第12話 遠藤スミレ2

 ある日、総司さんがあわてて私に言いました。娘さんが事件に巻き込まれたみたいだと…。

 総司さんは、それまであまり家に帰らず、仕事以外は、私につきっきりでした。娘さんは完全にホッタラカシ状態だったのです。

 娘さんは地元の岐阜県で一人暮らしをしていて、大学生とのこと。総司さんの奥さんは、すでに亡くなっていたのでした。


 私、そんな娘さんのお父さんを、盗っちゃっていた…。

 悪い事したな…。

 こんなままじゃ、ダメよね…。


 私は、一人だけになった部屋の掃除をしてみました。

 それまで、私は掃除もしていなかった…。

 総司さんの寝室の隅に積んであった雑誌…。その中に「高橋舞衣」の名前のある三冊を見つけました。

 最初の一冊を読んでみると、ひどい書かれ様。舞衣さん可哀想…。

 次のは、かなり好意的内容。でも、第四夫人まで居るって…。舞衣さん、大丈夫なのかな…。

 最後のは、もう、舞衣さんは神様扱い。やっぱり、すごいや…。

 発行年を見てみると、三年前。私が引き籠りに入ったころ。

 今は、どうなっているんだろう? でも、私は舞衣さんには、合わせる顔が無い…。


 総司さんは、翌日に帰ってきました。もっとゆっくりしてきてもよかったのに…。

 娘さんは大丈夫だったみたいです。仲の良い友達もいて、良くしてもらっているとのこと。

 そして、総司さんは、綺麗になった部屋を見て驚いていました。

 掃除したことを、喜んでくれたみたいです。


 もっと、総司さんを喜ばせたい…。


 私は、毎日掃除をするようになりました。徐々に、食事の用意も…。

 すると、総司さんは、更に喜んでくれました。


 私も嬉しい! もっと喜ばせたい!


 食事準備のために、買い物にも出るようになりました。



 そんな風になってある日、買い物の際、年配の奥様に声を掛けられました。時々、顔を合わす人で、私が元アイドルだということは、知らないみたいです。

 その人、私のことを、「若奥様」だって…。

 「御主人は幸せね」ですって…。


 御主人…。総司さんが?

 私が「若奥様」?


 ………。


 それ、良い…。

 そうなりたい…。


 彼は奥さんを亡くしている。つまり、今はフリー。だから不倫でも何でもない。

 彼なら、私の、この変な体も受け入れてくれるはず。


 私、彼の奥さんになりたい!


 その晩、私は彼が寝ているベッドへ潜り込みました。

 彼は驚き、大いに戸惑とまどっていました。

 それは、そうでしょう。私、彼の娘さんと同年代ですから…。


 でも、彼は受け入れてくれました。

 一つ、少しだけ…。ほんの少しだけ残念だったのは、彼、生でしてくれなかったこと。

 私、彼の子なら妊娠しても良い。というか、彼の赤ちゃんを産みたい!

 この体で、産めるかどうか、分からないけど…。



 それから、毎日、私と彼は肉体関係を持ちました。

 でも、彼は、必ず避妊します。

 やっぱり、娘さんと同年代の妻って…。駄目だめよね…。


 半年くらいして…。

 掃除の時、私はゴミ箱から、薬の袋を見つけました。

 彼の物です。中には、薬がそのまま入っています。飲まずに捨てたの?

 それに…「がんセンター」って、どういうこと?


 その晩、彼を問い詰めました。

 彼は癌に侵されていました。もう手術しても難しい段階って、何それ!

 そんな段階だったら、痛くてたまらないんじゃないの?

 判明したのは、約半年前って、私の体を受け入れてくれた頃…。

 だから、彼、必ず避妊していたんだ…。

 彼も、伯母と同じように癌で死んでしまう…。

 私はショックで、声も出ません。

 でも、彼が言うには、私とセックスするようになって、進行が止まったようだって…。

 それまであった痛みも無くなり、薬を飲む必要も無くなったから捨てた?

 薬は、痛み止めでした。

 飲んで治る薬じゃない。だから、必要無いから捨てた?


 …どういうこと? 私とセックスすれば、治るの?

 そんな事、あるはず無いじゃない!

 何バカなこと言っているの!!

 でも、彼を失いたくない…。

 本当にそんなことで治るのなら、一日中でもしてあげる!


 その晩、私たちは激しく交わりました。

 それまでは、普通に男と女の交わり…。彼が私に挿入して…という。

 でも、その日は、彼はじっくりと私のアレを愛撫し、口にしっかりくわえて……。

 今までは、先の方をめるだけだったのに…。

 そして、私もビックリ!

 私のアレから、男の人のような液体が出るなんて…。

 こんなの、産まれて初めての体験です。

 彼は、私が彼の口に放出したその液体を、ゴクッと飲み干しました。

 美味しいなんて…、嘘よ~。

 でも、すぐに彼が言葉を続けました。


「なんだあ、熱い…。君の体液が、腹にしみこんでいくような感覚だ」


 彼は目をつむり、気分良さそうな顔をして、しばらく動きを止めました。

 私は、そんな彼を見守ります。


「ねえ、ホントに? あんな変なモノ飲んで、気持ち悪くないの?」


「いや、その逆だ。凄く気持ち良い! もしかして、これか?

 今までは、少しめてただけだったけど、今日は飲み込んだ。これで、俺の癌が治っている?」


「そんな馬鹿な…。でも、そんなんで治るのなら、もっと飲んで!」


 再度彼にくわえてもらって、私も頑張って放出、またゴックンしてもらいました。

 やっぱり、飲むと気分が良くなる気がするそうです。


 それから、彼には毎日二回ずつ、私の体液を飲んでもらいました。

 三回以上が無いのは、私が二回までしか続けて出せなかったからですが…。



 二週間後。

 彼に付き添って病院へ行きました。定期検査です。彼はそれまで、一人で行っていたのです。私がずっと引きこもって、自分のことも、まともに出来ない状態だったから…。

 本当に、ごめんなさい…。


 検査を終え、彼と一緒に、お医者様の前へ。

 奇跡が起きました。

 彼の癌が全て消えていたのです!

 お医者様も、奇跡としか他に言いようがないと…。

 間違いじゃないかと、何度も確認したが、間違いじゃないと…。


 その晩は、いつものようなゴックンは一回だけ。続いて、彼は初めて、生でしてくれました。彼の精液が、私のお腹の中へ染み込む…。嬉しい!

 少し休んだ後は、恥ずかしそうにリクエストする彼に答えて、彼のアナルへ私のモノを…。彼の要望だったら、何でも叶えてアゲマス!


 次の日からも、毎日、同じような感じ…。


 一年後、私は、体の異変を感じました。ちょっと気持ち悪い。それに、生理がこない…。もしかして…。


 私は妊娠していました。

 彼の赤ちゃんを授かったのです!


 彼に話すと、喜んでくれました。そして、私と正式に結婚したいと言ってくれました。


 とっても、嬉しい!!

 ただ、娘さんに話さないと…。


 私は、彼の娘さんと同年代。いや、よく聴くと、同い年…。自分と同年齢の母親なんて、受け入れてくれるかな…。

 それに、私は普通の体じゃない…。普通の分娩が出来るかどうかも、分からない…。


 彼は、私が襲われた時に力になってくれた、親友の探偵さんに相談してくれたようです。

 そういったことに最適の研究所があるということで、紹介してもらうことが出来ました。

 研究所の場所は、岐阜県。

 彼の実家も岐阜県。

 娘さんとの顔合わせも兼ね、紹介された研究所へ行くことになりました。


 そして、岐阜県と言えば…。舞衣さんです。

 ずっと、気にかかっていた…。許してもらえないかもしれませんが、舞衣さんに、一言謝りたい。

 舞衣さんが引退するきっかけになった事件。その下剤の入ったジュースを運んだのは私。

 もちろん、私はそんなことは知らなかった。単に運ばされただけ。だけど…。舞衣さんは怒ってるだろうな……。



 彼が娘さんと連絡を取り、研究所の方も予約を入れてくれました。

 驚くことに、娘さんが指定した場所は、舞衣さんの神社のすぐ近く。そして、研究所も比較的近くにあるとのこと。三つの用事が一緒に済んでしまいます。


 一番の難題は娘さん。きっと、猛烈に反発される…。

 でも、彼の話では、娘さんは物分かりの良い人みたい。それに、娘さんも自分の結婚の許可をもらいたがっているとのこと。それも、詳しいことは分かりませんが、ちょっと複雑な関係のよう…。だから、互いに許すという形で収まるんじゃないかと…。

 更には、私はもう妊娠している…。反対も何もなく、彼がその責任を負って結婚するってことで大丈夫だって…。

 そんな、それじゃあ、彼が悪者になっちゃう!

 体の関係は、私の方から求めたのに!

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