第10話 同級生とのクリスマス
ディスプレイに向き直り、クリスマス会までの日程を勉強と休息だけで埋めた。
「撮れ高、欲しいんじゃないの? ねぇパパ、撮れ高、欲しかったんじゃないの?」
様子見に徹している
「ここでよく分からない暴走をされたらウチとしても困るから、妥当な選択ね。相変わらず撮れ高はないけど」
「うるせぇ。ゲーム内のクリスマスぐらい平和に過ごさせろや。そこからは今まで通りバイトとかもやってくけどさ……多分」
ゲーム内の俺くんが微妙な所持金を振り絞って健気にプレゼントを買っている。
こっちの俺が振る予定だというのに、哀れなやつだ。
二学期が終わり、冬休みになる。そこから秒でクリスマスイブとなった。
会話イベントが発生しない限り勉強描写とかスキップされるのでマジで秒。
ゲーム内の
背景ではちらほらと雪が降っており、イルミネーションが灯っていた。
モブカップルも光に吸い寄せられる羽虫のように集まっている。
どうも野外で待ち合わせらしい。
「イルミネーションを一緒に眺めて、買い物とか食事とかして帰……いや、ワンチャンホテルでワンナイトラブ、みたいな流れか?」
「父さん、娘が見ているってこと忘れてない?」
完全に俺が乗り気だと思っているようだ。
ここで上手く予想を裏切れれば良い撮れ高になるはず。
ワクワクしながらその時が来るのを待っていたが、なかなかイベントが始まらない。
「あれ? 何回かクリックしてるのに反応ないな」
心なしかBGMが悲壮感漂う曲調に思えてきた。
マウスをカチカチさせる音と、音量の小さなピアノ曲、時計の秒針のような効果音だけが響く。
「クリスマスの寒さでフリーズしちゃった感じ? これ電源ぶっこ抜きしても大丈夫なやつ?」
PCを物理的にどうにかしようと手を伸ばしたが、触れなかった。
仕方ないのでマウスを何度も移動させたりクリックしたりしながら回復を祈る。
「おい、この展開もしかしてヤバいのでは? 俺何かやっちゃいました?」
次第に背景の雪の勢いが強くなり、添景のカップルたちも一組、また一組と去っていく。
主人公の疲れと絶望を反映しているのか、画面がだんだん暗くなってゆく。
想定外の事態に驚いているのは娘たちも同様らしかった。
「心の中で失敗しろ、とは思っていたけど、まさかね」
「お父様……そんな……!」
「私が仕掛ける前に、向こうから離れていったっていうの? 苦労して積み重ねていた吉川対策が……」
この事態を前にしては、結二も余裕の笑みを維持できなくなったらしく、焦りの声をあげていた。
ところでその吉川対策って何なんすか?
結二に付け入る隙を与えていたらどんなことが起こったのだろう。
今はそれどころではないが。
完全に暗転した画面に、状況説明のナレーションが表示される。
『その日、待ち合わせ場所に吉川は現れず、後日、体調を崩していた旨のメッセージが届いた』
「はあ? 携帯電話がない時代のゲームじゃないんだからさ、そういうのはもっと早く報告できるんじゃないの? これ絶対わざとだよね? 明らかに悪意があるよね?」
神と吉川に悪態をついていると、
「い、いえ。本当に体調が悪い時は簡単なメッセージを打つ気力もなくなる……と思いたい……です」
しかしながら、消え入るような言葉尻から自信のなさが表れている。
「これも駆け引きの一種ってコト?」
「というかこっちから連絡しなさいよ」
真面目に考察する釈茶とマジレスする結二。
言われてみればその通りだ。
遅刻に厳しすぎるのもアレだが、あまりにも遅れている場合は相手の心配をして然るべき場面でもあった。
しかし、ゲーム内の俺くんはそれをしなかった。
ということは、だ。
「ま、まさか、こいつ、俺の思考を……?」
「パパ、どういうこと?」
「え、ああ、俺にも自分から連絡するという発想がなかったな~って話よ。ははは」
ショックを受けている菫の前で、「吉川は元々こっちから振る予定だったぜ!」とか言えない。
「意図せず撮れ高っぽいシーンになってしまったな。ま、こっからはお前らのお手並み拝見といきますかね。何をする気かは知らないが」
結二が陽キャのノリを取り戻して気合いを入れる。
「想定外の展開だけど、私も実況者の娘。撮れ高ってやつを作ってみますか!」
「ウチも応戦していくしかないみたいね」
菫は沈黙を続けている。
精神的なケアとかした方がいいのかもしれないが、いつか勝ち負けが決まる以上、そっとしておくのも優しさだと思いたい。
再び、バイト、運動、勉強、休息を適当に配置したスケジュールを組んでゲームを進める。
結二たちは何かを企んでいるようだが、あの状況で何ができるというのだろうか。
そうそう上手くいくことなんてないはずだ。
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