第1話 出産

 九月十五日。

 真夏の盛りほどでは無いにしても、まだまだ暑い日が続いている。


 日が沈み、東の空に赤い満月が輝く中、


「ア~! ウ…。ウ~ン!」


 苦し気な、うめき声が響いていた…。



 賀茂神社の境内の端。拝殿前広場から参道脇の小道を下ってゆくと、少し開けた場所に出る。他には道が無く、拝殿前を経由しないとたどり着けないところだ。

 ここに、一棟の平屋の館があった。

 注連縄しめなわが廻らされ、四隅には篝火かがりびかれている。

 うめき声が聞こえてくるのは、この館内からだった。


 館の、中央の部屋。広さとしては十二畳分くらいであろうか。但し、たたみは敷かれていなく、板間だ。

 室内に居るのは、女性ばかり。数えてみると十人。皆、大変な美人ぞろいで、見た目は十代後半から二十代中半くらいといったところ。

 その中の三人には、頭に二本の角…。鬼だ! 

 だが、だからといって、他の誰も、それを気にしていない。

 それよりも、皆が注目しているのは、部屋の中央。苦し気な声の、発生源の人物だ。

 彼女は、鬼ではない。

 後ろで黒髪を結んだポニーテール。少し垂目気味だが、整った顔。

 天井からるされた白い綱をしっかりつかみ、滝のように脂汗を垂らしながら坐った状態でうめき声を上げていた。


「あ~! 痛いよ~! も、もうダメ~!」


 白の着物を着ているが、着物の前は完全にはだけ、ひかえ目な乳房が苦し気に震える。

 スラリとした白い生脚も全てあらわになり、股を開いた妖艶淫靡な姿…。


「頑張って、母様!」


「恵美殿、しっかり!」


 周りから次々声が掛けられる…。


 このうめいている女性は、尾賀恵美。

 腕も、脚も、引き締まって細めなのに、彼女のお腹は大きく膨らんでいた。


「あ~!だ、だめ、もうダメ! 助けて~、助けてよ~! う、ウ~!」


 恵美の顔が、真っ赤になる。


「頑張って、母様! 泣き言なんて、みっともないよ!」


「そ、そんなこと言ったって、う、ううう……。い、痛いのよ~!」


 恵美のすぐ横で彼女に話しかけているのは、彼女の娘のつき

 その隣に、つきの母違いの姉であるさと

 正面には女鬼の、アマとトヨ。

 後ろで、湯を入れたたらいを準備して待機している女鬼のタミ。

 他は、さとと同じつきの母違いの姉の、あいさちうたえみ

 周りで、それぞれ手に汗握って恵美を注視していた。


「あ、出てきたよ。恵美母様!」


 さとが恵美の股間をのぞき込む。

 恵美の膣口は大きく開き、中から赤ちゃんの頭が徐々に見えてきていた。


「もう少し! いきんで!」


「あ~!! 痛いよ~、ダメ~!」


「母様、しっかりして!」


「ウ~! う、ウ~!」


「出てきた、出てきた!頑張って!」


「フウ~! ウ、ウ~ッ!!」


 真っ赤な顔で必死にいきんでいる恵美の股間へ、女鬼トヨが手を伸ばす。


「あ~! ウウウウウ~!!」


 ………。


「オギャー!」


「やった~、産まれた~!」


「おめでとうございます。恵美殿! 女の子ですよ!」


「バンザーイ!」


 ここは、妖界の月影村。鬼の村…。


 館の外まで聞こえた産声で、心配そうに館の周りに集まってきていた鬼たちも、歓声を上げた。

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