第2話 到来!外宇宙からの来訪者

ソラ 2028/10/14朝


地球上が大混乱に陥り、全人類の脳裏に死がちらついた昨晩から一夜明けた。結論から言えば、衝突は起きなかった。だが依然として緊迫が続いている。その原因は今もうるさいほどにニュースで流れている。


昨晩、結局俺たちは避難をしなかった。それは父さんが「無駄なことはやめよう」と言ったからだが、後から学校でいろんな奴から話を聞いて俺はその言葉の意味を理解した。


例えば、深夜1時に家を出た大介一家はまず駅前の地下デパートに向う。だが当然のことながらデパート内は大混乱。人が集まりすぎて入口に近づくことすらできなかった。ならばと向かった近所の避難所、市立第二小学校の門をくぐったころには時計の針が1を回っていた。中には泣き叫ぶ人や喧嘩を始める人だっていて、まさに終末といった感じだったらしい。


その後いろいろあったが、結局シェルターや地下に入る事なんてできるわけもなく、隕石が降ってくるというのに野ざらしの避難所にいても仕方ないかということで深夜三時には諦めて家に戻ったとのことだ。


ニュースによると、隕石は1時くらいから減速をはじめ、いつの間にかテレビの前で寝てしまった俺が起きた時には無傷の街並みが朝日をいっぱいに浴びていた。


減速を続けた隕石は地球-月間のラグランジュポイントにて相対的に停止。そのころには隕石とやらの観測写真がテレビにでて、誰もが確信しただろう。


これは、異星人の宇宙船だ、と。



翌日___


キーンコーンカーンコーン

「あーあ、まだ四限も残ってるのか。にしても一昨日あんな大事件があったんだぜ?さすがにまだ休校でもいいと思うんだけどな。」


「あったどころか現在進行形で大ニュースだよ。はまだ地球と月の間にピッタリ止まってるらしいよ。」


「侵略かなあ?」


「はは、サラッと怖いこと言うなよ」


俺は口では笑い飛ばしたが、地球に宇宙人が来るような創作作品で大抵何が起こるか考えると少し怖くなった。


「でも、もし宇宙人が乗ってたらわざわざ地球まで何をしに来たんだろう?」


「「うーん」」


その時、教室前方のドアが勢いよく開かれた。


「みんな、今日の午後は休講だ。すぐ帰る準備をしてくれ。」


昨日とはまた別の柄のアロハシャツを着た先生が突然そんなことを言い放つ。


「先生、なんかあったんですか?」


「まあニュースでも見ればすぐわかることだからいうが、政府が緊急事態宣言を出したらしい。」


「キンキュージタイセンゲン?なんすかそれ」


「いや先生もよくわからん。もしかしたら明日も休校になるかもしれんから、学校からのメールに注意するように。解散!」



校門を出ると、外は物物しい空気に包まれていた。しょっちゅうパトカーがサイレンを流しながら爆走している。


「おい見ろ、きっとこれだぜ」


そういって五郎が見せてくるスマホの画面に映っていたのは、巨大な宇宙船とそして背景に青い空だった。


「随分と後ろが明るいわね」


有紀が画面を見て疑問を発する。


「どうやら地球に降りてきてるみたいだ」


背景が漆黒でないのはそのせいだろう。


「っていうかここに映ってるの、街じゃないか?!」


「聞いて驚くな、奴らが降りてきたのは東京湾だ。」


「なっ、、!」


「とはいっても、どうやら元のデカい船から分かれた一隻らしい。」


つまり、地球と月のラグランジュポイントまで来た宇宙船は大気圏に入るまでに分離、そのうちの一隻が日本に降下して残りは世界のどこかに降りたということだ。


「これから、どうなるんだろうな」


大介は不安そうに言った。


「こっちが変なことしなければ、戦争になったりはしないと思うけどなあ」


俺は割と楽観的に返す。


「いやいや、映画じゃお約束の展開があるじゃないか」


「そうだけど、、もし侵略が目的ならとっくの昔に仕掛けてきてもおかしくはないと思わないか?」


「確かに。ソラの言うように、奴らが攻撃的である可能性は低い。」


五郎は続ける。


「逆に、向こうが平和的に事を構えようとしているならこっちの大都市を攻撃なんて絶対にありえないだろう。」


「でも、そんなことないと信じたいけど、こっちから仕掛けてしまったら、、」


「これは俺の希望的観測だが、もしそうなっても戦争にはならないとおもう。」


俺は今考え付いたことを口にする。


「考えても見てよ。あれだけの大きさの宇宙船、きっと僕らより何百年も進んでる。そんな彼らからしたら地球人はいわば未開の星の原始人。どんなことをされるかわからない、それくらいの想定をしていると思うんだ。」


「それはそうかもしれないわね、現にそういう作り話があるんだし」


「それでもこの星に降りてきた。それも大都市の真横だなんてこっちを刺激しすぎてる。つまり、こっちがどんな攻撃をしても防ぎきる自信があるんだよ。」


そう。少なくとも積極的な攻撃姿勢ではないはず。だとすれば他の目的のために船を下した。おそらくは、


「脅迫、みせつけ、砲艦外交ってやつか」


「まあ脅迫とまでは言わなくても、向こうが存在をアピールするには手っ取り早いわな」


「待て待て。それを言うなら、あおるだけあおって先にこっちから手を出させようとしているって線もあるぞ?」


大介は反論する。


「確かに、、言われてみれば」


「いや、そんなまどろっこしいことするかしら?向こうの政治事情によってはあるかもしれないけど、、」


「逆に言えば、一方的侵略っていう体裁を気にする国なら交渉によってはまだやりようがあると思うんだよな。」


「にしても、宇宙船かあ。直接見てみたいなあ」


やはりSFが好きな人間としてはこういう展開はたまらないと思ってしまう。


「俺もだ」


「五郎の家はシンデン重工だろう?本当は宇宙船くらい隠し持ってるんじゃないのか?」


俺は冗談めかしていう。そう、五郎のフルネームは真田しんでん五郎。実家はシンデン財閥で死ぬほど大金持ちだ。五郎自身、普通の学校に通っているが本人曰くいつだって、今だって護衛兼監視役がいるらしい。


「ははは、いくらなんでもそこまで余裕はないさ。潜水艦は持ってるがな。でも今頃あの宇宙船で親父たちは大忙しだろうな」


、、聞かなかったことにしよう。


「あ、雨が降ってきたわね」


「やっぱりか。こんなこともあろうかと思って車を呼んでおいた。三人とも、今日はうちに来ないか?みんなで遊びながらニュースでも見よう」


「いいね、お邪魔させてもらうよ」


五分もすると黒塗りの高級車が俺たちの前に停車した。




数時間前______

日本国防衛省宇宙作戦隊一室

JST:2028/10/15-10:00


が動き始めました!!」


「何?」


室長はメインモニターに目を移した。確かに、位置を示す光点がわずかに動いている。だが、何よりも共学したのはリアルタイムの衛星による撮影静止画像のほうだった。


一分おきに送られてくる観測画像によると、今表示されている対象物は明らかに前の画像よりことなった形状をしている。


「こ、光点が分離してます!」


「ああ、こっちを見てみろ。」


さらに一分後の画像に映っていたのは巨大な船が7つに分かれた姿だ。船体の中心部は残り、外装が六つ離脱した形となる。


じきに、六つの船は直径200m、長さ1300mの円柱に近い形状と判明した。


「これより中心の物体をアルファ。離脱した六つを画像の時計回りにベータ1からベータ6と呼称する。」


「了解。アルファ、減速力増加。現在軌道速度1.13km/s、高度31万キロ。予想到達時刻は一一三〇ヒトヒトサンマル


「室長、ベータ1から6の軌道が変化していきます。」


「すべてのアルファ、ベータともに軌道を予測しろ。地上に降りることも想定にいれる」


室長の指示から一時間後、おおよその行き先が判明する。その結果は宇宙作戦隊どころか防衛省や首相官邸、関連省庁を唸らせるのには十分すぎるものだった。


アルファ軌道予測

高度500-1200km楕円軌道

ベータ軌道予測

高度400-500km楕円軌道

ただし地上降下の可能性あり。その場合

ベータ1、アメリカニューヨーク

ベータ2、イングランドロンドン

ベータ3、インドニューデリー

ベータ4、中国上海

ベータ5、日本東京

ベータ6、オーストラリアシドニー

以上の地点に到達すると思われる。


そして、悪いほうの予想が的中した。



日本国首相官邸

JST:2028/10/15-12:00


「どうやらは浦賀水道上空で完全に停止しました。」


「浦賀水道、か。こんな偶然もあるもんだな」


時に、西暦1852年。鎖国状態だった日本にアメリカのペリー提督率いる艦隊が訪れた。彼らは東京湾を囲む三崎半島と房総半島のはざま、浦賀水道に現れたのだった。奇しくもその176年後、同じ地に今度は宇宙からの来訪者が降下したのだ。


「200年前と同じように、戦闘が起きることなく交渉にこぎつければいいのですが。」


「とにかく、コミュニケーションだ。当時はオランダ語を介した翻訳対話ができたが、今我々に必要なのは相手の意思疎通手段を得る事。いや、そもそも相手が生物なのかもわかっていない。とにかく情報を集める。JAXA、防衛省、各研究所、企業、大学、その他さまざまな組織が互いに協力する必要がある。外務省は諸外国との連携を探ってくれ、もちろん地球上のな」


「「「了解しました」」」

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