幸せ
今日は気分が良いので、久しぶりに散歩をしていた。気分とは正反対で、天気はとてつもなく悪い。まるで、これから何か悪いことが起こる前触れのようだった。
私はお気に入りの傘をさしながら、カフェに来ていた。ここはものすごい思い出の場所で、よく美琴と一緒に来ていた。いつもコーヒーをテイクアウトして、あまり人のいない落ちついた道を歩くのが好きだった。
いつものようにブラックコーヒーをテイクアウトし、私は外へ出た。美琴は絶対カフェオレで、美琴はお子さまだねって、からかっていたなぁ。
歩き慣れた道を歩いていると、木が見えてくる。そこだけ木が傘代わりになっていて、木の下の小さな原っぱは濡れていなさそうだった。
あの小さな原っぱは、私の大好きな場所。私はあそこで美琴に告白されたし、その……キス、もした場所。
木に近づいていくにつれ、もう原っぱに誰かいることに気づく。誰だー、大切な場所を先取りしている人は。なんて感じでよく見ると、そこにいる誰かは一人ではなく二人だった。
そして次の瞬間私は、
「え?」
コロンと、持っていたコーヒーと傘を落としてしまう。何がおこったのかわからず棒立ちしてしまう私に、雨は容赦なく降り続ける。
「美琴と、愛離……?」
あの場所にいるのは、美琴と愛離だった。久しぶりに見るので、一瞬誰だかわからなかった。それと私は、別に美琴と愛離が一緒にいたのに驚いたわけじゃない。二人は、
キス、していた。
まるでドラマのような、ロマンチックなキスだった。二人は笑いあい、また、キスをした。
もう何が何だかわからなかった。とりあえずここから逃げようと、振り返って、走る。走って走って走る。でも、地面が濡れているので何度も転ける。それでも私は走る。そしてまた転ける。
もう、立ち上がる気力も体力もなかった。
なんで今日、散歩なんかしたんだろう。天気は、神様は、教えてくれていたのに。バカだ。バカだ、私。
でも、今日が雨の日で良かった。幸い、人もいないし。泣いていても、わからないから。
雨が降る中、私は家へ帰っていた。
ざざ降りの雨は、まるで私の心を表しているようだった。そしてまた、言うことを聞かなかった私へ、神様からの罰のようだった。あの場所に傘もコーヒーも置いてきてしまったので、私はびしょ濡れだった。
「痛たたた……」
さっきのことがよほどショックだったのか、それとも急に走ったからか、少し前から心臓が痛い。手術、受けたのになぁ。
「ただいまー」
と、誰もいない家へ帰ってきた。
「あー、もうどうしよう。ずぶ濡れじゃん」
とりあえず、シャワーを浴びようと靴を脱い——
「ッ!?」
視界が一瞬灰色になったかと思うと、
「あれッ? いきがぁ、はぁっ。あああっ」
心臓が握り潰されるような感覚になり、急に息がしんどくなる。
「はぁっ。……だれかぁ、ッ。たすけてぇっ」
誰かに助けを求めようと頑張るけど、私はここで気を失う。
輝が倒れている私を見つけたのは、その少し後のことだった。
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