、黒崎たちの方に渡っていたそうです。

 ですが、拡散される前に黒崎たちも処分されたと知らされました。

 逮捕されたのでもないようですが、もう二度と出てこれらない状態にされたですって。

 何か、怖い言い回しなんですけど…。

 具体的なことは教えてもらえませんでしたが、絶対に大丈夫だということでした。

 この件は、それでよかったのです。

 でも、その後…。

 美月ちゃんが…。


 殺されてしまった……。


 仲の良かった、あの美月ちゃんが…。

 首を引き千切られて、殺された?

 何よ、それ! 首を引き千切られたって…。


 私はショックで、完全引きこもり状態になってしまいました。

 そのまま、総司さんにお世話になり、居候…。


 何もせずに……。

 一切外に出ずに……。

 廃人のように……。


 三年近く……。

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