エピローグ

 あの雨の日から、2週間ぐらいが過ぎたのかな。

 あれから結局、私はまた入院することになった。手術を受けたのに、体調が全然良くならない。

 でも、これで良いのかもしれない。

 ここ2週間、頭の中に浮かんでいるのはあの二人の、キス、してるとこだけ。

 ものすごい、楽しそうだった。

 二人とも、笑いあって。

 幸せそうだった。


 気付けば、ポタポタとナニカが、病院服に染みをつくっていく。

 1つ、また1つと、染みをつくっていく。

 次から次へと溢れてくるナニカは、とまらなかった。

 「うぅぅ……うっ。うぅぅっ」

 私の嗚咽だけが、部屋に響いた。苦しくて、苦しくて、仕方がなかった。

 そうだ、見方を変えればいいんだ。

 私は美琴の幸せを願って、別れを選んだんだ。あの日、美琴はとても幸せそうに笑っていた。そう、私の願いが叶ったんだ。


 私は、幸せなんだ。


 私が苦しい思いをしながら願ったことを、神様は叶えてくれた。そして神様は私の願いを叶えてくれただけでなく、叶った所をわざわざ見せてくれたんだ。こんな幸せなことは、ない。


 誰かが私を、哀れだと、バカだと、笑うかもしれない。でも私は、こう思っておかなければ自分が壊れていまいそうで、怖い。それに本当、だから。


 ここ数日、いつもより体調が悪く、何度も生と死の間を行ききしたらしい。私は何も覚えていなかった。

 もうそろそろ、お母さんに会える気がする。

 物心つく頃には、もういなかったお母さん。私が知っているお母さんは、写真と、お父さんから聞いた話によってつくられたものだから、お母さんじゃない。

 そう思うと、なんだか楽しみになってきた。

 この世界に未練はない、けど欲はあった。

 もっと、皆と笑いあっていたかった。

 大学も、ちゃんと卒業したかった。

 もっと、美琴とデートしたかった。

 もっと、美琴に「愛してる」って言いたかったし、言ってほしかった。

 美琴に、手術が始まるまで側にいてほしかった。怖くて、怖くて、たまらなかったのに。「大丈夫だ」って、「きっと成功する」って、言ってほしかったのに。


 意識が遠のいていく……

 お父さんと輝と、そして愛離に、手紙を書いておいたから、きっとこの後のことは大丈夫だと思う。

 お母さん。今、会いに行きます。

 あぁ、最後に、最期に、美琴に伝えたかった言葉があるんだ。

 別れる時、思わず口からでてしまった言葉。美琴にとてつもなく、とてつもなく、伝えたかった言葉。美琴、


 ごめん、愛してる

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ごめん、愛してる。 彼岸キョウカ @higankyouka

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