第6話 美雪、決断する。1
翌日…。
日曜日だが、天気は続いて雨。だが、昼前には上がって晴れてくる予報である。
美雪は、いつもより早く家を出て、神社に向かった。
社務所は、まだ開いていない。が、美雪も早紀も合鍵を渡されているので、問題無い。
解錠し、巫女衣裳に着替えて軽く掃除し、お守りを並べる。
そうしておいて、中の部屋の中央に、正座した。
すぐに早紀が出社してくる。そして、キッチリ坐っている美雪の姿を見て、ギョッとした。
「な、何?美雪。やたらと早いわね…。それに…。顔怖い…」
「宮司さんと祥子さんを、これからトッチメマス! 不倫よ、不倫!」
「は~あ? 何、言ってるのよ。あの二人だったら、変則的ではあるけど、夫婦よ…。不倫もへったくれも無いじゃない」
美雪の言っていることの意味が分からないが、とりあえず着替えてからと、早紀は更衣室へ入った。
そして着替え終わって再度美雪が居る部屋へ入り、さあ、理由を
「おはよう。早いのね」
舞衣が部屋に入ると、巫女姿の美雪が部屋中央にキッチリ正座していて、
美雪は、部屋の横隅をチョンチョンと指さす。これは美雪恒例の、坐れの合図。舞衣は訳が分からないが、とりあえず指示通り、おずおずと坐る。
何事かと、部屋の中を
慎也と祥子も、訳が分からないまま、とりあえず合図に従い、美雪の前に正座する。
美雪はフーッと息を一つ吐き出し、口を開いた。
「私、宮司さんと祥子さんを
昨日の午後。お二人は何をしていましたか?」
「「へ?」」
慎也と祥子は、同時に一声発した。
美雪は、目の前の、間の抜けたような顔をしている二人を
「昨日の午後! 駅前のラブホテル!
五階の五〇三号室、とっても豪華な部屋の中!
裸になって、ベッドで二人きり!
神社を早紀一人に任せて、舞衣さんの留守中に!
一体、ナ・ニ・を、していましたか!」
「「は、はあ??」」
慎也と祥子は、間抜け顔を見合わせた。
横で、舞衣がプッと噴き出す。そして、爆笑し始めた。
美雪は、笑っている舞衣に憮然とする。
「な、何ですか舞衣さん。他人事じゃないですよ。これは舞衣さんに対する裏切り行為です! 不貞行為です! 不倫です!」
「み、美雪ちゃん……。あ、あなた。…見たのね。透視の力で、二人がラブホでイタシテいる所……」
舞衣は、込み上げ続ける笑いを抑えながら、何とか言葉にした。
きまり悪そうにしている慎也と祥子を指差して、美雪は舞衣に訴えかける。
「だって、
美雪が振り返って早紀に確認すると…。
早紀は、
「ずっと、私と一緒だった。舞衣さん、手を振って二人を送り出してた」
「えっ? じゃ、じゃあ、舞衣さんに内緒で不倫してたんじゃないの?」
「あのね、美雪ちゃん。俺が、そんな恐ろしい事するはず無いじゃない…」
「それにじゃぞ、ワラワも一応、妻の一人なのじゃ。不倫は無かろう…」
慎也と祥子からの返答に、美雪は、泣き出しそうな顔を舞衣に向けた。
舞衣は、まだ込み上げてくる笑いを
「ご、ごめん……。私の承諾済みよ。二人がラブホテルに行ったのは……。
お別れの日の夜、祥子さんが気を使ってくれて、私と慎也さんを二人きりにしてくれたの。昨日のは、そのお返し。祥子さん、一度ラブホテルに行ってみたかったんだって」
「まったくもって、何を言い出すやら。じゃから、オヌシのいない時が良かったのじゃが、まさか、あの話を盗み聞きしておって、その上、二人の
祥子の
そして、美雪は真っ赤な顔になり……。
「ご、ごめんなさい!」
頭を畳に
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい……」
そのままの格好で、何度も、何度も繰り返す。そこまで謝られると、慎也も祥子も逆に困ってしまう。
舞衣にしても、自分のことを心配してくれたということだ。悪い気はしない。
ひたすら謝り続ける美雪に、後ろに立っていた早紀が、やれやれといった表情をしながら寄り添った。そして、畳に擦り付けている美雪の頭を、強制的に上げさせる。
顔を上げた美雪は、何とも情けない顔をしていた。そして、
「ご、ごめんなさい~!」
と大きく付け加えた。
早紀が、優しく語り掛ける。
「あのね、美雪。私たちは、身内同然の扱いをしてもらっているけど、同然で有って、身内じゃないの。人様の家庭のことに、口出ししちゃダメ」
しょんぼりと
「だけどね。身内になっちゃえば、オッケーなんじゃないかな? だから、これを機会に、もう、身内になっちゃおうよ。好きなんでしょう?宮司さんのこと」
ビクッとして早紀を見る美雪。その顔は、アッと言う間に、真っ赤に再沸騰する。
「人様のセックスまで見ちゃったのよ。ゴメンナサイでは、済まないわよ。もうこれは、身内にならなきゃ、収まりません」
優しい語り掛けとは裏腹の、とんでもない過激発言だ。
美雪は、
「ねえ……。 恵美さんにも言われたでしょ!いい加減に覚悟を決めなさい!」
だんだん、早紀の口調が強くなってくる。
「私はね、宮司さんの
早紀から飛び出した、爆弾発言!
恵美にそそのかされた時も、早紀は確かに自分も一緒に「夫人」になると言っていた。だが、皆、てっきり冗談だと思っていたのだ。
人の心を読むことが出来る舞衣にも、これは全く予想外の発言だった。
考えてみると、舞衣は、早紀の心を読んだことが無かった。
心を読むには親しい間柄でないと難しいし、集中して意識を
早紀の熱い訴えは続く。
「宮司さん! 美雪と私、一緒に妾にしてください! お願いします!」
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