第4話 オーバー•ザ•レインボー



★ オーバー•ザ•レインボー




東京に戻ってから、

悲しみや苦しみから

逃げるように仕事に打ち込んだ。


毎日、朝早くから終電まで美容師という

僕の表向きの顔だけを見せ、

無心で働き生を失っていた。


家に一人で居ると、

拓也がいっぱいいすぎて

張り裂けそうになり、ダメになる。

少しでもそれから逃げたかった。



その後の、

何回かにわたる検査では

僕の体の中には

拓也のウィルス細胞は

侵入していなかった。


しかし、

愛する人を失ってからも先、

何十年も生きて行くのだろうか?

生きて行けるのか?

いや、生きなきゃいけないんだ。


大久保の家を引っ越しして、

拓也の匂いがするここから

一歩前に進もうと思った。


自分でも驚くほど早かった。

逃げるように新しいアパートを

決めて行動を起こした。


高円寺に家を借りた。

高円寺から、

また始めよう。




それから一年が経ち、

ようやく朝の太陽や

夜道の月を、

綺麗だと思えるようになった。


光希と靖浩がたまに

新宿に連れ出してくれたが、

前のような盛り上がりが出来ないまま

カウンターの隅で一人酒を煽りまくり、


その度に泥酔し、

光希に運ばれながら帰る、

そんな日々の繰り返しだった。


それなりに声をかけてくれる

男達もいたが、

全部拓也と比べてしまい、

嘘の笑顔も面倒になり、

冷たくあしらっていた。


こんな奴に声かけてくれる

優しい人達だったのにね。


本当、反省する。


その頃、

靖浩がよく飲みに行く飲み屋で

出会った若者がいた。


靖浩は僕に会う度に

本当面白い奴だから、

千尋に紹介したい。

といって聞かない。


本当は誰にも会いたくない。


正直な気持ちだった。

が、勝手にスケジュールを

決められてしまった。


こんな気分で行っても

相手に申し訳ないと思いながらも、

指定場所が高円寺の焼き鳥屋で

家から徒歩五分の近所だったので、

半ばあきらめ気分で向かった。


この日の出逢いが、

僕に大きな運命の道を

切り拓いてくれた。


孝清との出逢いだった。




孝清は長身で優しい雰囲気のルックスに

似合わず手首から肩まで墨が入ってる、

少々ファンキーな子だった。

美男子だなと第一印象は思った。


たぶんこの子を熟知してないと、

向こうから歩いて来たら

道を一歩譲ってしまう

神々しい雰囲気のある子だった。


見た目は近寄りがたいオーラがあるが、

とても優しく素直な子だった。


孝清は僕と同じ一人っ子で、

なんとなく理解できる部分が

たくさんあった。


沖縄から東京に出て来て、

東京の服飾の専門学校に入学し、

東京で大きくなるのを夢見ていた。


とにかく笑いの絶えない子で、

孝清の周りには沢山の友達が居た。


人を幸せにできる人って

こういう人なんだなって思ったのは

孝清が初めてだった。


孝清も僕らと同じ細胞だった。


最初は靖浩と二丁目に無理矢理に

引っ張って連れて行ったりした。


二丁目は怖い、恐ろしい街だよ。


が口癖だった(笑)



孝清が風格を表したのは、

当時二丁目にあったカフェバーで

働き始めたのが始まりだった。


自然と周りに人が集まる才能と

芯の強さを兼ね備えた子だったので、

孝清を慕って来る人が増え、

すぐに人気が出た。


中には孝清の事を悪く言う奴らも居たが、

そんな奴らには全然屈しない

強さが孝清にはあった。


僕にはない強さも尊敬もしていた。

孝清は人気が出てもなお、

僕らとの出逢いを大切にしてくれ、

自分が知りあった仲間を

僕らに紹介してくれた。


月に一度、

孝清と最初に出逢った

焼き鳥屋でそんな仲間達と

大成会なるものも開いてくれた。


楽しかった。

毎日がこんなに輝くなんて、

拓也を失ってから考えもしなかった。



自分に笑顔が戻り始めた。

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