おかしな星見人
女の子の声に、デッドストーンは振り返った。すぐ近くで一人の女の子がガラの悪い連中に絡まれている。
「兄貴ィ、みてくだせぇや。スゲー服っすよこいつ」
「ひらひらしてらぁ。舞踏会にでも行く気か?」
絡んでいる男は二人組で、まだ若い。日焼けしているところを見ると沖仲仕のようだ。男たちはにやけた顔で目の前の少女の服をじろじろと見ていた。
絡まれている方は……何と言えば良いのだろう。とても奇妙な格好をしていた。夜空のように黒い布で仕立てられた服を着込んでいるが、その服ときたら至る所に白いレースの装飾がついており、まるでショーウインドウに並べられたケーキの様だ。肌は陶器の様に白く、小柄な体躯と相まって人形が歩いているようにも見える。
だが、なんと言っても特徴はその顔だった。目の周りは目隠しをするように一枚の布で覆われ、瞳は一切露出していない。覆い布は頭の後ろでリボンの様に縛られ、長い星色の髪を結んでいた。目の覆い布にもレースの飾りはついており、服と対になっているようだった。
「星見人(ほしみびと)……? なんでこんな所に?」
デッドストーンは思わずそうつぶやいた。
星見人は、天体観測に従事する一族だ。天文台に住み、夜空を眺めて暮らしている。生まれた時から星の光を見て育つ彼らの目は驚くほど鋭敏であり、それ故、太陽の下ではこうやって覆い布を巻くことで、目を保護しているのだ。
だが、その姿を人に見せることは殆どない。彼らがわざわざ好き好んで太陽の下に出てくることはほぼありえないからだ。デッドストーンは父親の関係で何度か彼らを目にしたことがあったが、普通であれば日中のこんな場所に星見人がいる事自体が大変奇妙なことなのだ。
奇妙といえば、少女が着ているような服を着た人間を、デッドストーンは一度も見たことがなかったのだが……。
「お嬢ちゃん観光かなー? お兄さん達が案内してやろうか?」
「変な服だなこりゃよ、見たこと無いぜ」
「ちょっとぉ……触らないでよ! この服気に入ってるんだから……!」
絡まれている少女はなんとか男たちを振り切ろうとするが、左右を固められて逃げられない。
「いいじゃん、ちょっとぐらい。俺らがここらのこと教えてやるよ」
「言ってるでしょ! 道に迷っただけだって!」
「この布、流行ってんのぉ? 可愛い顔がよく見えないじゃん。ちょっと取って見せてよ」
「やめてよ! 外の光は!」
男たちはニヤニヤと笑いながら目の覆い布に手をかけた。少女はあわてて布を抑えて抵抗する。
「ちょちょちょっと! 何やってるんですか!」
思わず、デッドストーンは二人の間に割り込んだ。
「星見人は強い光に弱いんですよ!」
「あ? なんだお前? 喧嘩売ってるのか?」
ガラの悪い男たちは突然現れた少年に不快感をあらわにする。
男たちは、デッドストーンよりはるかに体格が良い。デッドストーンは早くも声をかけたことを後悔した。
「いや、別に喧嘩とかそいうわけじゃないですけど……とにかくこの布には意味があるんですよ。だからそういうのは止めてほしいなって……あの、なんですか?その拳は、落ち着きましょうよ、ねぇ、ってうわっ!」
交渉も虚しく、デッドストーンの顔面めがけて拳が飛んでくる。様子見という感じで、本気ではない。慌ててデッドストーンは身を縮めてその拳を避ける。
男の拳はそのままの勢いで、煉瓦の壁にぶつかってゴン!と鈍い音をたてた。
「うおおおおおおお~~~っ!!! 痛ってぇえええ!!」
「兄貴ィ! 大丈夫ですかい!?」
「クソ……てめぇ……よくも、やりやがったなぁあああああ」
「今の僕のせいなの!?」
「うるせーっ!てめーが避けたから悪いんだろボケーっ!」
「そんな、不条理だ~~っ!」
男は目に怒りをたぎらせてデッドストーンに詰め寄る。
「おおい! 君ぃ! 早く逃げるんだ!」
デッドストーンは絡まれていた女の子にそう言い残すと、慌てて身を翻し、脱兎のごとく逃げ出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます