第25話 夜の顔
『
「解散後にナチュラルにハブられているじゃねーか! 知ってたけど!」
対する吉川さんは特に嘲ることもなく、
『実は私も早めにグループを抜けさせてもらいました。えぇ、せっかくの修学旅行ですから、
「うわ、この地味メガネ仕掛けてきやがった! ついに本性を現したわね!」
「どうしてこんなに好感度がナチュラルに高いのかしら? 中等部時代や高一の時に何かがあったという話も聞かなかったのに……」
「理由はともあれ、
娘たちも急展開を前にして盛り上がっている。
『この辺は、元が花街だから高校生には敷居が高いよな』
『まだ宵の口ですけど、夜の街って雰囲気ですよね。その分、オシャレで大人なお店も多くて素敵ですが』
「陰キャだから日陰が似合うのは間違いないんだけど、俺はこういうネオンや夜の明かりが独特な雰囲気を放ってる空間も大丈夫ってわけじゃないんだよなぁ」
しかし、吉川さんはどこかこういう雰囲気に馴染んでいた。
二つの三つ編みを解き、夜の風に靡かせる。
真面目そうな雰囲気が一変して、大人びた雰囲気を醸し出していた。
『さあ、行きましょう。黒田くん』
「メガネあるからギリギリ分かるけど、メガネなかったらほぼ別人じゃねーか!」
ゲーム内の
『行くって、どこに……?』
ふふっ、と小さく微笑む唇が街灯に照らされて艶やかに映えた。
『夕食探しに決まっているじゃない』
金持ちではない未成年二人が入れる店は少なかったのか少し店探しに苦労しているようだったが、どうにか見つけられたようだった。
『もっと雰囲気のある店がよかったけど、やっぱり価格帯が厳しかったですね』
『ああいう店は、もっと稼げるようになってからだな。でも、ここも悪くないんじゃないか?』
食事をしながら、各々の修学旅行の思い出を語っていく。
ひとしきり話した後、ふと、
『黒田くん、また雰囲気変わりましたよね。夏休みの頃に近くなったような』
「おい、完全に気付かれているんだが? あいつどこで判断してんの?」
「それが分かれば苦労しないわよ!」
菫が小さく唸った。
「変化がバレていることよりも、その変化に対する評価が問題かと」
「つまり?」
「元のお父様と、ゲーム内のお父様のどちらが好まれているか、という問題です」
なるほど。確かにそいつは問題だ。
しかも、今は俺が向こうの世界に行けない。
『でもまあ、ちゃんと元に戻ることもあるって分かったわけだし……』
「これって、ゲームじゃなくて人間としての父さんが評価されているってことじゃん。何したらこんななるの?」
「俺が聞きたいところだ」
何か評価されちゃっててちょっと照れるね~、となっていたところで、いつもより大人びた雰囲気の吉川が画面に近付いてきた。
シュル、と衣擦れの音とともに、ブレザーのリボンを外し、自身の首元に指をかけた立ち絵に切り替わった。
メガネ越しに上目遣いになりながら、
『逆に、今のうちに悪戯しちゃおうかな』
と囁きかけてきた。
「え、お前そういうキャラだっけ?」
吉川との会話を思い出していると、パパ活をやっている釈茶に遺伝子を感じるとか言っていたことを思い出した。
「釈茶ィ! やっぱお前の案件じゃないの?」
しかし、否定的な反応が返ってきた。
「パパ活って身体で誘惑する感じじゃないんで、勘違いしないでもらえます? あくまで今のウチらと父さんみたいに、男女のそういうのを抜きにした関係を維持して楽しむごっこ遊びってのが基本だから」
「でも、方向性としては似たようなもんだろ?」
「とにかく、ウチ個人としても正直そんなに母さんっぽさは感じないんだよね、今のところ」
そこまで言われると強く出られない。
こっちで問答している間に、画面がだんだん桃色空間っぽくなってきている。
『この後、学校のホテルに戻る前に、別の場所で休憩していきませんか?』
「オイイイイィィッ! これ実況に載せちゃって大丈夫なやつですか? 大丈夫ならオッケー出しますけど」
「パパ。娘が見ている前でオッケー出しちゃえるメンタルの強さを見ると、ゲーム実況を続けられた素質がちょっとだけ垣間見えた気がするわ。人間としてはどうかと思うけど」
「? 休憩するだけでしょう? 菫的には何が問題なのか……」
「あ~、菫ちゃん。今は気にしなくてもいいよ」
こちらの混乱を切り裂くように足音の効果音が鳴り、久々に聞いた声が響いた。
『おっと吉川さんのターンはそこまでです。センシティブなシーンに厳しいことに定評があるあなたの幼馴染、
赤、黒、白をパーソナルカラーにしたポニーテールの女子。
両手にジャラジャラと着けたミサンガも目を引く。
変わらぬ姿に少し安心感もあったが、存在自体が謎過ぎるので気を許し過ぎてはいけない。
それにしてもコイツ久々に見たな。
俺が向こうの世界にいた時は俺の視界に入らなかったどころか、写真等にも全く存在した形跡を残していなかった。
吉川も
コイツのおかげで娘の目の前で年齢制限付きのシーンを流しそうになる窮地を救われたわけではあるが、逆にコイツがいなければそういうシーンを見れたはず……ではなく、ギャルゲーとして新たな関係に踏み込めたかもしれなかったのだ。
仕方なく、陽津辺の話題に乗る。
「俺の帰りは誰も心配してねぇ」
「い、いえ、お父様が気を失われた時、菫はとても心配でした!」
「私も心配したんだから!」
「ウチも!」
それはそれでありがたいのだが、俺が気にしているのはクラス内の話なんだよなぁ。
『仕方ないですね。……こっちじゃない方の禄くんはもっと思い切りが良いことを願います』
背筋がゾクりとするような囁きを残し、吉川が立ち去った。
今のは明らかに俺へのメッセージだ。
ゲーム内の禄くんと俺のどっちが決断力に優れているかは難しい問題だが。
「お父様、再びあの世界に行くことがあれば、その時はよろしくお願いします」
見ると、ソファの上に正座して三つ指をついていた。
その上半身を残りの二人が無理矢理起こしながら、
「ダメよ。まだ何かを隠してそうな女じゃない」
「そうそう。アレは父さんの情けない姿をカメラに収めて強請ってくるタイプの女よ、絶対」
微妙にリアリティがあるので少し警戒しておくことにしよう。
実際、夏の前まではほぼ交流がなく、それ以降も娘のことを相談したこと以外はそれほど大きなイベントがなかった女子があそこまで積極的に誘ってくるのは普通じゃない。
画面に目を戻すと、修学旅行のイベントはほぼ終わりかけており、桃山と大岡部先輩にお土産を渡しているシーンが見えた。
それほど重要なイベントというわけでもないようで、会話はなく、立ち絵だけで何となく展開が分かる感じのシーンだった。
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