第1話 性格把握
「私」は、絶望していた。
シーラになったことへの歓喜から一転、歓喜は嘆きに変わる。
(シーラって・・・・あのガイアに殺されるじゃん!)
サブキャラゆえの悲しいラスト。
アルマ王子ルートで彼と恋に落ちるエリア。それに嫉妬したガイアが、エリアを攫おうとする。それを阻止するのが、「私」、シーラだ。
(ちょっとうわさに聞いたくらいで、プレイしたわけじゃないから・・・。よく知らないんだよね)
「私」はガイアが好きだったため、ガイアルートは速攻で攻略済みだ。が、アルマ王子は攻略途中だった。
ゲームでは、どのルートでも最後に収穫祭が開かれるのは覚えていた。その祭りでは、好きな相手の目の色の宝石を上げるという風習がある。攻略対象はエリアに黄色い宝石を渡す、というラストが共通していたはず。攻略対象は黄色い宝石を持って主人公と落ち合うのだ。
エリアは茶髪に大きな黄色い瞳を持っている。
ちなみにシーラは、エリアより明るい満月のような瞳を持つ少女だ。
おそらく、ガイアがエリアを攫うのはこのラストイベント。それ以外は、彼は常にシーラと行動していたはずだ。
収穫祭の最中に、何故かシーラがガイアから長い間離れる時がある。そこが彼の暴走の起点になる・・・つまり、
(収穫祭が私の最期・・・ってことか)
推しであるシーラの命を出来れば長生きさせてあげたいけれど、できるだろうか。
できれば、推しのガイアにも犯罪者になって欲しくない。
(とりあえず、ガイアの気持ちを消化させてあげる方向にしよう)
ガイアがエリアを好きになるのは仕方がない。これは確定として危惧するべきは、彼がその気持ちをずっと抱え込んで最終的に腐らせてしまうことだ。
が、ふと思いつく。
(・・・あれ。もしかしたら、ガイアルートになることもあり得る?)
シーラの頑張りしだいで、ガイアが報われる運命を作れるだろうか。
(手伝えば、もしかしたら・・・)
そんな一抹の希望が頭を過った。できれば推しは報われて欲しい。
(それができるのは、「私」しかいないよね!)
無理やりガイアルートに持っていくことで、ストーリーを改変できるかもしれない。
(よし)
これで方針が決まった。このルートでガイアの恋が報われるように、「私」は暗躍する。
(アルマ王子ごめんね)
まだ彼はエリアに恋が芽生えていないはずだから、まずはその芽を抹消する。
二人の出会いイベントを妨害するのだ。
***
「あ、シーラ様。お早うございます」
箒を持ったシーラが柔らかくほほ笑む。100メートルはあると思われる外廊下を、箒一本で掃除しようとしている。流石、天然キャラは伊達じゃない。
遠目から見る彼女は可憐で、素朴な茶髪が逆に話しかけやすい雰囲気を醸し出していた。おまけにメイド服が非常に似合っている。
「おはよう。まさか、ここ一人で掃除するつもり?」
「まだお城の設備が分からなくて・・・」
本来ならばここでアルマ王子が登場する予定だった。健気なエリアの姿を見て感心した王子は、天然で純粋な彼女に興味を持ち始める。
―それを阻止する。
「じゃあ、これ使ってみて」
と、シーラはエリアに魔法器具を差し出す。これはゴミを感知して勝手に掃除してくれる便利な機械だ。同時に、今思い出したかの如く伝言を伝えることも忘れずに。
「あ、そういえば。メイド長がエリアを呼んでたよ」
「え!ありがとうございます。この機械も、後でお返ししますね」
頭を下げ、彼女はパタパタと駆けていく。
「・・・よし」
エリアが視界から居なくなると同時に、後ろから大きくなる足音。
「あれ、シーラじゃないか。こんなところで何をしていたんだ?」
「メイド長の伝言をエリアに届けていたんです」
ミッション成功だ。これでアルマ王子はエリアに興味を持つきっかけを失ったのだから。
が、目の前の金髪イケメンから爆弾発言が投下される。
顔を赤らめ、照れながら彼は言った。視線はエリアが去っていったであろう方向を向いている。
「・・・ねぇ、エリアってさ。その・・・交際している人って、いたりするのかな・・・」
「何っで!!」
思わず大声を上げてしまう。私の綿密な計画が彼の一言により、一瞬で塵と化してしまったではないか。
(アルマ王子、エリアに興味津々じゃん!)
頭を抱えた。これはアルマ王子ルートだから仕方ないのだろうか。何もしなくても関係が勝手に発展してしまう。
苦悶するシーラの様子を、アルマ王子は不思議そうに見つめる。
「・・・?」
「え、えーと、私から探りを入れておきます」
「ありがとう。でも、シーラがそんなに取り乱すなんて珍しいね」
「へっ」
「君っていつもこう、なんというか、クールな感じだから。付き合いは浅くないはずだけど、大声を出したのは初めて見たよ」
―私のミスだ。
シーラの台詞を見たことが無いために、普段の彼女の態度が分からなかった。大好きなシーラの死を見たくなくて、アルマ王子ルートを後回しにしていたのが悔やまれた。
「いつもの私、ってどんな感じでしたっけ・・・」
「そうだな。『承知致しました』とか、『畏まりました』とか・・・。思えば、僕の命を受け入れる時くらいしか口を開いてくれなかったね」
「そ、そういえば、そう・・・でしたね」
(クールビューティーだとは思っていたけど、シーラはかなり寡黙な女の子だったんだ・・・)
「でも、僕は今のシーラがいいな。人間味がある」
アルマ王子はそう言ってくれるが、果たしていいのだろうか。
(原作に忠実な性格をした方が、ストーリーに誤差が生まれにくいよね・・・)
「・・・善処します」
手遅れかもしれないが、とりあえずツンと澄ました態度でその場を去った。
***
朝食を取りに、兵舎に向かう。
・・・が、非常に歩きづらい。何故だろう。シーラとすれ違う兵士は皆、緊張して背筋を正すのだ。
その顔に浮かべる表情は、敬意というより―
(・・・恐怖)
シーラを見た一般兵は、彼女を恐れていた。
(どれだけクール美少女だったの?)
シーラという少女が分からない。ビジュアルだけでは判断できない真の性格が、そこにはあった。
「おい、シーラ!」
兵が彼女を避けていく、そんな中響く唯一の凛々しい声。振り返ると、
「ガイア・・・」
私の好きな人は、こんな声をしていたのか。凛とした声質で聞き心地が良い。声までドンピシャだ。
(それにしても、いつ見てもカッコいい容姿。イメージカラーは黒だったっけ。何色にも染まらない彼らしい)
平均より高い背に、漆黒の髪。そして、全てを見透かすような透き通った蒼い瞳。
王子に仕えるために与えられた武具が、彼の地位の高さを暗示していた。
「朝飯、まだなら一緒に食わないか?俺も今来たところなんだ」
「いいよ」
(『もちろん!』と抱き尽きたい所だけど、今はシーラ。冷静になろう)
努めてクールに言った。しかし、これまた何かを間違えてしまったようだ。
目の前のガイアは驚愕していた。
「ならせめて昼飯でも・・・って、は?!」
「・・・何」
「え、お前、今『いい』って言ったのか?」
「い、言ったけど、それが?」
泳ぎそうな目を我慢する。もう何が正解だか分からない。私の中の「クールビューティー」じゃ通用しないのか。
「いや、いいんだ。行こうぜ!」
疑問符を浮かべる私を置き去りにして、ガイアはシーラの手首を掴み歩き始めた。
「え、シーラ様がガイア様の誘いを受け入れたぞ・・・」
「いつも無視なのにな」
「俺に挨拶もしてくれたんだよ・・・」
「あの人に何があったんだ?」
「そういや、いつもより顔つきが優しい気もするな」
ひそひそと背後で話す兵士の声は、悲しいことに彼女の狼の耳が拾ってしまっていた。
(シーラ・・・。それじゃ、クールっていうより冷たい人だよ)
だんだんと、「シーラ」という少女が掴めてきた。
―彼女はきっと、ひどく冷静な人物だったのだろう。
***
シーラの手首を掴んだまま、ガイアは首を傾げる。
「・・・?」
手首を振り払われなかったのだ。通常、シーラはガイアと日常会話をしない上に体に触れる隙さえ見せない。
正直、『触らないで』と乱雑に手を振り払われると思っていた。
―彼女の変化を嬉しく思った。
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