第11話 「■■■する?」

 新年一発目。

 スケジュールにぶち込んでいた運動が終わった後、小イベントが始まる。


『おっ、だーろくパイセン、時間通り』


 陽キャの明るい声が響き、桃山ももやまの立ち絵が表示された。


「何故に晴れ着⁉ あっ、正月だからか」


 ピンクを基調とした着物に、桃の実や花などを元にした文様を、桃尽くしとは是この事なりと言わんばかりに敷き詰めている。

 普段は主張の激しい胸元も、打って変わって慎ましくなっている。


『なんすか、その反応! [初詣一緒に行こう]ってあれだけ熱心にアピールしてきたのはパイセンの方でしょ!』


 手提げの巾着ポーチからスマホを取り出して、ゲーム内のろくくんからのメッセージらしきものを見せつけてくる。

 そんなことをした記憶は当然ながら全くない。

 というか、クリスマスイブに振られて一週間経たない間にターゲットを乗り換えているのって客観的に見るとヤバいな。

 このイベントがゲームのせいなのか、それとも結二たちがほのめかしていた仕掛けとやらのせいなのか。

 観客席の方を覗くと、結二ゆにが得意そうな表情でソファにふんぞり返っていた。

 ほぼ確定で、あいつが何かをしたらしい。

 何をどうしたのかは知らないが、ともかく干渉できるというのは事実のようだ。


『ごめんごめん。それじゃ行こうか』


 ゲーム内の俺は呑気に受け答えしているが、こっちはそんな落ち着いたテンションではいられない。

 だが、予想に反して身構えていたほど荒れる雰囲気にはならず、ほのぼのとよくある話が展開される。

 おみくじの結果だとか、何を願ったのか、みたいな他愛のない話だ。


「おいおい、拍子抜けだな。この程度で撮れ高を作ったつもりか?」

「これを機に始めていく予定なんですー!」


 もう別れを告げて正月イベントも終了か、と思った矢先、


『あたし、今日暇だしさ、パイセンちで■■■したいな~』

「ぶふっ! 白昼堂々なに言ってんの、この子!」


 久々に見たぞ、この伏字。

 ゲーム内の俺も乗り気ではないようで、


『うち、親がいるからなぁ……』


 桃山がいたずらっぽく囁きかけてきた。


『あたしの親は夜まで出かけている予定だから、うちで■■■する?』

「親がいることを理由にするかしないか決めるってもう完全にアレですよね? やっぱ十八禁シーンがあるって認識でいいんですよね?」

「え? え? 桃山さん、意外と押し強くない? そういうのってもっと順序があると思うっていうか……」


 どうして仕掛けた側の結二がしどろもどろになっているんだ?

 最終的にお前らを生み出すことが目標のゲームだぞ?


『正月に押し掛けるのは気が引けるな』


 気が引けるとかいう次元の問題か?

 絶対違うよな?

 もっと別のところに問題があるよな?

 桃山はまだ諦めない。


『ちょっと準備時間をくれたら外でも全然イケますよ。少し寒いですけど、やってるうちに温かくなるはずだから大丈夫!』


 そう言い切って、むん、と二つの拳を胸元で握り込んだ。


「うわ~、着物で野外。桃山ちゃん大胆だなぁ」


 他人事なのを良いことに、釈茶しゃくてぃがニヤニヤと笑っている。

 ゲーム内の俺くんが驚愕の言い逃れに走った。


『知らない人が見ているところでするの苦手なんだよな』

「苦手で済ますな! つーかやったことないだろテメェ、見栄張るな!」


 これどうやって収拾つけるんだ、と頭を抱えていると、正月にふさわしい紅白と黒が目を引く陽津辺はるつべ有葉あるはが登場した。


『おや、お二人とも奇遇ですね。初詣の帰り、といったところでしょうか』

『有葉ちゃん! だーろくパイセン、あたしとは■■■してくれないんだよ~。幼馴染からも何とか言ってよ~』


 そんなプライベートなことを他の女子……しかも幼馴染に頼るな!

 言われた方も絶対困るから!

 困るよね?


『うーん、困りましたね。禄の家はああ見えて門限厳しいですから、今から準備しても不完全燃焼になると思いますよ』


 何その微妙な困り方。


『えー、一回でいいからやりたいの! ■■■したい! ■■■したい!』

『ワガママ言わないでください。日を改めれば■■■できる日もあると思いますし』


 あるの?

 お前、幼馴染を売ったな?


『やだ! 毎回そうじゃん! いつもそうやって逃げる。あたし、ヨッシーから聞いたもん! だーろくパイセンは■■■が好きだって』

「ヨッシーって、吉川よしかわのことか。アイツ、俺を振った挙句フェイクニュースまで垂れ流しているじゃねーか!」


 釈茶が苦笑する。


「フェイクではないんじゃない?」

「だとしても言っていいこととダメなことぐらいあるでしょ!」

『ヨッシー言ってたもん! だーろくパイセンは毎日■■■しないと生きていけないような人だ、って』

「パパ……」

「お父様、同級生からそのように思われているのならクリスマスの対応も当然の結果だったようです」


 娘たちからの冷ややかな声と視線がゲーミングチェア越しに突き刺さる。

 羞恥心で死にそう。


「……して……殺して……」


 だが、既に死んでいるのである。

 こちらの事情を無視して会話は進む。


『したい、したい! ■■■したい! ■■■、■■■、■■■!』


 陽津辺の眉がハの字になった。


「はぁ。仕方ないですね。こういう手はあまり使いたくないのですが」


 というテキストにならない小さな声が聞こえたかと思うと、わざとらしい声で、


『……おや、あそこにいるのは大岡部おおおかべ先輩ですね。ちょうどいいところに。お~い』


 画面に大岡部先輩の立ち絵が追加される。陽津辺同様、普通の私服だった。


『どうしたの、三人揃って』

『この二人はもう初詣に行ったみたいですが、もし大岡部先輩のお時間が空いているなら四人で行きませんか?』

『いいわね。内部進学とはいえ、確定じゃないから神頼みに行こうと思っていたところなの』


 何かを言おうとした桃山に陽津辺が耳打ちする。


『ここは先輩の顔を立ててくれませんか? この通りですので』

『仕方ないか。今度こそだーろくパイセンと■■■するんだからね!』


 背景が夕方になり、陽津辺の立ち絵だけが表示された。

 他の二人はもう帰ったようである。


『禄は私と■■■している時が一番輝いているんだから、安売りしちゃダメだぞ☆ ばいばーい』


 全く身に覚えが無さ過ぎてゾッとしてしまった。

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