第6話 ナオトへ
★ ナオトへ
拓也の面影が少しずつ
現実の世界かどうかもわからなくなり、
あれは夢だったんじゃないかと、
時間の流れの力を恨んだりもした。
あの優しく微笑む顔も
陽炎のように赤に溶け始めていた。
二十九歳の夏、
恒例になった大成会は、
どんどん人数が増え、
時には四十人を超える事もあった。
焼き鳥屋では流石に
スペースが足りず、
隆清がカフェを引退し
クラブ店長に昇格した
二丁目の店を貸し切り、
イベントとして開いていた。
大成会も皆の年齢と共に成長し昇格した。
イベントではイベントらしく歌やダンス、
映像やドラッグクイーンも
全て自分達で役割分担し行っていた。
僕は隆清の無理矢理?
強引な?
勧誘により、
ドラッグクイーンになってしまった。
僕は表には出さなかったつもりだか、
実は嬉しかったし楽しかった。
生き生きしてしまった、
あくまで秘密だが。
そしてまた、大切な人に出逢った。
隆清のクラブで働いていた、ナオトに。
初対面で、
高いハイヒールを履いた
デカイおかま、
悪魔の様なメイク、
金髪のヅラを被ってる
僕を見て、ナオトは
優しく微笑んでくれた。
その微笑んだ顔は、
懐かしい暖かいあの瞳だった。
僕の目から一筋の涙が出てしまった。
酒のせいだろう。
ナオトは
何!どうした!泣いてるの?!
ごめんよ、
つけまのノリが目に
入ってしまったんだよ(笑)
と誤魔化したが、
本当は嬉しかった。
ナオトに会えて。
僕とナオトはまるで
運命に導かれた様に
自然に細胞を活性化させた。
ナオトと一緒にクリニックに
検診にも行った。
ナオトは金沢の出身で
東京に出てグラフィックの専門学校に通い、卒業し社会勉強と称して、
隆清が店長になったクラブで
週末バイトをしていた。
ナオトは子犬のような
人懐っい笑顔で
隆清に痛く可愛いがられていた。
ナオトもそんな隆清を慕い尊敬していた。
今回のイベントでは隆清に
ボランティア的に手伝いを任され
時給が発生しないのに嫌な顔もせず、
僕等の悪ノリに付き合ってくれていた。
それから毎日のように電話をし、
時間さえあればナオトとの
時間を重ね、
幸せな日々を過ごした。
正式に皆んなに交際宣言をするのに、
そう時間はかからなかった。
何よりナオトを可愛いがっていた、
隆清の反応が僕の中では一番恐かったが、
誰よりも、何よりも隆清が喜んでくれた。
隆清の優しさが最大限に沁みた。
ナオトは本当に素晴らしい子だった。
ナオトとの交際の中では
何一つ文句がなかった、
いつも悪いのは僕の方で、
喧嘩をしても、
原因は百パーセント
僕だった。
人との付き合いかたをたくさん学び
成長させてくれたのもナオトだった。
傷付くこと、喜ばすこと、
泣かせること、笑わせること。
人と付き合うということの、
基礎をナオトが築いてくれた。
ナオトと付き合い二年目。
僕はナオトを愛していた。
だが、愛の形は、
恋人に対する愛ではなく、
もっと大きな運命共同体の
ような愛に変わっていた。
いつの頃からか、
性的な目ではナオトを
見れなくなっていた。
僕の都合の良い言い訳に過ぎないが、
ナオトを兄弟のような存在にしか
見れなくなっていた。
もちろんナオトは
僕の事を最愛の恋人と思ってくれていた、
だから性的な部分も僕の事を愛してくれた。
それを打ち明けた時のナオトの
涙は苦しいくらいに僕の胸に
未だに鮮明に記憶に残っている。
愛してる形が違う、愛してるのに。
それは、僕自身も苦しかった。
何故なんだろう。
二年半、一緒に過ごして、
僕等は細胞の分裂を起こした。
そして、
それぞれの未来に
向かって歩き出した。
決して憎んだ別れではない、
これから先にも必ず
ナオトが側にいる人生
だと、確信しての別離だった。
ナオト、
いっぱいいっぱい迷惑かけたね。
僕の事を一番信じてくれる君を、
ずっとずっと心友と思って、
愛してるからね。
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