不安
手術の時間が、迫っていた。
「紫恩、大丈夫か」
ベッドの上で小刻みに震える私に、幼なじみの
「うん。大丈夫だよ」
と笑ってみせたが、上手く笑顔が作れない。もしかして、美琴の前でもこんな笑顔だったのかな。
実は数日前、心臓が痛くて倒れてしまった。病院に運ばれ検査を受けると、かなり心臓が悪いらしく、すぐに手術を受けないと一週間の命もないと先生に言われた。けど、それには問題が2つあった。
1つ目は手術の成功率。
成功率は8%。100人中8人しか、生き残れない。そんな死に真っすぐ向かっていくようなことはしたくない。けど、同じ病気で死んだお母さんのようになにもしないで死ぬのはやめてくれ、手術を受けてくれ、とお父さんにお願いされた。だから私は、そんなこと言われなくても受けるよ、とは言ったけど正直あまり乗り気ではなかった。
2つ目は愛する人——美琴との関係。
美琴に手術の話をして手術まで一緒にいてもらい、もし、もし私が死んだら。美琴は、どうなるのだろうか。普通の人でも、しばらくは引きずると思う。下手をすれば一生独身なんて——。まぁ、それはないと思うけど、絶対ない、とは言えない。だから私は、別れを選んだ。
美琴に別れよう、と言った時の顔が頭から離れない。美琴は今、どうしてるんだろう。
ガラガラと音がしたので扉に目をやると、お父さんが入ってきた。
「もうすぐ手術だが、元気か」
ものすごい声が震えてる。きっと私より不安なんだろうな。
「うん。元気だよ」
「そ、そうか。あ、輝君も来てくれていたのか」
「こんにちは」
「どうも。どうか紫恩を見守ってやってくれ」
なんて会話を二人がしていると、看護師さんが入ってきた。
「琴崎さん、そろそろ手術の時間ですよ」
なんか色々と持ってきて手術の用意をし始める看護師さんを見ていると、やっぱり緊張してくる。すると輝が私の手をそっと握ってくれた。
「心配しなくても、手術は絶対成功する」
「うん。ありがとう」
小さい時から一緒にいるからか、輝といると安心する。
お父さんは手術のことを何やら話しているようで、目が合うと優しく微笑んでくれた。私も微笑み返すと、またお父さんは看護師さんと話し始めたのだった。
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