私が好きなキャラは、推しに殺される運命でした。

Neko

エピローグ


―痛い。


朝、起きてから感じる酷い頭痛。

満員電車の中でも、ズキズキと主張する痛みに顔を顰めた。

左手で吊革を掴んだまま右手でスマホを取り出し、とあるアプリを立ち上げる。


(今日は、エリアとアルマ王子の出会い回。そして、何といっても私の推しが二人も登場する大切な話・・・!絶対に読む)


はやる気持ちで、無料チケットを使い【第9話】をタップする。


私の好きなアプリゲームは、「エリア」という名の普通の少女がひょんなことから城に仕えるメイドになり、様々な人物と次第に仲良くなる・・・というストーリーだ。

その中でも、私の最推しは「ガイア」という王子直属の騎士。背が高くて、強くて、カッコいい。黒髪の青い目を持つ彼は、ドンピシャのビジュアルだ。


(ガイアも好きだけど、「アルマ王子」ルートにしか登場しない「シーラ」が一番好きなんだよなぁ)


そう。私がアルマ王子ルートをわざわざ攻略した理由は、シーラだ。

ガイアと並ぶ直属の騎士で、獣人の少女。白い狼のような彼女は、常にクールで主人公を陰から助けてくれる。

人物紹介によると、自分を拾ってくれたアルマ王子に絶対忠誠を誓っているらしい。


(・・・けど、シーラは)


ネタバレを食らってしまったから知っている。彼女は最後に命を落とすのだ。

なんと、王子ルートで推しのガイアが主人公への愛を拗らせ暴走。それに対し命を賭して主人公を守るのが、シーラだ。


(たとえメインキャラじゃないとしても、この最期は悲しすぎる)


しかし、推しであるシーラの登場回には全て目を通しておきたい。


(9話は・・・やっと、アルマ王子が主人公エリアに二人の騎士を紹介する回!)


浮足立って画面をタップし、話を進める。


ズキリ


(あと、ちょっと、あと少しで・・・)


ズキン ズキン


(あ、「僕の騎士を紹介しよう」・・・きたきた)


ズキッ 


(あとワンタップ・・・)


指を画面に置くと同時だった。


ブツッ


意識が消えた。

薄れゆく視界の端、携帯画面にシーラとガイアの画像が浮き上がってきているのが見えた。


***


「僕の騎士を紹介しよう」


目の前の金髪イケメンが私を見ていた。

「こちらが、ガイア」

と、私の隣を手のひらで示す。

「宜しくな」

声の元を、目で辿る。目線を上にすると、

(・・・ひぃっ)

心臓が止まるかと思った。私が夢にまでみた、あの、ガイアがいたからだ。しかもこんなに近くに。彼の笑顔が眩しい。


(これは、まさか、よくあるやつ?私、もしかして「エリア」になっちゃった?)


ゲームの主人公は勝ちだ。誰とでも恋愛が出来るんだから。隣にいるガイアと恋に落ちるのだって、ストーリーから愛された主人公なら楽勝だ。

「宜しくお願いしますね。エリアです」

アルマ王子の横に立つ、目の前の少女が恭しく頭を下げる。

メイド服に身を包んだ可愛らしい18歳の少女。肩辺りに切りそろえた絹のような茶髪を持ち、素朴ながら庇護欲をそそる愛らしい容姿をしている。


(そうそう、この守ってあげたくなる主人公なら、騎士気質のガイアと恋に落ちるのだって楽しょ・・・っは!?)


とんっでもないことに気が付いた。

目の前に主人公が立っている。

憎らしいほどの笑顔で。


(・・・待て。待て待て待て)


と、いうことはまさか・・・。

「こちらが、シーラです」

アルマ王子が示したのは、私。

「シーラ様。宜しくお願いします」

エリアが丁寧に挨拶をする。

「よ、よろしく、お願い、します」

それどころじゃない私は、ぎこちなく返すので精一杯だった。

バクバクとなる心臓がうるさい。


***



「嘘でしょ。シーラだ。このとんでもない美人は、シーラだ!」


鏡の前で狂ったように両手で顔を触る。

鏡の中の黄色い瞳の麗人が、こちらを見つめ返している。

透き通るような白い髪。その髪は肩に触れるか触れないかの短さだ。

そして、その上に生えるフサフサの獣の耳。

その白い耳は狼のように大きく、おそらく聴力も並ではない。

なにより、極めつけは視界に映る・・・ふっさふさの白い尻尾。

(嬉しすぎる・・・)

鏡に映る、「雪のような白」を体現した美しい狼の獣人が私の意のままに動いた。


驚いた。

私は主人公エリアではなく、サブキャラのシーラになったのだ。あの大好きなクールビューティーのシーラに。

(シーラって少し身長が高いんだな。何歳だったっけ・・・。あ、19歳だ)

ガイアと同い年の19歳。エリアより一つ上。ちなみに、アルマ王子は20歳の若さである。


(最高だ・・・。こんな美人に生まれ変わったら何でも出来ちゃうじゃん。それに王の護衛ってことは、ハイスペックなんじゃない?)


私は憧れのシーラになったことで、大切な事を見落としていた。

私がシーラとして生きる上で、最も重要な事実。


―それは、悲惨なシーラの最期だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る