第3話 異能力
朝食を終え、慎也と舞衣は着替えて神社へ出社する。
祥子は、片付けと洗濯をしてから神社へ行くことになった。
それまで、食事準備以外の家事は沙織がしていたが、沙織が居なくなったので、家事全般を祥子が引き受けたのだ。
こうなってくると、ますます召使い
今日は日曜日。普通であれば、神社は忙しくなるはず。
だが、どうも朝から天気が怪しい。昨夜は、綺麗な月の出る良い天気であったのに…。
家事を終えた祥子が神社に着くころには、ついに雨が降り出してしまった。
「あ~あ。これは、今日は暇になるな……」
慎也の独り言。だから、答えを期待したモノでもないし、特に誰も答えない。
掃除も終え、お守りの整理も終えた。
雨は本降りとなり、朝の内はポツポツとあった参拝客も完全に途切れてしまった。
時計は、午前十一時を指す。昼には、まだ少し早い。
社務所受付には、バイトの美雪と早紀が、暇そうに坐っている。
聞こえてくるのは、雨の音だけ…。
今日は、別れの翌日。これでは、寂しい気持ちが増幅されてきてしまう。参拝客が多くて忙しいのであれば、それに
舞衣も同じ様なことを考えていたのだろうか、唐突に、祥子に話しかけた。
「ねえ、祥子さん。私たち、祥子さんに、特殊な能力を引き出してもらったじゃない?
あれ、誰にでもあるのよね」
祥子もすることが無くて退屈そうに壁にもたれて坐っていたが、ゆっくり顔を上げて答えた。
「ああ、そうじゃな。人により、種類や強弱は様々だがな」
「じゃあ、受付の二人も、どうかな。もう身内同然だし、特殊能力があると便利だと思うけど」
ニヤッと笑いながら祥子は、またゆっくりと舞衣に
慎也も同感。確かに、その通り。それに、退屈しのぎの、良い余興だ。なんといっても、あの、能力の引き出し方は…。
苦笑しながらも、慎也は受付の二人を呼んだ。
雨は降り続いている。境内に参拝客は見当たらないが、念のため、人がこないか見張っている必要がある。慎也が受付を代わり、美雪と早紀は、中の部屋へ入った。
舞衣からの、二人の能力を引き出したいとの提案。舞衣がテレパシーを、慎也が治癒の異能を使えることは二人とも、既に知っていた。祥子が色々な能力を持っていることも…。
そして、舞衣たちの能力は祥子に引き出してもらったということも、聞いていた。
が、その引き出し方までは、彼女たちは、まだ知らないし、舞衣も意地悪なことに、それについては教えない。
提案という形での話だが、否やはあり得ず、中半、強制的なものだ。すぐさま、二人の能力を引き出すことになった。
まずは、美雪から…。
ニヤつく舞衣を不審視しながらも、自分にどんな能力があるのかと、美雪は期待顔。童顔幼児体型の彼女には、まさに、ドキドキワクワクといった表現がピッタリだ。
指示された通り、直立不動。手の指もまっすぐ
その正面に、祥子が立つ。
美雪は一五〇センチちょっとの、低身長。祥子は逆に、一八〇センチに届こうかというくらい背が高い。祥子は
「ほ~。これは、これは。透視の力じゃな」
「透視?」
美雪は、疑問符を浮かばせ、少し顔を
「うむ、恵美のような、千里も見渡すというわけには行かぬがな。目前のモノは透かして見ることが出来るぞ」
かなり顔を近づけ合いながらの会話。
祥子は、美雪の肩に手を掛ける。
そして!
「ふぐ~!ふ、ふぐ、ふぐ~!」
美雪は、祥子に唇を奪われた…。
目を見開いて
慎也は
祥子とのディープキスから解放された美雪…。
なんとも情けない顔をして、そのまま動かない。
「こりゃ、美雪。もう終わったぞ。試してみよ。透視したいものを見ながら、念ずるだけじゃ」
「そ、そう言われましても…」
美雪はキョロキョロと辺りを見回し、親友である早紀に視線を止めた。が…、
「ダメ!!」
怒鳴りながら、早紀が猛烈な勢いで美雪にダッシュした。そして、美雪の顔を両手で左右からガシッとつかみ、視線をグイッと舞衣に変えさせた。
「なによ~。そんなに怒らなくても良いじゃない…」
美雪は泣き出しそうな顔をしている。
慎也も、何事かと障子を開けて中を
「ご、ゴメン、美雪…。でも、見るなら綺麗なモノを見なさい!!」
美雪は、早紀に顔を固定されたまま、舞衣を注視した。
その舞衣は、早紀の思い掛けない反応に驚き硬直している…。
…少しの沈黙。そして。
「うわ~。やっぱり、舞衣さん綺麗……」
美雪の顔が、徐々に赤くなってくる。
「う、うわ、ここまでいくと、これは、ちょっと…。うわ~」
「な、なによ~。美雪ちゃん!」
このパターンは…。
舞衣は、恵美が能力を得た時のことを思い出していた。
「ゴメンナサイ。いや、ちょっと、というか、かなり中まで見過ぎちゃいました。今、物凄くグログロ状態で…」
「い、いやだ~!」
やはり、予想通りである。そして、さらに…。
「あ、あれ?舞衣さん、便秘気味ですか?」
「いやだ~!止めてってば!」
「ホッホッホ。恵美と同じことを言っておる」
祥子の笑いに、舞衣も苦笑した。
早紀の突飛な行動で微妙な雰囲気になりかけていた空気は、すぐに普通に戻った。
慎也は、そっと障子を閉めた。しかし、冷静な早紀にしては珍しい行動だった。女同士で裸を透視されるのが、そこまで嫌だったのか…。
でも、まあ、透かして見られるのは、気分良いもので無いには違いない。
「さてと、次は、早紀の番じゃな」
祥子は早紀を自分の前に立たせようとするが、早紀は
「わ、私はいいです!あれは、ちょっと勘弁です。NG、NG。絶対ダメ!」
「ダメよ、早紀! ここの身内にさせてもらったんだから、これは義務よ。観念なさい!」
先程、祥子に唇を奪われてしまった美雪…。自分だけでは不公平だとばかり、早紀に後ろから抱き着ついて、無理やり立たせた。
「ちょ、ちょっと、美雪!
え、ホントにダメ。祥子さん許して!お願いします!」
必死の形相で、祥子を拝む早紀。心なしか、顔が青くなってきているようでもある。
そこまでキスが嫌なのかなと、舞衣も首を
異性にされるのではない。同性からなのだ。但しディープキスだが…。
…まあ、嫌かもしれない。
…うん、嫌だろう。
「大丈夫じゃ、早紀。悪いようにはせぬ。まずは、落ち着け!」
祥子が、早紀の顔を見詰めた。
早紀は一七五センチと背が高いので、美雪の時のように屈む不要が無い。が、その祥子。早紀を見詰めたまま、当惑した表情となり、さらに首を
「こ、これは…、何じゃろう…。う~む。分からぬなあ…」
早紀の顔は完全に青くなり、フラッと倒れてしまいそうになって、その場にへたり込んだ。
「ちょっと、早紀、大丈夫?!」
真後ろで早紀を捕まえていた美雪が、驚いて坐りながら早紀の背中を支える。
慎也も
早紀は、意識を失ってはいない。が、唇の色まで青紫になっていた。
「ど、どうしたの!」
慎也の問いに、
「いや、能力を見ようとしただけじゃ。まだ口づけは、しとらんぞ。それに…。能力が分からぬ」
「へ?」
慎也と舞衣は、
分からないとは、どういうことなのか…。今まで、祥子は対面して凝視した相手の潜在能力を即座に見極め、引き出してきたのだ。
頭をポリポリ指で掻きながら、祥子は二人の疑問の視線に答えた。
「力は感じるのじゃ…。それも、かなりの大きな…。じゃが、何の力かなのかが、分からぬ。ワラワも初めてのことで、混乱しとる」
舞衣は、早紀の脇へ移動し、美雪と一緒に早紀を支えながら、再度、祥子に視線を向けた。
「ということは、能力を引き出すことは?」
「出来ぬな。分からぬものを無理に引きずり出して、おかしなことになっても困る。ワラワには、手に負えぬ」
早紀は、だんだん落ち着いてきたようだ。顔に赤みが戻ってきた。少しホッとしたような表情をしているようにも見える。
「大丈夫、早紀? ごめんね」
早紀を無理に立たせた美雪は、申し訳無いことをしまったと反省
真後ろから、心配そうに
「大丈夫。もう平気よ。ゴメンナサイ。実はアノ日なんで、ちょっと不安定になってるだけよ。もう、ホントに平気」
そう言って、ウインクして笑顔を見せた。
が、美雪は、その言い訳を逆に不審に思った。早紀の生理は、ついこの間終わったばかりだったはずなのだ。生理不順ということも、あるかもしれないが…。
早紀の体調を気遣って、慎也は早退を勧めた。…雨の
しかし、早紀は「もう大丈夫」と言って、頑として聞かず、その後も受付に坐り続けた。
一人だけ先に帰れと言っても無駄だと、その日は、いつもより二時間程早く社務所を閉めることにした。
参拝者も居なかったので…。
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