第4話 机の下の影
「おぉ、目が覚めたぞ!」
目が覚めた私は、全身甲冑を着込んだ騎士たちに囲まれていた。
「姫、ご無事か!?気分はどうです!?」
スタンリーが寝台に身を乗り出さんばかりの勢いで問いかけてきた。
寝起きざまに、むさ苦しい。
「何事?敵襲なの?」
見渡せば、彼の他にジャンロベールとオラース、アッシュの姿もある。
「大事な話がございます。心苦しいですが、お着替えは後ほどにこのままお聞き願いたい」
スタンリーの様子はいつになく、真剣だ。
「アッシュ。何故、彼らを入れたの?」
不安な面持ちで一礼してから、彼は答えた。
「彼らは現在、一時的にアマーリエ様を軟禁しているのです。話が終わるまで、どうあっても出て行くことも、まして姫が外出なされることも拒む決意とか・・・」
「・・・穏やかじゃないわね」
よりによって、ジャンロベールとオラースに寝込みを押し掛けられるとは・・・。
「ロロは?」
「ボードワン卿と三姉妹方を連れて、街の代表と会議中です」
そう、その隙を狙ったわけね。
「手短に話して。言うまでもないだろうけれど、病み上がりなの」
私はアッシュにクッションをもらい、寝台の上で上体を起こした。
スタンリーが咳払いをして、意を決しました、というそぶりで話し始める。ジャンロベールとオラースは背後で大人しくしている。今は、スタンリーにお任せのようだ。
「姫、ボードワン卿と決別してもらいたい」
・・・なんと?
「まぁ・・・無理な話よね」
「順を追ってお話しいたします。彼らは、魔剣の力を使い、姫を神へと導く計画を進めているのです」
私は思わず、笑い出した。馬鹿げている。これは、何かのお遊びか?
「あぁ、そう。それは大層、厄介な事ね。脇腹が痛むわ」
スタンリーは、何かを噛み締めるように、ぎゅっと目を瞑り・・・再び話を続けた。
「そう。その通りです。馬鹿げた話しなのです。ですが、彼らは本気です。それも、最近の事ではないのです。これは、貴方が生まれた直後から続けられてきた試みなのです!」
「皆で私を神に育て上げようってこと?気が早い話ね。私は未だ領主にも成れていないわ。その為の教育は受けてきたつもりだけれど、魔剣があれば領主の子どもは皆、神になれるとでも言うの?」
どうしたのだろう?スタンリーは、どこか浮世離れはしていたけれど、貴族として王道派を目指している紳士のはずだ。よもや、後ろの二人が何かを吹き込んだのか?
「姫、神にしようとしているのは、彼らの方です。我らの望みは、クラーレンシュロス伯爵家を立派にお継ぎになり、男爵どもに蹂躙されている領土を奪還していただきたいという事。そしてこの辺境を含め、広大な領土を統べる、父君をも超える存在となっていただきたい。それが願いであり、そのためのお力添えとなれば、尽力を惜しみません。我が剣に誓います!」
「ありがとう。貴方の忠誠に疑いはないわ。けれど、私が神になれたと仮定してみて、貴方に何の不利益があるの?領主より神の方が、好都合なんじゃないかしら?」
スタンリーはゆっくりと被りを振った。
「領主が神になるなど、実現すればそれこそ安泰。民たちの心も一致団結し、皆誇りに思う事でしょう。それが、ボードワンたちの狙いとも言えます。いえ、もっと単純に貴方に神になって欲しい、という忠誠心から発せられている事なのやも」
「解らないわ。だったら、なぜ反対するの?」
「貴方が、これ以上、犠牲になる姿を見たくは無いのです!不詳、私めは幼少期より姫のご成長をお側で見守っておりました。もう、これ以上、領主として、騎士として御身を犠牲に捧げ続けるお姿を見ておれません。これは、ハロルド卿も同じ意見なのです」
ここまで来ると、お笑い草と流すわけにもいかないわよ。
「叔父の名を出す意味を解っているのよね?いいわ、真剣に話しましょう。私は、これまで必要な事だから、血を流してまで父の教えに従ってきたのよ。いくつかの失敗もあった。私の落ち度で、自らの命をも危険にさらす場面もあった。でもね・・・普通の領民の娘ならば、そんな危険な人生じゃなかっただろうけれど、私は、違うの!スタンリー、貴方の心遣いは嬉しいけれど・・・私は、生まれた時から領主の娘で、他に跡取りはいなかった。これ以外の生き方が無いのは、五歳の頃にはすでに理解していたわ。皆に迷惑をかけながらも、これでも私なりに精一杯生きていたつもりなの!私の半生について、ボードワンらの干渉があったとしても、それは必要な事だったのよ。何も不自然じゃないし、理不尽でも無い。人の上に立つ者が、その為に様々なものを犠牲にするのは、当たり前の事なのよ?だから、貴方たち騎士も従ってくれるし、領民たちも敬意を払ってくれるの。それが役割なのよ。私をいつまでも、小さな女の子扱いするのは止めて頂戴!」
一気にまくし立てた。空気が足らずに少し目眩がする。
「父君を失っても尚、呪縛から逃れようとはしませぬか?ご自身の道をご自身で決めることはいたしませぬのか?」
スタンリーは低い声で、噛み締めるように問い返した。
父の死?私は、父の死について、記憶が曖昧だった。
「何を知っているの?父の死について・・・貴方は、知っているのね?」
スタンリーが、私の左右の瞳を交互に見つめた。
「そうか・・・まさかとは思っていたが・・・」
何?何か知っているのだろうか?だが、スタンリーの表情は硬直したままだった。後ろの二人に目線を送る。ジャンロベールとオラースは、私と目線が合うと、困惑したように、隣同士目配せをする。
何?なんなの?
靄がかかったように、曖昧な父の立ち姿が思い浮かぶ。「トーナメントへ出掛ける」と父は突然、私に告げた。「急ぎ支度をし、私も着いてくるように」と。その時、心が浮き上がったのを覚えている。私はその時まで、領外へ出かけた事はなかった。初めての旅、父との社交界への旅立ち。サンチャに支度を手伝ってもらうように頼みながら、私は何が必要なのか散々に頭を悩ませた。やがて父が姿を現し、部屋に山積された荷物を見るや、頭を抱えた。サンチャに用意するものを告げると、支度が整い次第、出立するから急ぐようにと告げた。
馬車に乗った後は、しばらく夢心地だった。遠くにゆっくりと流れゆく山の景色、後方には離れてゆく見慣れた丘陵や森の影。今まで遡ったことのない、川の上流地帯。荒々しい山岳風景と、落ちてしまうのではないかと心配になる崖の道・・・。
頭が、ひどく痛みだした。
「姫、どうなされました?お気をしっかり」
「病み上がりなんだ、今は無理だろう?」
オラースが言う。
スタンリーとアッシュに抱えられて、横になった。
どうしたというのだろう?なんで、思い出せない?
そもそも、どうして、今まで思い出そうともしていない?
頭がどうかしてしまったのだろうか?
「皆様、恐れながら、続きは後ほどにお願いいたします」
アッシュが三人を追い出そうとしている。
「いえ、まだ・・・よ。スタンリー卿、聞きなさい。父の事は後にして、いいかしら?今はとても大切な時です。私たちはまだまだ、パヴァーヌと男爵らの連合に対抗できるほどの力はないわ。騎士たちが一致団結しなければ・・・これからが分水嶺なのです。本当の戦いを目前に、互いに反目し合う事は、この私が許しません」
「御意に」
彼は額に汗を流しながら、それだけ答え、ジャンロベールとオラースと共に退室した。
「・・・姫は生死の境を彷徨ったのですよ。今はもうしばらく、どうかご安静に。しばらくの間、誰の入室も断りますので」
アッシュが、濡れた手拭いで額を拭ってくれた。
「もう一度、スタンリーを呼び戻して。彼だけを」
「え?」
アッシュが戸惑うが、私は目を合わせずにいた。
「・・・承知しました」
ややあって、綺麗に切り揃えた髭の紳士は戻って来た。アッシュに手伝ってもらいながら、再び身を起す。
「貴方は、クリューニとランゴバルトと通じているの?それとも、パヴァーヌ王とかしら?」
彼は慌てて被りを振った。
「滅相もありません!先程の無礼は、平に謝ります。どうか、我が忠義に偽りない事だけは、ご理解ください。御身の事を心より心配しての事なのです」
「どうかしら?私は前言を撤回したい気持ちなのよ。一致団結なんて、言っていられる状態では最早ないのかも知れない」
「そんな事は、ありませぬ!例え戦場で死をお命じいただいても、むしろ甘んじてお受けいたす所存でございます。アマーリエ様のご信頼を損なう振る舞いをしたとなれば、それがせめての騎士の忠義でございます故!」
彼はそう言って、寝台の下にひざまづいた。
谷を伝う秋の風が、ガラス戸を揺らす。
「・・・私が、他の二人を呼ばなかった理由について、何か心当たりがあるのではなくて?」
スタンリーは、眉間に深い皺を寄せる。
「彼らは、新参で私から見れば、素行もよろしくはありません。しかし、戦場での戦いぶりは信頼ができます。ジャンロベールは、その・・・前後不覚で彷徨った経緯もございます故、胆力に欠くところがあるようですが」
「二人は、パヴァーヌ出身ですよね?」
「それを言って仕舞えば、私の生家もかの地でございます。私は若かりし頃、武者修行の旅の折、先代ハインツ様と出会い、騎士として迎ていただきました。子爵家の五男であったため、放蕩も許されるものと、家とは断絶いたしました。比べて彼らの生まれは、貴族でも騎士でもありません。ジャンロベールの家は名家であったようですが、先代に士官を受け入れられた事に、恩義こそあれど、パヴァーヌに通じるような姻戚も立場もないはずです」
なるほど。彼は嘘偽りを嫌うタイプだ。心の清らかさが、人徳に通じると信ずる人種だ。その彼が、疑いを向けている人と行動を共にするはずもない。彼は二人を信用している。
「解ったわ。今の話は忘れて頂戴。もう一つ、私は父の死について、どうやら記憶が無いようなの。考えるだけで、ひどく頭が痛むわ。でも、いつまでも放っておく訳にもいかない。貴方の知っている事を話して頂戴」
スタンリーは顔をあげて、私の目を見つめた。その奥底に、苦悩が見える。
「どう、お話しして良いものか。私の知っている事は、事象だけです。姫のご様子を鑑みるに、真実はもっと別の部分にあるように思えてなりませぬ。私が、聞き及んだ中で、恐らく重要かと思われる事柄だけをお伝えさせていただきます。お耳を・・・」
アッシュが警戒する中、私は彼に耳打ちをされる。
「どうやら、フラタニティが絡んでいるようです」
背中に当てたソファに身を沈めながら、その単語の意味を探る。
「分かったわ。後は自分で解決する。ここでの話は全て忘れて、戦いに専念して頂戴。もし、二人に何を話したのか問われたら、父の死について話したと答えなさい」
「御意のままに」
騎士が退室する。
「アッシュ、今度は、ミュラーを呼んで頂戴」
彼は一瞬躊躇したのち、諦めたように部屋から出て行った。
今まで、休む間もなく戦いの日々であったが、それでもこの程度の会話をする時間ならば、いくらでもあったはずだ。なぜ、今になってスタンリーはこんな事を言い出したのか。このタイミングが、気がかりでならない。彼の話では、発端はすでに私の生まれた瞬間からあったはずだ。この十七年の間、心の内に隠していた想いを、辺境制覇を目前にした今のこの瞬間になって、沸騰させた彼、否、彼らの狙いは何だろう。私の十七年を、よりによって一世一代の大事を成そうという、この瞬間になって懐疑心で満たすとは、随分と意地悪な話じゃないか。晴天の霹靂とは、まさにこの事だ。
次の日から、私は執務に復帰した。
ロロ=ノアを長官として、臨時の行政機関を立ち上げる。私が長く不在にする予定である以上、この街の統治を誰かに一任しても、それが問題なく機能するほどには地均しをしておく必要があった。私が重視しなければならない課題は、徴兵と訓練を如何に反感を持たれずに施行するかだ。その為には、対価として生命と財産の保護、商いの利権を保証する必要がある。もっと肌で感じる恩恵として、神殿の整備とそれに伴う医療体制の充実、治安の維持、水道や街道、フォーラムなどのインフラストラクチャーの整備計画の打ち出し、税の優遇処置、関税の見直しなど、多くの改善案を市民に発布する段取りを進めた。異民族との友愛も、まずはパンを分け与える事から始まるという。父の教えでは「言葉は悪いが、信頼は利得が先んじる」のだ。
先の三人の騎士たちは、それ以来、変わった様子は見受けられなかった。ボードワンとのやりとりも、いつも通りのように、私の目には映る。それもそのはずか・・・今の今まで、彼らの間にある信念の亀裂に私は気づかなかったのだ。それは、何も昨日今日の話ではない。それだけに、相容れない心は根強いのかも知れないが。父の死と、私の神格化にまつわるこの問題を、幾度となくロロに相談しようかと迷ったが、実行には至らなかった。彼女は戦後処理で多忙を極め、寝る間もないほどだったのだ。
否、それは言い訳か。彼女が私の夢に干渉できる事は、先の二つの出来事で実証済みだ。私の内面に至る問題までを彼女に頼っては、じきに私は私でいられなくなるような、漠然とした恐ろしさを感じていた。何もかもを彼女に頼るのは、そろそろ卒業しなければならない。
一日に何度も会議に出席し、情報分析と判断に追われる日々がしばらく続いた。
やっと一息つけたある日、一人で城内を歩いていると、突然ミュラーに腕を掴まれ、柱の影に引き込まれた。
彼とは三週間ぶりになる。彼にして、会えない日々が密かな想いに火をつけたのだろうか。思えば、彼とは旧知の仲、他に同年代の友人のいない私にとっては、唯一の幼馴染と言ってもいい。あぁ、こんなにも長い間、私に恋焦がれていたなんて・・・。
「どうしたの?ニヤついて、気持ち悪い」
百年の恋も冷めようものだ!
「戻ってきたのね。こうやって人気のいない場所に連れ込んだってことは、成果があったということね?どうだったの?」
彼には、スタンリーが話していた事を打ち明け、フラタニティという組織についての調査を依頼していた。話を聞いた彼は、まず初めに、自分だけ蚊帳の外だった事にショックを受けていた。きっと、反対派と言っても、実のところ彼らも眉唾と感じていたに違いない。ミュラーに知れれば、打ち解けている私に彼が話さないわけもない。ともすれば、私は父に相談するだろう。父の目が黒いうちは、騎士たちが独自の派閥を形成しているような事態を隠そうとする気持ちも判る。何はともあれ、その疎外感が、彼のやる気に火を付けた。
「ハイランドの国立図書館まで行く羽目になったよ。そこで、ようやく見つけた。あと道中色々考えて、思い出すこともあったんだ」
「道理で、あれから全く姿を見ないわけね。ご苦労様、じゃぁ、思い出したことから教えて」
「調べたことから、順を追って・・・」
「思い出した事は、何?」
「そうやって、すぐ結論から得ようとして。随分と男気が増したもんだよ。お察しの通り、思い出した方は“確信“だ。何度か、クラーレンシュロス城でフラタニティの関係者を見かけたことがあったんだ。君も何度か会っていてもおかしくはないはずだよ」
フラタニティ・・・城・・・父に面会を求める黒いフードの男。すらっとした長身で、物静かな・・・。
「確か・・・父は学会の調査員と言っていたわ」
「フラタニティの表看板は、古代語魔術研究学会だ」
「表看板ってことは、裏があるってことね?」
「そうやって、穿つなよ。じゃぁ、ハイランド国立図書館のメンバーズルームで閲覧できた書物の内容を話すよ。これは、相当やばい橋を渡ったんだから、一語一句聞き漏らさないように、ありがたく噛み締めてくれよ」
いいから早く話せ。
「古代語魔術研究学会は、貴族のみ入会が許されたサロンなんだ。部門の貴族が騎士たちとトーナメントで懇親を深めるように、知識を誇る貴族たちが、魔術の研究成果をサロンで発表しあう場なんだ。優れた研究成果には、褒賞が出て会誌に掲載される」
何だか、喧嘩に弱い者たちの傷の舐め合いの場に聞こえるのだけれど。
「けれど、それはあくまで表の姿。大多数のメンバーには知らされていない、裏の顔があるんだ。その活動の目的は、なんと・・・魔剣の鋳造だ!」
「嘘っぽいわね。今でも魔剣を作れるの?そんな事をすれば、神殿と対立しそうだけれど」
魔剣といえば、その最終目標はボードワンでなくても、神格化と相場が決まっている。そんなものを大量生産されれば、神殿の権威も傷がつくだろう。
「その通り、反目しているから、どこで誰が、どのように造っているのかは、誰も知らない」
「ミュラー、それってオカルトじゃない?」
「陰謀論的な出まかせだってこと?そうじゃないんだ。確かに存在するんだ。魔剣には、銘があるのは知ってるよね?彼らの造った魔剣にも銘がある。でも、それらは仰々しい名前じゃなくて、そのほとんどがシリアルナンバーでしかない」
「あ、ナンバーズ?」
「そう。聞いたことあるだろ?どれも力の弱い魔剣だけれど、古代文字で番号だけふってあるんだ。そして、これがその目録の写本だ!」
小脇に抱えていた、羊皮紙の巻物を取り出して広げた。
「随分、あるのね・・・」
「二百本近くある。どれも、この百年の間に造られたものばかりだ。そして、ここを見て」
「あ!・・・なんて、読めないわよ。馬鹿にしてるの?」
「そうか。ごめん、古代語なんだ。彼らの公式言語は、古代語と決まっているらしい。シリアルナンバーと、所有者のリストだよ。この目録の日付は、十二年前になっている。彼らは、何の目的か不明だけれど、所有者まで管理しているんだ。そして、ここにあるのは、ナンバーじゃなくて、ちゃんとした名。オースブレイド:ハインツ・クラーレンシュロスとある」
「父の名だわ・・・」
「そう。そして、オースブイレドは西方語で言い換えれば、アインスクリンゲとなる」
・・・どういう事だろう?
「これが、単なる覚書ではなくて、すべて学会が製造した魔剣の正式な目録だとすれば、君の剣は、ここ百年のうちに造られたフラタニティメイドの銘柄ということになる」
「箔が落ちたわね・・・」
「いや、まぁ、古代の遺物じゃないとなれば、そうかも知れないけれど・・・でも君の魔剣だけ銘が他と違うのにも、意味があると思うんだ」
確かに、言われてみれば・・・。剣の形状、意匠には流行り廃りというか、時代ごとに変化がある。アインスクリンゲの菱形のリカッソと、グリップの革と針金のツートーン加工は、古代の魔剣では見られない製法だとは気づいていたが・・・。
「裏のメンバーについての情報は、無いの?」
羊皮紙を丸めて、私に預けながらミュラーは口を尖らせた。
「多分、それを知ったら、もっとやばい事になる」
私は、思わず笑い出した。おかしな事を言う。私たちの命を狙っている人なんて、すでにクリューニ、ランゴバルド連合だけで、二万人を下らないというのに。
「何?笑うような話じゃないよ?」
「いえ、そうね。ごめんなさい。でも、貴方がどうにも、楽しそうに話すから」
「ちょっと、僕は見た目がこれだから、あんまり怪しまれないけれど、それでも学会の会員証を偽造したり、公文書別館に入るための紹介状を偽造したり、とんでもない危険を冒したんだから、そこは正しく評価して欲しいな」
「貴方なら、立派な怪盗になれるわ。狙うのは、そう。高価な古美術品といったところね」
そう言うと、ミュラーも悪くない、と言って笑い出した。
解ったようで、解らないまま。ただ、叔父を含むスタンリー側の神格反対派に対し、ボードワンが筆頭と言う神格推進派の確執は、フラタニティという第三者の関係が明らかになる事で、より一層引き返せない状況であると推測できた。また、アッシュを通じて、従者たちのネットワークから、反対派と推進派、中立派と無関係の陣容も目星が付いていた。どのような形にしろ、反対派と推進派、その両者の対立が表面化するような事態は避けねばならない。私が、それに対処するのだ。その中心にいるのは、他ならぬ私自身なのだから。
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