手作り弁当を“あ~ん”してくれる先輩

 寒々しい屋上。

 この十二月一番の寒さだった。


 だというのに、敢えて屋上を選択したのには先輩なりの意図があるはず。……まあ、大体見当はついていたけど。



「こっちこっち」

「そ、そんな引っ張らなくても……嬉しいですけど」

「鐘くん、顔赤いよ~? まだ温かくなるには早いよ。これから、じっくり温めてあげるんだから」


 景色の良い柵付近までいく。

 あんまり近づくと危ないんだが。

 だが、街並みを一望できる。

 御崎町の冬の、白い景色。


 柵を背に、先輩はスカートを丁寧に押さえ座った。俺もその隣に。すると直ぐに先輩は密着してきた。


「……っ! せ、先輩。近いですよ?」

「これくらい普通だよ、鐘くん」

「ふ、普通なんですか」


 髪の質感とかすげぇ。

 匂いもなんだろうな……フローラルの香りというのか。すげぇ良い匂いだ。


「じゃあ、まずはお弁当ね」

「先輩って料理するんですね」

「これくらい普通だよ~。ちなみに、愛妻弁当」


「マジっすか。俺、旦那?」

「そ。わたしはお嫁さん」


 にこにこ笑って先輩は、お弁当の蓋を開ける。そこには見事な『桜でんぶ』で形成された『ハートマーク』があった。


 ガチの愛妻弁当だ、これ!!



「す、すご……シンプルなそぼろご飯ですけど、美味そう」

「愛情たっぷりだよ」

「こ、これを食べさせてくれるんですか?」

「はい、あ~ん」



 段取りよく先輩は、箸を向けてくる。

 まさか俺の為に練習でもしてきたのか!? そう思えるくらいにスムーズ。……いや、よく見ると手元が僅かに振るえている。緊張してるー!!


 という俺も“あ~ん”なんて初めてだぞ。食べるしか……ないよなあ。



「い、いただきます」



 ぱくっと頂き、先輩の手作り弁当を噛み締める。



「ど、どうかな」

「……美味いです。幸せ過ぎて死にそうです、俺」

「良かった。もっといっぱい食べてね!」


「待って下さい。俺ばっかり食べたら、先輩の分が無くなっちゃいますよ。俺も、先輩に“あ~ん”してあげます」


「……えっ」

「遠慮せず、はい、どうぞ」



 俺は先輩の口元に運ぶ。

 動揺していたが、先輩は思い切ってパクっと食べた。何気に間接キスだな。



「……お、美味しい」

「それは良かった。といっても、作ったのは清瑞先輩ですけど」

「だね。あ~、そうだ、鐘くん。これも」


 バックから水筒を取り出す先輩。

 中身をコップに注ぐと湯気が出た。

 どうやら、温かい飲み物らしい。


「こ、これって味噌汁ですか?」

「そ。寒いこの季節だから、美味しいよ~」

「最高じゃないっすか」



 手も冷たくなってきた頃合いだった。俺はカップをカイロに見立てて手を温めた。そして――ひとくち。


 くぅ~、うめぇ~!

 体があったまるぅ~!!

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