裕太くん
僕らの学校の近くにはジドー公園って皆が言ってる、大きな公園があった。
僕には
その頃、僕と裕太くんは一緒によく遊んでいた。
ジドー公園に3DSを持っていった僕らは、妖怪を交換こしながら妖怪図鑑を埋めることにハマっていた。最強の妖怪を倒すために、共闘していたんだ。
裕太くんは度々こんなことを言った。
「お母さんが怖い」
「お姉ちゃんはもっと怖い」
「家に帰ると殴られるんだ」
「お姉ちゃんが殴ってくるんだ」
僕はその話を聞いて、なんだか気の毒に思った。けれど自分にはどうすることも出来ないし、しようともしなかった。裕太くんの家の内情を、僕は深く知ろうとしなかった。
小学6年生に上がった頃、裕太くんのお母さんが死んだ。先生は裕太くんのお母さんの葬式に出席する人として、学級委員を呼んでいた。なんだか、少し、嫌だった。
裕太くんは無口な子供だった。ほっぺたがいつも赤く、沢山の擦り傷みたいな線が浮き出ている子だった。当時の僕は、そこが少しチャーミングだと感じていた。
裕太くんは優しい子供だった。誰にでも緩やかに、穏便に、何かを済ませようとしていたように思えた。人を、少し怖がっているようにも思えた。
そんな裕太くんが気を許してくれたのは、少し嬉しかった。
そんな裕太くんの因縁の相手であるお母さんが死んだ。
それは彼にとって、どんな気持ちを生み出したのだろう。
僕は、次に裕太くんに会うタイミングが楽しみなようで、怖かった。
土日休みに行われたらしい葬式。その間、僕は独りで、ジドー公園で、妖怪を倒していた。
月曜日には裕太くんは登校していた。
皆も奇異なモノを見る目で裕太くんを見ていた。僕もそうだった。
いつも通りの裕太くんと変わらない。いつも通り笑顔がなくて、いつも通り静かで、いつも通り頬っぺたが赤擦り傷な裕太くんだった。
「この前言ってた妖怪、手に入れたよ。交換しよう」
僕は裕太くんにそう言った。
「いいよ、放課後ね」
裕太くんは、ホントにいつも通り、そう答えた。
放課後、裕太くんとジドー公園で妖怪を倒すために共闘した。
その時、僕は気になって裕太くんに尋ねた。
「お母さんのコト、大丈夫なの?」
「……うん、なんか、別にお母さんが居なくても変わらないんだよね」
裕太くんはそう言った。
「お姉ちゃんが怖いんだ、ホントに、殺してやりたいぐらい」
裕太くんはそう付け加えた。
僕はなんだか怖いと思った。自分の中にあった、「この人キケンかも」というレーダーみたいなのが、注意報を鳴らした瞬間だった。
同時に、僕は僕が悲しくなった。
なんで裕太くんにこんな感情を持つんだろう。なんで裕太くんのコトを怖いと思うんだろう。あんなに優しくてチャーミングな裕太くんのことを。
何故僕は裕太くんのことを助けてやれる人間ではないのだろう。何故裕太くんは助けを欲していそうにないんだろう。
そうだ。裕太くんは僕に話すけれど、僕に助けを求めている感じがしないんだ。
「お父さんが怖いんだよね、僕も殺せたら殺したい」
僕は裕太くんに、いつもの話を繰り出した。
いつも通り、いつも通り、僕たちの関係は続いていく。
雑記 虻瀬犬 @kai8tsu
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