第10話 欠陥


辺り一面に広がる壮大な光景。

農村地域ということもあり、見晴らしの良い景色が広がっていた。

その景色は通常であれば、観光地にも慣れるほど美しいだろう。

左右に視線を巡らせると、すぐに凄惨な光景が目に入った。

「これは・・・」

「酷いな」

魔獣によって荒らされ、所々むき出しの土地が顔を覗かせている。さらに、遠くからこちらを警戒する魔獣の視線を感じる。


「お待ちしておりました」

三人は、依頼をしたという貴族の館に足を踏み入れた。領主は丁寧に王子とその護衛を迎え入れる。玄関口で立ったまま、王子が言った。

「確かにかなり魔獣の被害を受けていますね」

「そうなんです。原因は分からず仕舞いで・・・」

「で、シーラの力を借りたいと?」

「は、はい。獣人族であるシーラ様なら獣同士、意思疎通が出来るかと・・・」

「おい、お前―」

領主を威圧するガイアをシーラが制する。

「申し訳ないのですが、私にそのような力はありません。お力になれなくて残念です。その代わりに出来る限り、解決の糸口を探させて頂きますね」

「お、お願いします」


領主の館を出る際に、アルマ王子はガイアを呼んだ。シーラに聞こえないように隠れて話す。

「ガイア、これは尋常じゃない被害だ。何か起こっている」

「えぇ。気を付けます」

「おそらく、君が僕に隠しているものと同じ現象がある。異常な数の魔物はそこから来るはずだ」

「・・・は?」

「君一人が発見したと思わないことだね」

「あんた・・・どこまで知っている?」

ガイアは瞳孔を細め、アルマ王子を威圧した。ガイアの圧をまるで意に介さず、彼は両手を上げ、否定する。

「待ってくれよ。僕は君の味方だ」

「本当だろうな」

「もちろん」

その言葉に、ガイアは雰囲気を少し和らげた。

「シーラより早く、見つけるんだ」

ガイアと王子はいつになく真剣な顔で、お互いの顔を見合わせた。


**


三人はそれぞれ魔獣の出現区域をつぶさに調べていた。


シーラも勘を頼りに、魔獣の巣を見つけるべく考えを巡らせる。

「・・・!」

すると、あることに気付いた。魔獣は一定の方向から、こちらに向かってきていることに。

「よし」

小さい声で呟き、魔獣の向かってくる方向にひた走る。そこに巣があるはずだ。

四足を活かし、風のように森を突っ切る。・・・と、

「ん?」

視界の端に、何重にも重なった黒い画面のような、何かが目に入った。草むらの影に隠されるように存在している。

何故か見過ごすことが出来なくて、来た道を戻る。

「・・・?」

それはジリジリ、と微かな音を立ててわずかに動いていた。

この部分だけ、異質な感じだ。世界が切り離されているような。

・・・ここはゲームの世界。

「!これって、バ―」

思わず触ろうと、しゃがんで手を伸ばす。あと少しで触れ―。


「シーラ」


後ろから勢いよく手首を掴まれた。

(・・・!)

シーラは驚きに身を固めた。・・すでに誰かは見当が付いている。

「びっくりした・・・」

黒い甲冑を装備した、シーラより身長の高い彼。彼女を見下ろすようにして立っており、その表情が分からない。

言い知れない恐怖がシーラを襲った。何故か、振り返ることが躊躇われる。

「ど、どうしたの」

背中の彼に問う。

が、目の前の黒く動く影から目が離せない。

シーラの視線先を見たガイアは小さく舌打ちをする。

「見るな。触るな」

そう言って彼は強引にシーラの腕を引き、彼女を立ち上がらせた。

「え、でも・・・」

シーラの言うことはお構いなしに、ずんずんと歩く。片手で魔獣を切り捨て、ガイアは進む。

その無言の背中は、シーラに発言する機会を与えてくれなかった。


***


ガイアに連行されたまま、領主の館に戻るとアルマ王子がいた。

「シーラ。ガイア―」

笑顔だった彼は、ガイアを見てハッとすると、途端に顔を強張らせた。

「・・・あったのか?」

「はい。でも、見られました」

「触らせてはないだろうな?」

「寸前で止めました」


「・・・何の話?」

意味不明な会話を続ける二人に、シーラは困惑する。

(見られた?触った?)

何を、なんて察しがついている。

(あの黒いジリジリ・・・)

まるで壊れた画面のようだった。


「シーラには関係ないよ」

王子が諭すように言う。

「でも・・・」

「王子が言うならいいだろ。帰るぞ」

「魔獣の件はもう解決できるから、安心して」

その言葉を聞いて、表情の変わらないシーラの尻尾が左右に大きく動く。それは有無を言わさない二人の態度に、僅かな苛立ちが募った証拠だった。


―二人が何かを、シーラから隠しているという疑惑が確信に変わった。

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