第24話 彼氏契約(実践編)+修学旅行
ほぼ同時になされた返答が重なる。
「パパが全然運動しなかったせいで体力が落ちているから運動一択よ!」
「修学旅行で関わりがあるのは同学年の
「修学旅行はお金が必要だからバイトでしょ? 誰かさんが勝手に使い込んでくれちゃったみたいだし?」
画面のステータスを見ると、確かに所持金は少なかった。
序盤に稼いでいたやつをガチャの課金で使ったからなぁ。
そこまで反映されるのかよ。
運動は論外として、吉川との接触を増やすか、バイトをするか考える。
吉川とは結局、あの後全く会話できていない。
こっちからすぐに声を掛けても大丈夫なものか。
反省が足りてないとか思われないだろうか。
どっちにしろ、後に繋げていくならバイトで金を貯めて修学旅行の土産を他の二人に渡す必要もある。
そう考えると、まずは金か。
バイトを選択すると、平日は日雇いっぽいバイトをしていた。
だが、土日には
どうやら以前言っていた「彼氏契約」に従って、デートをするらしい。
しかしながら、有名人と学校の近くでデートというわけにはいかないため、
「おいおい、何か飛行機に乗ったんだが? いや、交通費というか諸々の経費は向こう持ちだと思うんだけど、これで金貰えるってマジ?」
「あの女、お父様をこれ以上堕落させるつもりなのですか? このままではお父様がまともな就職をしなくなってしまう恐れがあります。大変危険です」
「パパはもう落ちるところまで落ちているから正直この程度は誤差よ、誤差」
娘たちからディスられているが、クレームはこれでお金を払っている側に言ってもらいたい。
俺は上の意向に従って真面目に働いているだけだぞ。
空港を背景に、つばの広い帽子、サングラス、マスクで顔を隠した大岡部先輩が呟く。
『来月までにはパスポート取っておいてほしいわね。まあ、最初に説明しなかった私にも落ち度があるから今回は大目にみてあげるけど』
そのまま秋の北海道を観光し、各地で写真や動画を撮りながら日帰りで再び飛行機に乗る。
「これ日帰りなの? 土日があるんだから一泊二日でゆっくり観光した方がいいんじゃね?」
『観光に来ているんじゃなくて、彼氏契約に基づいてデートの証拠を残すために来ているの。そこはお忘れなく』
これが小イベントでいいのか、と言いたくなるようなイベントが終わった後、所持金に彼氏代が加算される。日雇いの労働より収入高くて思わず笑ってしまった。
「デートの証拠じゃなくて遺伝子を残すために旅行しているんでしょうが! 父さん、さっさと襲っちゃいなさいよ!」
「そういう苦情はゲーム内の俺くんに言ってね」
懐が温まったところで修学旅行へ。
近畿方面の主要観光地を巡るのがうちの伝統となっている。
「謎に好感度の高い吉川だけだから、ちょっくら俺も旅行に行ってきますかね」
「パパ! 修学旅行とかみたいな楽しい行事にしか出席しない不登校学生っぽいマネはやめなさい!」
「労働みたいに苦しいことはゲームに押し付けて旅行にだけは行こうとするなんて、すっかり味を占めてしまいましたね、お父様」
非難の声を浴びつつメニューを呼び出す。
【ゲーム中断】を押して数秒。
目を閉じて初日の大阪城を思い浮かべながら待つこと数十秒。
アレ?
遅くない?
いや、焦り過ぎているだけかもしれない。
などと疑心暗鬼になっていると、釈茶が哀れみの声を掛けてきた。
「父さん、どうやらウチらにお土産も買って来られないのに旅行に行こうなんて舐めた考えが通じるほど甘くないみたいだよ」
恐る恐る目を開けると、画面にメッセージが残されていた。
『そう簡単に世界を反復横跳びできると思われても困ります。もう少し日数が経過してから再度お試しください』
具体的に何日必要なのかまでは書かれていなかったが、そういうものなのだと受け止めるしかない。
世界を移動することはそれほどまでにコストが掛かるものなのだろう。
問題は、次に使えるのがいつになるか、だ。
最悪の場合、二度と使えない可能性もある。
「仕方ないな。まあ、行ったところでアレだ。吉川と
「パパ、もう少し友達つくったら?」
「昔はいたけど俺がゲーム実況にのめり込んでからちょっと疎遠になったの」
友達の少なさを笑われるぐらいなら慣れたものだが、心配されると逆に対処に困る。
それも娘に心配されるとなると。
ゲーム内の禄くんも当然の事ながら友達がいないため、ゲームのテキストにするほどの主要な会話イベントがなかなか発生しない。
画面には淡々と有名観光地の写真が表示されて時間経過が表されている。
修学旅行で男女のイベントと言えばグループごとの自由時間に発生するというイメージがあるかもしれないが、俺と吉川さんは別のグループなので何か起きる余地があまりない。
理由はシンプルに二つ。
グループ決めの時に俺が欠席していたのが一つ。
もう一つは、吉川さんが基本的には地味で周囲の顔色を窺うタイプであるため、交流のある女子オンリーのグループに入ってしまったからだ。
「もしかしてこのゲームでは修学旅行ってそんなに大きなイベントじゃない説が俺の中で組み上げられているのだが」
「お父様、もう少しクラスに馴染んでください」
懇願されるといたたまれなくなる。
しかし時すでに遅し。
何事もなく三泊四日の内の二日が過ぎ去ってしまった。
マジ観光地の画像をずっと見せられているだけなんだが。
放送事故か?
大仏の微笑みすら、この流れでお出しされると神が意図的に嘲笑する目的で配置したもののように思えた。
三日目もガンガン有名観光地の写真で埋め尽くされていく。
「おい、これゲーム的には中身ゼロだけどいいのか制作者ァ!」
「父さん、自分の社交性のなさをゲームになすりつけようとしてもダメだよ。神様が可哀想」
「まあ実際そうなんだけど。俺が向こうに行けていたとしてもあんまり変わりなさそうなんだけど。……おっ?」
完全に有名どころの観光地は閉まっただろ、と言いたくなるような空の明るさになったところで、ようやく会話イベントが発生した。
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