やっぱり先輩は俺を温めてくる

 昼が終わって、先輩は教室へ戻っていった。俺も自分のクラスへ戻り、退屈な授業を受けて時が経つのを待った。



 ~放課後~



 教室を出て三秒もしない内に、パタパタと音を立てて接近してくる美少女。このキレイな黒髪は間違いない。



「清瑞先輩……」

「名前で呼ぶ約束だよ? 美桜みおって呼んで」



 先輩は微かに頬を膨らませ、訂正を求めてきた。名前で呼ぶとかハードルが高い……。それに、俺は『先輩』と呼ぶ方がしっくりきていたし、好きだった。



「まだ勇気が出ないんです。先輩で」

「仕方ないなー。じゃあ、これね」


 手渡して来る白い物体。

 この温かいモノは……ポッカイロか。冬の神器といえば、このカイロなんだが……先輩のスカートのポケット中にあったものか。


「くれるんですか?」

「うん。それで温まってね」

「ありがとうございます」


 歩き出し、昇降口を目指す。

 靴を履き替え、門を抜けた。


「ねえ、鐘くん」

「な、なんですか先輩」

「門を出てたし、もういいよね?」

「もういいとは?」


 先輩は、ニヤリと笑うと恋人のように腕を組んできた。……うわ、感触とか匂いすご……。ふわふわした感触が伝わってくる。匂いは……なんだろう、シャンプーかな。


 とにかく、先輩は温かかった。

 カイロが暑いくらいだ。



「どう~? これで寒くないよね」

「え、ええ。すごくぬくい・・・です」

「良かった。じゃあ、この先の『神威神社』に寄っていこっか」

「神威神社って、あの大きな」

「そそ。お参りしていこうよ」



 どのみち俺の腕は先輩に温められている。逃げられない。



 神威神社は、学校から徒歩で十分の場所。かなり大きく、広く、毎日参拝客がいるほどだ。学問の神様として有名であった。


 そういえば、噂の巫女さんもいるのかな。



 辿り着くと、大きな赤い鳥居が見えてきた。一礼の作法を済ませ、中へ入っていく。



「立派な神社ですね、先輩」

「うん。じゃあ、そこのベンチで待っていて」

「待っていて……?」



 先輩は不思議な事を言う。

 どういう事だ?


 質問する前に、先輩は神社の奥へ消えた。……え? 神社の中って……どういうこと? う~ん……。


 腕組んで考えてしばらく。

 先輩が現れた。


「鐘くん、ごめんね」

「先輩……え! その衣装って」

「うん、巫女装束。わたし、この神威神社の巫女さんやってるの」

「マジっすか。めっちゃ似合ってますよ」

「えへへ……照れるなあ」


 顔を赤くしながらも先輩は、俺の隣に座る。すご……こんな近くで本物の巫女さんを見たのは初めてだ。白衣はくえ緋袴ひばかまがなんだか神々しい。



「それ、俺の為に?」

「……うん。鐘くんに見て欲しかったの」

「う、嬉しいっす……」

「あ~、鐘くん照れてる~。可愛い~♪」


 にっこり笑顔を向けてくれる先輩は、巫女姿で抱きついて揶揄からかってくる。……先輩はやっぱり温かいなぁ。

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