第23話 本当にあった恋の話
手っ取り早く気分を変えるなら、実況に使うゲームを変えてみたらいいかもしれない。
最近発売されたゲームや、同業者がやっているゲーム等を調べる。しかし、どうにもピンと来ない。ゲームを販売しているサイトを色々漁って、人気のものやニッチなものを見て回る。
悪くはないのだが、もっとこう、こいつの実況で天下目指せるぜ、って感じのゲームでもなかった。
実況のクオリティを求めるなら、自分がやり慣れたゲームを選ぶというのもアリだろう。
昔自分がプレイしたものの中で、今やっても配信映えしそうで、しかも気分転換になるようなゲームが何かないものか。
コンシューマーゲームのソフトを漁り、スマホゲームを眺め、自分のパソコンに入っているソフトを見返していく。
やはりピンと来ないと思いつつ画面をスクロールしていると、とある文字列に目が留まった。
【本当にあった恋の話】
「ん? こんなゲーム持っていたか?」
覚えてないってことはかなり前にセールか何かの時に勢いで買って、そのままずっと積まれていたやつなのだろうか。
積んでいるゲームは他にも幾つかあったが、しかしここまで身に覚えがないゲームは今の所これだけだ。
とりあえず起動する。
どこか見覚えのある女性キャラが三人大きく並び、背景としてやっぱり見覚えのある学校やモブキャラが添えられている。
大きく「本恋」と書かれたロゴにも見覚えしかない。
「これ、向こうでやってたゲームじゃねぇか! グーグル大先生に聞いても存在しないと言われた伝説のクソゲーが何故ここに?」
メニューには「つづきから」と「オプション」しか表示されていない。
丸っと黒歴史になる可能性も非常に高いが、これでゲーム実況をすればいいのでは?
……と考えて翌日ゲーム実況を試そうとしたのだが、このゲームを起動しようとしただけでパソコンや動画サイト側に激烈な不調が起きたので数回トライして諦め、別のゲームをすることにした。ある意味では黒歴史だ。
配信終了後、不審に思いながら再度起動する。
今は普通に起動できるんだよな。
配信しているとダメなのか?
実況に使えないことは惜しいが、そろそろコイツに向き合う時期か。
意を決して「つづきから」を選択する。
「またこれか! クソ眩しいんだよ、近所から苦情来るだろうがァ!」
光の奔流の中で顔を庇いながら悪態をついている間に再び意識を刈り取られた。
§ § §
不自然な体勢で寝ていたことに苦情を訴える首をさすりながら周囲を確認する。
俺の部屋より充実した機材。開かない扉と窓。
振り返ればシアタールームみたいな場所と、ソファに座る三人の女子。
「パパ! ちょっとだけ心配したんだからね!」
「お父様、遅いです」
「遅いのは遅いけど、まあ色々分かったし結果オーライじゃない?」
三者三様の反応を見つつ、
「
こちらを指差しながら、
「そりゃ当然、父さんと攻略ヒロインに関する話よ。ゲームには、父さんとメインヒロインの会話の重要な部分ぐらいは表示してくれるわけだし」
「でもお前らそこからゲーム進められなくね?」
俺のいる部屋と三人がいる部屋は見えない壁で分断されている。
あの場所からは過去のログを読み返すことも不可能なはずだ。
「ウチらは触れてないけど、父さんがちゃんと進めてくれてたし。ほら、日付確認したら?」
ゲーム画面を見ると、ゲームを中断した夏休み終盤ではなく、学園祭が終わり、修学旅行が目前となった十月中盤になっていた。
これはどう見ても、俺が向こうの世界でこのゲームのデータをロードした時期と重なっている。
「全然ゲームを中断できてないじゃねーか! 表記がおかしいんだよ!」
クレームを述べつつ、
「ところで、ゲームが進行していたのなら、お前らは何を見たんだ?」
三人がジャンケンをして、勝った
「パパが
「言っておくけどあの伏字の正体、ゲームだったからね? しかも俺のそれって告白じゃないというか、言ってから一分もしないうちに追い出されたからね?」
うんうんと首を振りながら釈茶が発言した。
「父さんが玉砕したことを認められないのは分かるけど、もっと重要なことは
結二が唸りながら釈茶を睨む。
その争いには関わらず、
「菫的には
大体の会話が筒抜けで呆然としてしまった。
というか逆にそれ以外にほとんど会話してないという問題もあるのだが。
いや待て、俺はゲーム実況をしていたからそれなりに喋っていたはずなのだが、どうして俺のゲーム実況の面白かった場面とか誰も言及しないわけ?
割と評判よかった回もあるんだけどなぁ。
首を捻っていると、結二たちの視線が鋭くなった。
「吉川さんとの会話で思い出したんだけど、私、パパがハズレだなんて思ったことないから。それだけは覚えておきなさい」
「そうそう。殴ってでも分からせようかと思ったけどやっぱりそっちに行けなかったから、代わりに引っぱたいてくれたのはスッキリしたわ。あと二回ぐらい欲しかったけど」
「菫の分はバッチリ届いたみたいですね」
吉川さんの言う通り、こいつらは俺を親ガチャのハズレだと思っていないし、憎んでもいないようだった。
俺がこいつらを信用し切れていなかったわけで、そこは深く反省しなければならない。
「その件はまあ、ごめん。これからの攻略で取り戻していく」
攻略といえば、こいつらに聞いておかなければならないことがあったのを思い出した。
「そういやお前らって姉妹だったりしないわけ? その辺の記憶は大丈夫? 例えば俺が桃山を選んだとして、結局誰も生まれませんでした、みたいなことにはならない?」
結二が顔を赤らめつつ、
「それはパパの頑張り次第じゃないの?」
「いや、そういう意味で聞いてないから。この中の二人が大岡部先輩の娘で、もう一人は吉川の娘です、みたいな可能性だったらどうする的な質問」
更に顔を赤くしながら誤魔化すように早口で、
「そ、その心配は無用よ。全然似てないし、こんな特徴がある姉や妹だったら忘れるわけもないから」
こいつらの個性が強いことは同感だ。
他の二人にも尋ねる。
「ウチも一人っ子だった記憶かな」
「そうですね。神が相当完璧に記憶を弄っていたら話は別ですが、菫もこのような姉の記憶はありません。とはいえ、菫としては神がそこまでの細工をしているとは思えません」
「何か理由でもあるのか?」
「はい。お父様が女性を攻略すること自体がハードなのに、そこに更なるギャンブル要素を加えるとゲームとしてのバランスが悪くなり過ぎると思われます」
「その分析はありがたいけど、さりげなくお父さんのことディスってない?」
何のことやら、と小さく首を傾げる菫。
他の二人も、
「今まで割と順調だったから触れなかったけど、客観的に見ると、パパの現状のスペックであれぐらいの美少女を捕まえるのって結構無理ゲーみたいなところあるよね」
「ホントホント。ウチらが生まれたのって奇跡みたいなものだよね~」
くぅ~、辛辣過ぎてお父さん泣いちゃう。
とはいえ、聞くべきことは聞けたのでようやく迷いを断ち切ってゲーム攻略に励めるわけだ。
大きく伸びをして、固まっていた身体をほぐす。
「さて、随分久々な気もするが……運動と勉強とバイト、どれにする?」
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