先輩のキス
先輩と手を繋いだまま商業施設内にあるゲームセンターに入る。普段はあまりしないのだが、今日は寄り道した。
「クレーンゲームとかメダルゲームすごい数ですね、ここ」
「うん、ここは町一番のゲームセンターだからね。他所からも遊びに来る人多いみたい」
何で遊ぼうかと模索するけど――するまでもないか。ここは貯金箱と悪名高いクレーンゲームにしよう。
「この人形のヤツにします?」
「こっちのフィギュアがいいな」
「えっ! 先輩ってそういうの理解あるんですね」
「うん。まあ、これはゲームのヤツだけど」
「これまた驚きですよ。先輩ってゲームとかするんですね?」
「あはは。今時、ゲーマー女子は珍しくないよ~」
それもそうか。
スマホとかでも遊べる時代だ。
「それで、このフィギュアは……『フォースナイト』のキャラクターですね。って、先輩ってば バトルロイヤルとかやるんですね」
「そうなんだ。パソコンでやってるよ~」
マジか。それは意外すぎるっていうか。
なら、先輩の為にも一肌脱がねば。
俺は財布から五百円を取り出す。
学生にとっては大金だが、先輩の笑顔を見たい。俺は
「取りますよ、絶対に」
「鐘くん、いいの?」
「任せて下さい!」
操作は単純で『←』を押して『↑』とアームを移動させる。景品に輪っかのタグが付いているので、そこに通して引っ張って落とすという、至ってシンプルな手順だ。
慎重にボタンを押し、進めていく。ひとつの操作ミスが命取りとなるからな。タイミングもしっかり見極めていく。ちなみに、俺は動画投稿サイトでよくクレーンゲームの攻略動画を見ていたので、なんとなくテクニックは備わっていた。
こんな所で役に立つとはな。
「……鐘くん、取れそうだよ!」
「ええ、後はこの輪っかに通すだけ!」
絶妙なタイミングを狙い、俺はアームを降下させる。すると、爪がうまく通っていった。決まった!!
アームは移動を始め、フィギュアの箱を揺らす。グラグラ揺れて、次第にバランスを崩した。……いける! いけるぞ。いや、落ちてくれ! だが、少し移動しただけだった。やっぱりそう簡単には落ちないか。
「惜しかったね」
「あと四プレイあります。取りますよ」
「うん」
俺はプレイを続けた。
そして、最後の五回目。
箱はもう落ちそうな位置にある。
このまま押し切ればゲットだ。
アームを巧みに操り、俺は輪っかに通す……そして。
グラグラっと揺れる景品の箱は『ゴトン』と落下口に落ちた。その瞬間、カランカランと盛大な祝福音が鳴り響く。どうやら、そういう仕様らしい。大袈裟だなぁと思いつつ、俺はフィギュアをゲット。
「はい、どうぞ」
「しょ、鐘くん。これ貰っちゃっていいの?」
「ええ。先輩への初めてのプレゼントです」
「……嬉しい」
先輩は嬉しそうに微笑み、景品を抱く。その花のような笑顔が見れて俺は嬉しい。俺も幸福に浸っていると、先輩は手招きした。
「どうしたんです?」
「ちょっと顔を近づけて」
「は、はい……」
顔を近づけると、先輩は俺の頬にキスをしてくれた。あまりに突然で驚いたし、ドキドキもした。でも、何よりも身も心も温かくなった。
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