第21話 瞳と出逢えたこと



★ 瞳と出逢えたこと




七年もの間、

文也のサロンで築いた

技術、人間関係、全部

ゴミ箱に捨てられてた

美容師道具の様に置いて来た。



良きも悪くも思い出は大きかった。



僕はしばらくの間、

放心して動ける状態ではなかった。

下北沢邸の三人は驚き、

戻る様に急かしたが、

あのどんよりとした空気には

僕はもう二度と

戻ろうとは考えなかった。



文也、ごめん。

僕はもう一歩先に向かいます。



二週間は体を休めた。



まとまった休みが取れないと

絶対やらない様な

下北沢邸の大掃除をしたり、

何冊もアマゾンで

中古の本を買い込み、

読み漁った。



側から見れば

いい身分の生活だった。



元々、あればあるだけ

お金を使ってしまう性格なので、

そろそろヤバいなと思わなければ、

転職活動をしようとしなかった。



が、遂にそのヤバいが来てしまい、

ようやく動き始めた。



三人はちょうどいい塩梅で、

僕に何も言わず、

ほっといてくれた。

それが気持ちが安らぐ

ベストな温度だった。



動き始めると、

僕は自分でも驚くほど早い、

昔からそうだった。


一週間もしないうちに

三件のサロンの内定が決まった。

内弁慶で外面がいいのが役に立つ。



あとは一つ絞り、

二件をどう断るかだ。

もう一度、その三件を

外から見に行こうと思った。



三件とも、家の近所の

下北沢駅周辺だったので、

ジャミーの散歩ついでに

見に向かった。



どの店も憧れるような、

魅力的な外観だった。

二件を隈なく評価し、

一番最後の店に行くと、

中に立っていた女性と

目が合ってしまった。



僕は逸らそうとしたが、

会釈をされてしまい、

思わず僕もぎこちなく

笑顔を作ってしまった。


気を許したのか、

その女性はツカツカと

こっちに向かってきた。


僕は逃げようとしたが、

遅かった。。



可愛いワンちゃんですね〜!


とジャミーにかけより

ジャミーを持ち上げた。


誰似たのか外面の良い

ジャミーはその子の顔中を

舐めまくってしまい、

彼女の頬のピンク色のチークを

奪い去ってしまった。

片方だけピンク色に

なってしまった

彼女は笑いながら僕に、


もしかしてお店、

見に来ました?

えっと。。面接の。。



僕の動揺がわかったのだろう。



あ、ごめんなさい。

私、オーナーが出しっ放しだった

履歴書の写真見ちゃったんです。


悪気は無かったのです。

本当にごめんなさい。


と、彼女は申し訳なさそうに

頭を下げた。



これが、瞳との出逢いだった。

この子、素敵だなと直感が走った。



そして、僕はこのサロンに決めた。



オーナーと最終的に話し合い、

納得のいく形で再就職が決まった。


一週間体を休め、

二○一三年の七月一日から

再スタートを切った。


スタッフは僕と瞳を含め四人。

瞳とは直ぐに仲良くなった。



しっかりしてそうな外見とは

全く正反対で、

恐ろしいくらいの

天然の性格に僕は直ぐに

好きになってしまった。



仕事終わりに、

下北沢の街に飲みにいったり、

ちょっと一人では

ランクの高いカフェに

二人で甘いものを食べに行ったり、

瞳と居ると癒され楽しかった。



瞳はよく僕に、

全然タイプじゃないけど

チヒさんが彼氏だったら

楽しいのになぁって言ってくれた。


八歳も年下の

女の子に言われれば、

さすがのゲイでも

悪い気はしなかった。



瞳には入社して直ぐに

カミングアウトした。

瞳の周りでは僕みたいなゲイは、

新キャラ登場らしく、

面白がってたくさんの

質問攻めにあった。



瞳は龍斗がタイプらしく、

なんでチヒさんみたいな

ジジイが龍斗君は良いのよー!


私の方が絶対可愛いんだ

からって笑いながら言っていた。


瞳の裏表のない

そんな性格が大好きだった。



ただ天然が素なので、

サラッと可愛い事を

言ってのけるので、

瞳は前の職場ではかなり

イジメられていたらしい。



その当時も

前の職場の女の先輩から

呼び出しの電話が鳴っていた。


その度に涙を浮かべながら

僕に助けを求めていた。


僕はその度に

瞳が可愛いから

やっかんでるんだよ、と慰めた。


一度、その女の先輩が

瞳にカットしてほしいと

サロンに来た時があったが、

瞳に対する態度と

僕に対する態度の豹変ぶりに

バックルームで笑ってしまった。


僕がゲイだとは知らないので、

猫撫で声でいっぱい

ボディタッチされたのが

気持ち悪かった。。



瞳には低い声で

カットを指摘したりして。


瞳の天然ぶりっ子より

何倍も計算ぶりっ子だった。


瞳とは妙に馬があった、

笑いのツボや好きなキャラクター、

持ち物も僕が

カッコイイや可愛いと

思うものは大体瞳も好きだった。



三十後半過ぎてから、

こんな親友が出来るとは

思ってなかったので正直嬉しかった。



そして今、

瞳がずっと支えてくれたから、

君がそばで笑って居てくれたから、

今日まで頑張れたよ。



僕はそろそろ行くね、

一歩先に行って、

瞳を迎えるからね。


瞳が結婚したら、

遠くから見守ってるよ。




チヒさんがゲイじゃなかったら、

結婚するー!




そんな瞳を思い出してるよ。



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