第5話 ラブホテル…。
美雪の家の法事…。これは、田中家自宅で行われた。
田中家は、地元の名家。慎也のところほどでは無いが、かなりの豪邸だ。
午前十時頃。雨の中、依頼してあった菩提寺の住職がやってきた。
傘を差して庭を抜け、縁側の方から座敷に上がった住職…。お茶と「おしぼり」を出したのは美雪だ。
読経が始まり、美雪も一緒に坐って拝む。
そして、その後は食事。最近は料理屋の座敷を借りての食事会というスタイルも多いようだが、仕出しを取って自宅での食事だった。
般若湯(=酒)も、もちろん用意される。祖父が中心になって、住職・親戚も結構飲んでいる。
童顔・幼児体型であろうと、美雪も、もう二十一歳。飲める年齢だが、彼女には、この後、しなければならない「大事なこと」があったので、一滴も飲んでいない。
壁の時計が午後一時を指す。美雪は横目でそれを確認し、「用事があるから」と座敷を抜け出した。
本当は片付けも手伝いたかったが、酔っ払いどもの終了を待っていてはキリが無い…。
ついさっきまで降っていた雨は、有難いことに止んでいた。だが、また降り出してきそうな天気で、美雪は傘を自転車の前
用意してあった双眼鏡を入れたカバンも籠に入れ、ペダルを力一杯漕ぐ。慎也たちは、たぶん自動車だ。一時に出ると言っていたので、向こうの方が早いはず…。
抜け出すのに少し手間取ったこともあり、目的地に美雪が到着したのは一時半を回っていた。
電柱影に隠れて、カバンから出した双眼鏡をホテルに向けた。
美雪は透視の力を獲得し、建物でも何でも、透かして見ることが出来る。その上、視力もかなり良い。
とは言っても距離があるので、肉眼ではハッキリ確認できない恐れがあった。
双眼鏡を用意したのは、そのため…。双眼鏡のレンズを通しても透視可能であることは、既に確認済みである。
レンズ越しに、美雪は、下の階から順番に透視していった。
田舎のホテルのこと。部屋数は、それ程多くない。
一階…、二階…。二人は居ない。
ホテルの部屋は、半分くらいが使用中だ。
シャワーを浴びていたり、裸で並んでベッドに坐っていたり、そして、行為の真っ最中で有ったり…。
皆様、昼間からお盛んなことだ。
そして、こういうことに全く免疫のない美雪は、顔を真っ赤にしながらも、透視いや、盗視を続けた…。
三階…、四階…。やはり居ない。
最後の五階。
………
この五階に居なければ、私の聞き間違いで有ったということかもしれない。
もしかすると、場所が変更されたという可能性も無くはないけれど…。
はたまた、舞衣の予定が変わって、急遽中止にしたということも…。
いや、現場を押さえられなければ、全て私の聞き違いであったということにしよう。
………
美雪は、自分に、そう言い聞かせた。
(どうか、居ませんように!)
祈るような気持ちでの、最初の部屋は…。
明らかに、今までとは違う豪華な部屋。階下の部屋の二室分で一室になっていて、広い。バスルームも立派だ。最上階は、ビップルームということのようだ。
そして、誰かいる!
背が高く、長い黒髪の女性!
ドキッとしたが、振り返った顔は、祥子ではなく別人だった…。
ホッとしながら見た次の部屋は、空室…。
その次の部屋、五〇三号室…。
美雪は、頭の中が白くなるのを感じた。
絶対に見たくない、決定的なモノを見てしまった…。
慎也と祥子…。
二人とも全裸だ。
居るのは、ベッドの上。
祥子が横たわり、慎也が祥子に
淫らな動きを繰り返し、気持ち良さげな恍惚の表情を浮かべる二人…。
………。
美雪は、力なく双眼鏡を目から外した。
ポツポツ…。
雨が再度、降り出した。
すぐ本降りなってくる…。
美雪は傘もささず、
何秒…、いや何分経ったのか…。
美雪は、自分を見る視線に気付いた。通行人が、不審げに眺めて行く…。
当然だ。若い女子が手に双眼鏡を持ち、ずぶ濡れになりながらラブホテルの方を向いて突っ立っているのだから。
美雪は急に恥ずかしくなり、慌てて双眼鏡をカバンへ仕舞った。そのまま傘もささず、自転車を引いてトボトボと家へ帰った。
(明日、あの二人をトッチメル!)
と、決心しながら。
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